4 酒に溺れるな
テレビドラマでのことだ——。田舎に暮らしていた父が、家を建てるために実家へ仕送りをする娘の住まいへ上京したところ、若い男性が訪ねてきたものだから、えらい剣幕でその羅紗問屋の家へ乗り込んだ場面で、「猫の仔じゃあるまいし、そうほいほいとやれるものか……!」と文句を言ってしまった。のちに父は酒の病で倒れるのだが、駆け付けた娘に、「娘が俺の暴言で結婚できなかったらと悔いていた」と胸のつかえを伝えると、大丈夫だからと幸せだからとの声を聞いて、父は永眠した。
◆
その後、彼と争ったことがあった。
見たこともないオンナの話だ。飲み会のあとで、場所が分からないというインコの糞みたいな理由で、大学の隣にあるファミリーレストランにいたオンナをわざわざ彼が迎えにいって、真夜中に彼の一人暮らしをする部屋へ入れた。
私は、「間違っている」と糾弾したが、「俺が迎えにいけなかったから納得しろ」と彼が主張した。
図々しいオンナは、「アタシが出ます」とか聞こえる声で喋り、「なあーんにもワルイコトしてナイシ! クソかてめー! えばんな!」とか逆切れされて、しまいには、「出てきゃあええんやろ?」と電話を壊してガッチャン!
本当に凧の糸が切れてしまった。私が知っているのは、彼が仕送りで借りているアパートの黒電話の番号だけ。
プルルルルル……。
コールは切れる度に新しく鳴らす。明け方の新聞配達の音が聞こえても続けた。「終わったのか」と思う。これが、
その後、私にはお金を使わない彼が、
「一緒にいきたいな。アルバイトが潤っているから支払えるよ」
「駄目だ。同学年じゃないと駄目なんだ」
その一点張り。お土産は貰ったが、一つ一つ見ても、はらわたが煮えくり返る。空き缶となったお菓子の箱でさえ、夫はカードゲーム用のサイコロ入れにしていたが、パッケージを見て直ぐにそれと分かった。夫は、「忘れろよ」とかお気楽だけど、お前が蒔いた種のナガサキ事件なんだろうよ。
◆
――今から二年程前の秋。
酒が全ての悪とは断定しないが、母は夫の酒乱や酒癖に困っていた。母の最期は、「頭が痛い」との言葉を勝手にしている父に零したものだ。父よ、アルコールでふわふわと馬と鹿が踊っていなかったか。父がサインを見逃したから、私の敬愛する母が亡くなったようなものだ。翌朝、救急隊員を呼んだところで手遅れだったんだよ。
〈お前のせいだ! 夜の内に救急車を呼んでくれていたら、もう少しましな状態だったろうに〉
私だって、吐き出せたら楽になれるのに。
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