第4話  モブ兵士、最初の目覚め

 鐘の音が聞こえる。


 朝を知らせる鐘の音が、何度も町に、僕の頭に響き、まどろんだ意識が少しずつ覚醒していく。


 僕は跳ね起きた。


 全身にびっしょりと汗をかき、心臓は凄まじい速さで脈を打っている。

 自分の身体を見る、腕も足も折れておらず、呼吸もできる。


 死の気配はどこにもなかった。


「おい、どうしたんだ? 悪い夢でも見たのか?」

 

 そう声を掛けられ、ふと前を見れば同じく鐘の音で目覚め身体を起こしている、同室の赤髪の少年、オリバーがいた。

 僕が見たものは、あの光景は、全て夢だったのだろうか…。


 彼の表情は寝ぼけながらも僕を心配するもので、彼もまた生きている。

 思い返せばディーガの最初の犠牲になったのは、彼だった。

 その時の光景が脳裏をよぎる。

 

 死の嵐が吹き荒れる直前、僕の横にいた彼は笑っていた。

 僕よりも剣が使え、気術も魔術にも長けていた彼は、ことある事に僕にこれからの展望を話していた。

 元々下級貴族の三男であり生き残った後は、剣で身を立て、どこかの町で道場を構えたい。


 そこそこ美人な嫁さんを迎え、子供は3人で、剣も教えて。

 そう笑顔で言っていた。

 そんな彼が、空が赤く染まった瞬間散った。


 僕が認識した時には、腰から上の無い、彼だったもの、そこから覗く鮮やかな色の臓腑だった。


 弾けた彼の一部が僕の頬にかかり、温かさを感じさせる。


 その時の生暖かさ、臓物と中身の異臭を思い出し、猛烈な吐き気が湧き上がる。

 僕は慌ててベッドを降りると、傍にあった木桶を掴みそこに嘔吐した。


「はぁ?! おいおい 本当にどうしたんだよ?!」


 いきなり嘔吐した僕に驚いたのか、彼も飛び起きたようだ。

 彼の近づく足音と気配を感じながら、僕はもう一度嘔吐する。

 二度三度と嘔吐し、ようやく吐き気が収まった。


 部屋の中、僕の少しだけ荒い呼吸音だけが響く。


 あれだけ現実感があったことが夢?


 腕も折れ、足も折れ、肺も内蔵も潰れた。


 あの怒号も叫び、匂いも、絶望も?


 僕にはとても信じられなかった。


 少し落ち着き、オリバーが出してくれた水でうがいをし、吐瀉物も処理した僕は彼に謝った。

 夢見が悪くてと言った時、彼は何か聞きたそうな顔をしていたが、僕は構わず外に出た。


 今はただ、無性に身体を動かしたかったからだ。

 今日は決戦前の休養日、夢で見たあの時から考えると、僕が死ぬ前日だ。

 本来であれば訓練をする必要もない、完全な休養日。


 宿舎を出て訓練場に向かう。


 夢の中の僕も休養日なのに剣を振りに訓練場に赴いていた。


 もしあれが夢でないのなら今から向かう先にはあの人達がいるはずだった。


  

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