色褪せない思い出 ①
今回は短いです。お許しを......。
次章は一週間後、12月18日からです。
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「あなたはだーれぇー?」
可愛らしい声が男の子に向けられる。
声を掛けられた男の子は、一人公園のブランコに揺られていた。
「ぼ、ぼくは......」
女の子のいきなりの問いかけに男の子は強く困惑する。
この様に話しかけられた事もないのだ。
「わたしはねー。『れい』って言うんだーよろしくね!」
れいと名乗った女の子はまるで太陽の様な明るく、優しい笑顔を浮かべた。
この出会いが後のお互いに大きな影響を与えるとは、まだ二人は知らない。
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それかというもの、ほぼ毎日のように二人は公園で会っていた。
「ねね、そろそろなまえ、おしえてくれる?」
「まだやだ。ごめんね」
この会話が二人のお決まりだ。
どんなに仲良くなっても男の子は名前を教えてくれることはなかった。
「ねえー」
「なに?」
「なんであなたはいつもひとりでこうえんにいるのー?」
ベンチに座りこちらを眺める女性にれいは手を振る。
「ままとかといっしょじゃないの?」
純粋に、無自覚にれいは残酷な事を聞いた。
まだ三歳になったばかりなのでしょうがなくはあるが。
それを聞くと男の子は俯いてしまった。
「ままはいないの......」
「いない?」
自分と違う家庭環境があることをれいはまだ知らない。
そのため、ほとんど理解できていない。
「おじいさまはいるけど」
「いるけど?」
「ぼくのこときらいなんだって......」
これにはれいにも理解できる。
大好きな家族に嫌いと言われると考えるだけで、泣きそうになる。
「莉ー。そろそろ帰りましょうかー」
後方から、女性がれいに声を掛けながら近づいてくる。
「はーい。あ、またね......」
「うん......]
気不味さを覚えながら、この日は別れた。
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数日後、砂場でお城を作りながら男の子にいつもの質問をする。
「むー、どうしていつもおなまえおしえてくれないの?」
そう聞くと男の子は少し悲しそうな顔をした。
「ぼくのなまえ、かわいそうななまえってみんないうんだ。わるいなまえなんだって」
今にも泣き出しそうな、とても痛々しく悲痛な表情を浮かべる男の子をれいは抱きしめる。
「だいじょうぶだよー。よしよし」
初めて感じた心地良さに男の子は身を委ねる。
「おちついた?」
「ありがとう」
体感一分ほど経った後男の子は体を離した。
先程とは違い、少し救われたような顔をしている。
「なまえのあたまのもじだけおしえてくれない?」
「あたまのもじ?」
「そう! それならだいじょうぶじゃない?」
またも太陽の様な笑みを浮かべる。
その笑顔は男の子にとっては眩しくて、眩し過ぎて堪らない。
「......か」
「か?」
「そう。"か"。だよ、あたまのもじ......」
小さな声で、それはそれは不安そうに男の子は呟く。
「じゃーあ、かーくん! かーくんねっ!」
「かー、くん?」
大きな声で、それはそれは嬉しそうに女の子は声を上げた。
「そう! それならへいきでしょっ! ねぇー、かーくん。ともだちになろっ!」
かーくんと呼ばれた男の子は今度こそ、声を大にして泣いた。泣きじゃくった。
生まれてからこれまで、ここまで感情を爆発させ泣いたことは、泣けたことは無い。
「ぼくが、ぼくがともだちにぃなっても、いいの?」
涙が止まらない。
何度拭っても次から次へと流れていく。
「いいのっ! れいちゃんがともだちになりたいんだもんっ!」
「ありがとう......。ありがとう。れいちゃん」
「どういたしまして! かーくん」
初めて二人の子供は一緒に笑う。
───これは暖かく、優しく、決して色褪せない記憶。二人だけの記憶。
次の更新予定
終宵。舞うは道化か、無価値な愚者か 夜夜月 @YoYo_Zuki
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