第5話
僕は気が動転していた。
「や、やっぱり」
「そう、ジョバンナよ! ここではフアナって呼ばれてるけどね」
「ぼ、僕の勘は間違ってなかったんだ……。会えてうれしいよ、ジョバ――」
僕が大声で幼馴染みの名を呼びそうになったのを、彼女は自身の人差し指を唇に押し付けて抑える。
「密会がバレちゃうでしょ? あの時みたいにまた叱られたいの?」
「ご、ごめん。嬉しくてつい」
ジョバンナがくすくす笑う。
「七年ぶりだね」
「だね。でも、こんな形で会えるなんて思ってなかったよ」
「私だって、妃になってあなたと対面するなんて考えたこともなかった」
僕は思った。大人になっても幼馴染の、友達だった頃のジョバンナは生きていたんだって。
「ところでさ、クテシアス」
「何?」
「謁見の間で会った時、私が誰だか分かってた?」
「……ごめん、分からなかった」
「ええ? なんか悲しいなぁ」
「いや、ほら、村にいた時の君はまだ化粧もしてなかったし、体も小さかったじゃない? それに七年も会ってなかったから、その」
「面影がなかったってこと?」
「いや、薄々感づいてはいたんだ」
「へえ?」
「つり目なところとか」
「うん」
「男勝りな雰囲気とか」
「ふうん」
「黙ってるのがじれったくなると足をもじもじさせる癖とか」
「へえ、あなた。小さい時に私のそんなところを見てたんだ」
「ご、ごめん。怒ってる?」
「ううん、逆。嬉しい」
「え?」
「だってさ」
そう言うと、彼女は僕をベッドに押し倒した。
「好きだった男の子がこうして私の前に、しかも男前になって現れたんだもの」
胸の高鳴りを感じる。
僕は明らかに興奮していた。
しかも今は、彼女にベッドに押し倒されている状態で……。
もう、自分を抑えきれなくなっている。
「あのさ」
「なあに?」
「君は本当に陛下と……寝てないのかい?」
すると、ジョバンナは身に帯びていたネグリジェの裾を両手で持ち上げて、こう切り出してきたんだ。
「確認してみる?」
彼女の挑発的な目に加え、裾が
この瞬間、僕は人から本能に従う動物になったんだ。種を吐き出すために動く、野生の肉食動物に。
「じゃあ、確認させてもらうよ」
◇
翌日、僕は陛下と廷臣達の前で王妃の『純潔診断』を行った。
打ち合わせ通りに、僕は彼女から血液を採取するふりをしつつ、実際には国王の側近の孫娘から採取した血液入りの小瓶――不透明なそれから取り出した一滴を自分の角に垂らした。
角が灰色から黒色に変わり、謁見の間にどよめきが起こる。
「見ろ! これで噂が全くの嘘だと証明されたぞ!」
国王は『不能王』というあだ名を返上できて、とても嬉しそうだった。
「クテシアス殿。恩にきるぞ。褒美を取らせよう。何が欲しい?」
「いえ、何も」
僕の答えに陛下が怪訝そうな顔をしていた。
「本当に何もいらぬのか?」
「ええ、もうもらいましたから」
「もらった? はて?」
「で、では、これで失礼します」
陛下は不思議そうな顔をしていたけれどそれ以上は何も言わず、僕を故郷に帰すよう側近に命じて奥の間へと下がっていった。王妃と一緒に。
彼女は去り際に、僕にウインクしてみせた。
僕は照れくさくなる。昨夜の自分の大胆な行動が、今になって恥ずかしく思えてきたから。
『あなたに初めてを捧げてよかった!』という幼馴染の告白が頭から離れないまま、僕はカリュターニャを後にすることになったんだ。
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