第11話 悪魔たちの策略
礼拝堂の奥深くで、シャーレが儀式を進めていた。男性としての彼の長身に純白の司祭装束がよく似合い、整った顔立ちは冷たくも威厳に満ちている。その鋭い瞳が銀の器に注がれ、器の中の水面には揺らめく光景が映し出されていた。
夜の街、破壊された建物、サタージャと戦うヒーローマンたち――その中には、七夕四郎の姿も含まれていた。
「ほう、アルスと名乗る存在…。なるほど興味深い。」
低く響くシャーレの声が礼拝堂にこだまする。
その背後で、赤髪をなびかせたアダムスが入ってきた。古代ローマの戦士を思わせる甲冑に身を包んだ彼は、いつもの軽薄さを装いながらも、どこか緊張した様子を隠しきれない。
「俺を呼んだ理由はなんだ、シャーレ。」
アダムスは軽く口角を上げながら尋ねた。
シャーレは器から視線を外さないまま、静かに口を開いた。
「他の六つの大罪はどうなっている?」
アダムスは苦笑しながら答えた。
「強化は進んでいる。時間はかかるが、彼らの“罪”が肥大化してきているのは確かだ。」
「そうか。」
シャーレは短く答え、銀の器を揺らした。水面の光景が歪み、次の瞬間には都市全体が燃え上がる様子が映し出された。
「ところでシャーレ、第三次世界大戦の準備はどうなってる?」
「カルロスが動いてからだ。まだ景気は順調だろ?」
「まあね。」
アダムスが肩をすくめる。
シャーレは冷たく笑った。「カルロスが経済を崩壊させた後でなければ、人間どもを本格的に追い詰める時ではない。」
アダムスは口元に笑みを浮かべたが、その瞳には警戒心が滲んでいた。
「俺がやるべきことはわかってる。ヒーローマンどもの最後を計画することだろ。」
「そうだ。それがお前の役目だ。」
シャーレは冷ややかに頷いた。
アダムスは少し間を置いて言った。
「昨日、ロナルドに会った。」
「ほう、それで何と言っていた?」
シャーレが問い返す。
「新しいワクチンが開発できそうだとさ。今度はロナルドの“髪”が材料だとか。」
「髪、か。」
シャーレが目を細める。「前は爪だったな。今度は髪か。人間の愚かさには呆れるな。科学で我々を解明しようなど、愚の骨頂だ。」
アダムスは軽く笑いながら言った。
「その愚かさが俺たちに力を与えているのさ。奴らが無駄に足掻けば足掻くほど、絶望は深くなる。」
「そうだな。」
シャーレは銀の器を床に置き、立ち上がった。その目には冷徹な光が宿っている。「だが、アルスには注意しろ。」
「アルス…奴は本物の天使なのか?」
アダムスが眉をひそめた。
「さあな。」
シャーレは低く笑う。「だが、奴がどれほど力を振るおうと、必ず代償が伴う。やがて動けなくなる日が来る。その時が奴の終わりだ。」
「だといいがな。」
アダムスは腕を組んだ。「奴はサタージャを人間に戻した。しかも完全に。厄介な力だ。」
「厄介であるほど、それを使わせるまでだ。」
シャーレは軽く笑みを浮かべた。「お前の計画を進めろ。アルスもヒーローマンも、まとめて葬る準備をしておけ。」
「了解だ。」
アダムスは短く答えた。
一方、その頃――
夜の静けさの中、七夕四郎は自宅のベッドに横たわりながら、今日の出来事を思い返していた。アルスとしてサタージャを救えたこと、その奇跡に対する驚きと安堵。だが同時に、胸の奥に燻る不安もあった。
「アルス…僕たちはこれからどうなるんだ?」
心の中で問いかける。
「お前が進むべき道を見つけるまで、私は力を貸し続ける。それだけだ。」
アルスの声が静かに答えた。
「でも、悪魔たちは僕らを見逃すはずがない。」
四郎は天井を見上げながら呟く。
「それが戦いというものだ。逃げることも選択肢だが、お前が望むなら、私は戦い続ける。」
アルスの声には揺るぎない強さがあった。
四郎は犬の寝顔を見つめながら、小さく呟いた。
「僕が決めるのか…。でも、君の力を無駄にしないためにも、僕は戦うよ。」
犬の小さな寝息が、部屋の静寂の中で心を落ち着けてくれる。それが唯一の安らぎだった。
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