第4話 その娘、大きい
身長は両親から遺伝する。
そのような話をものごごろついたときにはじめて聞いたのはいつだっただろう。
近所の名前も知らないような人に話しかけられたのを覚えている。
「お母さんのような高身長になるといいね~」
多分、あの人は特に何も考えずに言ったのだろうな。
でもあの時の父さんの苦笑いで言った返答を、なぜかずっと覚えている。
「ええ、本当に。その点は妻の方に似てくれればよいと思っています。まぁ、抜かされるのは少し寂しいですが。」
私が父さんの背を抜いたのは、中学生のころだった。
その頃から、どうやって話せばいいかわからくなってしまった。
昔は、どちらかといえばお父さん子というやつだったと母さんに聞いた。
確かにどこ行くにも父さんに着いていった。
でも私が成長するほど、母譲りの身長を受けるほど、父はどこか申し訳ないように苦笑いするようになった。
父さんは、いつも自信なさげで謝っていた。
母さんに聞くと、あの人はどこまでも自分に自信がないのだと笑っていた。
「あの人と結婚するときも大変だったんだから。自分とは釣り合ってないだの、周りにあなたが色々言われるのが耐えられないってね。」
でも結婚してやったわ、と母は笑って言った。
その気持ちは少しわかる気がする。
前に、中学校の運動会で父さんが役員として保護者代表で働いていたことがあった。
父はなぜか目立つ。
それは、背が低いこともあるんだけど何より若く見える。
あろうことか、学生と間違えられて先生方に注意されていた。
母は大爆笑していたけど、父はその件でだいぶショックを受けていたようだった。
何より父は、その件で他の同級生からからかわれていないかのほうを気にしているようだった。
確かに、その件で同級生から色々と言われたのは事実だ。
中には小さい父を馬鹿にするような中傷もあったが、そういったことを言ってきた人とはその後卒業まで一切関わらないようにした。
というか多かったのは、父があまりに若く見えたため複雑な家庭事情があるのかという質問だった。
複雑な事情も何もない、うちは一般家庭だ。
あの時、そう自信もって堂々と言っておいたら今の状況も変わっていたのだろうか。
確かに、自分の家族がこういった衆目を集めるのは何だか恥ずかしかったし、何より父に申し訳なかった。
そういった意味で、父が母に言ったことは理解できた。
理解はできるが、少し寂しい。
あれ以来、父は私の学校行事には参加しないようになってしまった。
本人曰く、仕事が忙しいとのことだが、多分自分のせいで私が注目されることを避けているんだと思う。
そんなこと気にせずに、見に来てほしい。
その言葉を、どうやって伝えたらよいかわからずに私は高校生になってしまった。
ますます私は、父さんとどう会話してよいのかわからなくなっている。
何かきっかけがないかと。
そのきっかけをずっと探している。
凸凹ファミリー ~小さい父は嫌われていると思っていたが、大きい娘はどうやらそうではなかったようで~ @wotoshigod
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