第四章
蒼の牢獄④-1
「いやぁーー、今日も朝ごはんが美味しいねぇ」
「お口に合って何よりです」
ヴィクターが朝食のベーコンエッグを食べていると、隣に座った石川
「朝から人の家で食事とは、まるで兄弟にでもなったようだな」
「いやぁ~~兄弟と言ってくれてうれしいねぇ。まぁ、僕らは一蓮托生だから」
「皮肉だ! 察しろよ!」
直弥のノリにげんなりしているヴィクターに対し、晴臣は笑顔でこちらを見ている。何が楽しいのか? と思ったが口には出さない。
「それで、今日はなんで朝から来た? 今日からダンジョン探索を再開するが、ギルドで落ち合う約束だっただろう?」
「うん、打刀の正式な完成品を持って来たからね」
「おい、打刀は四日前に持ってきただろう?」
「いや、あれは試作品だね。あれは以前作った僕のメイスから改良されていなく、見どころが無い。今日渡すのがフィードバックを得た完成品だよ。現状で出来る最高級品だ」
直弥は不敵な笑みを浮かべながら眼鏡を持ち上げた。
その眼鏡も、ヴィクターがICLかIPS細胞での眼球再生にした方が良いのでは? と探索の便利性を考えてアドバイスをしたら、「いや、基本はただのレンズが入っていない伊達メガネだから」と答えられ困惑した。
白衣を着ているのも眼鏡をしているのも必要ないが、研究者らしいからと言う謎のこだわりを持っている。
変態だ。間違いなく。ヴィクターは直弥に対してそう確信している。
直弥はそのまま「魔力を流しながら武器を適切に鋳造することで、マテリアル・トランスミュテーションとリンク・シンクロナイズに必要な振動数を減らす効率的な方法を見つけた。これはヴィクター君が試作品を使っているのを計測して……」等と自分の世界に入ってしまった。直弥がこうなっては、物理法則と魔法学の深海へ沈んでしまったので、浮上するまで放っておくしかない。
どんな理由であれ、強力な武器が手に入るのは良い事だと思い、未だに知識の深海探査を続けている直弥を放置し朝食を食べ終えた。
「そういえばさぁ」
ヴィクターが新しい打刀がどこにあるのか聞こうとしたとき、直弥が不意に問いかけてきた。
「新しい提案、受け入れてくれる?」
「何の話だ? 聞いていない。自分の頭の中で提案した気になるな!」
「いや、股間に刀を装備する案」
「しらん! そして絶対に却下」
「三刀流も出来たり、両手に他の物を持てるから得る物が多いと思うけど」
「減る! むしろ失うものの方が多いだろ!」
大体どうやって使うんだ! とヴィクターが怒鳴ると、直弥はこうやって、と立ち上がって腰を前後に振り始めた。それを見たヴィクターは額の血管が三本ほど切れた気がした。そして叫んだ。
「絶対にやらん! 俺は父に教えてもらった剣術を使っているんだ。そんな変態剣術使ったら父に何と言ったらいい!」
「立派に育ちましたとか?」
「殺されたいか?」
ヴィクターの声音と視線に殺気が溢れてきたのを感じた直弥は、しゅんとしょげて「せっかく合理的で良いアイディアだと思ったのに……」と呟きながら渋々あきらめた。ヴィクターの殺意の魔力も溢れている気がして、直弥は若干生命の危機も感じていた。
ヴィクターは、なぜ朝食をとるだけで疲れたのか? と答えが分かり切っている疑問に頭を抱えたが、考えないようにした。そして直弥から新しい打刀を分捕るように受け取り庭へ向かった。実際にダンジョンで使う前に確かめたかったからだ。
庭で何度か魔力を流して打刀を振ってみた。何となく以前より頑丈そうで、使い勝手が良い位しかわからなかった。これは、ヴィクターが進化を数度重ねた結果、庭では本気を出せなくなってしまったからだ。広めの庭だが、今のヴィクターが本気で動き、魔力を使って剣術を行うと大被害が出てしまう。それは、象やヒグマ等の大型獣が本気で暴れた時以上の破壊活動が行われてしまう。
いくらヴィクターが人間関係に興味が無いからと言って、町内で破壊テロを起こす気はない。
仕方が無いので久々にダンジョンへ向かうことにする。
その道には、以前よりボロボロの身なりの人が減っているが、ヴィクターも直弥も気が付いていない。
要塞のような重々しいギルドへ入り、そのままダンジョンの探索へ向かいたいが、その前に行くところがある。武器の販売所に併設されている武器の登録場所だ。
そこでヴィクターと直弥の新しい武器を登録してもらう。規則だからしょうがないがそれぞれ10万円必要なので頭と家計が痛い。
朝食時に直弥に変態提案をされた事と、無駄金を支払った鬱憤をぶつける為にヴィクターはダンジョンへ挑む。
ダンジョンのモンスター達からすれば、その怒りの矛先は直弥や日本政府に向けるべきもので、八つ当たりなのだが、ヴィクターには関係ない。無情にも荒れ狂うヴィクターの強大な力がモンスターへと向けられる。
「久しぶりのダンジョンだから。ただのスケルトンとも戦っていくか」
「そうだね。その方が良いと思うよ。データ取りの為に」
ヴィクターの提案に直弥も同意する。しかし、その理由がヴィクターを案じてなのか、研究の為なのかは分からない。
二人で打刀とメイスを使ってただのスケルトンと戦ってみたが、あまりにも簡単に倒せてしまうので、あまり武器の効果を感じなかった。
ただ体に不調が無い事と、武器の使用に問題がなさそうな事しかわからなかった。
五体ほど倒して、このままでは何にもならないと思い、二人で下の階層へ行き、鎧のスケルトンの階層へと降りていった。
ヴィクターも直弥も以前死にかけた場所なので、自然と緊張感が高まった。
鎧のスケルトンが単体なら問題ないが、奥へ向かい複数体になった時に前回の窮地を思い出す。
和式の回廊を進みながら気配を探る。
先の方に悪意の気配と、鎧のスケルトンが出す金属の音が聞こえてきた。
ヴィクターと直弥は、互いに視線を合わせて頷き、全身を魔力強化して鎧のスケルトンの方へ向かった。打刀の方にも魔力を流し、刀身に炎を纏わせる。
鎧のスケルトンに近づくと、その巨体を利用して上段から太刀を振り下ろそうとしていた。そこへヴィクターは、小手の内側を斬り、続けてジャンプし首を斬り下ろした。
そうすると、切り口から炎が広がり、鎧のスケルトンの全身へと広がった。そのまま崩れ去り、あっけなく倒せたことにヴィクターは唖然とする。
「こんなに簡単に倒せるのか……」
打刀を見つめながら言葉をこぼす。それを見た直弥はニヤリと笑みを作った。
「いやぁ~~、順調だね。ヴィクター君の魔力と技術を使うと簡単に倒せると想定したけれどこうして見ると凄い! 僕の作成技術が」
倒したのはヴィクターだが、どや顔してるのは直弥だった。俺が倒したのにと思ったが、直弥が作った武器が凄まじいのは間違いなかった。気に入らない笑顔だと思いながら口に出さず、そのまま探索を続けた。
ヴィクターは、鎧のスケルトン単体を次々と倒し、感触を確かめていたらまた進化した。これほど連戦しても消耗が感じられず、次々とドロップ品の魔石や金属を集められることに装備の偉大さを感じた。直弥もメイスや盾を使って、鎧のスケルトンを倒していた。ヴィクターと違って倒すまでに時間がかかっているが、それでも余裕のある勝利を重ねていった。
「あぁ~~、まだヴィクター君みたいに、1~2回の攻撃で倒せないなぁ~。武器の性能を出すには僕自身の能力が不足しているみたいだ」
直弥は自分の能力に不足を感じているようだったが、危なげなく鎧のスケルトンを倒していた。ヴィクターから見ても、彼は優秀な探索者であると思い、それぞれ交互に戦闘をしていった。それからお互いが行けると思ってから、さらに奥のエリアに入っていき、複数戦にも挑戦していった。
二人それぞれの戦闘能力の高さと、鎧のスケルトンとの戦闘にも慣れてきた。複数戦も以前の戦闘が嘘のように問題なく進んだ。さらに武器の耐久性も不安が無く、戦闘に集中することができて効率よく経験とドロップアイテムを手に入れる事が出来た。
二人ともさらに進化して、複数戦も余裕で処理できるようになったころ下層へ続く階段を見つけた。また石造りの枠で囲まれた、木製の階段だ。そこを二人でゆっくりと降りていく。
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