39 草原の血
何とも言えない後味の悪さが残る。
「り、リッツ……たまたまだよ。きっと次は上手く……」
「いや、たぶんそういう話じゃない。コルツ……俺なら、大丈夫だから」
「う、うん……」
励ましが、一層リッツを追い立てるようで。
だがコルツは心根の優しい少年だ。精いっぱい友を思ってフォローしているのはわかっていたので、できるだけ波風を立てずにやり過ごす。
「……もしや君が、ザイールに拾われたという訓練生ですか?」
それまでの緩い雰囲気とは打って変わって、マリクは神妙な顔つきになっていた。
「……はい」
「君も、スラヴァ人なのですね?」
「母がそうでした。父のことは……よく知りません」
「そうですか……暗室だったので気付くのが遅れてしまいました」
そう言ってマリクはローブの両袖を抱えるようにして腕を組む。それから少し躊躇したように見えた後、しかし向き直って話し始めた。
「結論から申しますと、スラヴァ人が魔道を発現させることはありません」
「……やはり、そうですか」
「ザイールから聞いていましたか?」
「いえ。けど、なんとなくそんな気はしていました」
ザイールは教えを説く際、対処法以外で魔道について触れようとはしなかった。
それは彼自身に、そして教え子であるリッツにも例外なく、決して才能が芽生えることはないと知っていたからだ。
だがなぜスラヴァ人だけがそうなのかは、よくわからない。
募る虚しさが、自然とリッツをうつむかせる。
『リッツ。どんなことでも、いつか必ず良き風となってあなたを巡るの。だから何があっても、下を向かないで』
いつの日の、何の記憶だったか。
不意に思い起こされたのは、幼い頃に母から諭された言葉だった。
「良き、風……」
魔道が使えない? それがどうした。
そんなもの、端から自分が求めた力ではないはずだ。
己に流れる草原の血を、母から受け継いだ一族の誇りを、そんなことで恥じたりなんてするものか。
リッツは顔を上げ、前を向き直した。
だとしても、雑音は自然と耳に入ってくる。
「は、はははっ! そんなことだと思っていたぞ、野蛮人!」
「なんだ、落第候補者が増えちまったのか」
演習中にもかかわらず、二つの心無い声が飛んだ。
まるで鬼の首でも取ったようにヨハンが歓喜で高笑いをすれば、アーキスは不躾にせせら笑って嫌味な目を向けていた。
「ヨハン=セルバンテス! アーキス=ローランド! 貴様ら、口を慎め!」
実習を傍聴していたマティアがすぐさま彼らを諫めるが、二人以外にも似たような感想を抱いた者はいたかもしれない。
今のリッツには、押し黙って耐えることしかできなかった。
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