35 敵対者
「おい、さっきからごちゃごちゃうるせえぞ」
合流した五人が広間でそのまま喋っていると、荒々しい声とともに、数人の男子訓練生がずかずかと足音を立ててやってきた。
一番大きな少年が、おそらく声の主だろう。
コルツと比べてもなお体格がよく、それでいて締まった体つきだが、粗暴な雰囲気を漂わせている。言われなければとても同い年だなどとは思えない。
連れ立った者の中には、あのヨハンもいた。
「てめえら、異国人同士でさっそくの馴れ合いか? はっ! 雑魚は群れても雑魚だろうがよ」
大柄な少年は一同を順に見回すなり、そう吐き捨てた。
なおリッツはスラヴァ人だが、一応王国生まれの王国育ちである。そんなこと、言っても始まらないのだが。
「……なんだこいつ」
「知らね。俺、デニス人だし」
「わ、私たちも聖教国の出身なので……」
「不愉快です」
横殴りで売られたケンカに、リッツたちはひそひそと話し合う。
「アーキスだ……」
その中で、コルツは一人青ざめた様子だった。たしかに彼だけは、生粋のバレリウス王国人でもある。
「アーキス=ローランド……西の名門、ローランド家の跡取り息子だよ。あいつも推薦入隊さ……」
さっきまで上機嫌だったはずのコルツが縮こまって囁いた。
ただ彼の図体では隠れられるはずもない。アーキスというらしい粗野な少年も、コルツの存在に気が付いた。
「おいおい、よく見りゃアルバート家の落ちこぼれもいるじゃねえか。自分の国じゃ相手にされねえから、よその国の連中とつるもうってか?」
さっきから横柄な奴だ――リッツはアーキスの物言いに、不快感を露わにする。それは他の皆もだいたい同じようだった。
だがそんなことなどお構いなしで、どっかりと長椅子に腰かけたアーキスたちは、ゲラゲラと下品な笑い声を上げながらそこに居座ってしまった。
うるさいと言って現れておきながら、自分たちの方がもっとうるさいのだから始末に負えない。
なのでひとこと言ってやろうと、リッツは前に出たのだが、
「やめた方がいいよ! アーキスはあんなだけど、とっても強いんだ……」
コルツが袖を引いて必死に止める。
それならそれで望むところではあったが、初日から揉め事を起こせば今度こそマティアに制裁されてしまうかもしれない。
そう思ってリッツも踏みとどまり、この場から退散することにした。
ところが去り際、
「おい、野蛮人……先の模擬戦では随分と世話になったな。明日からの訓練で、僕がお前なんかと格が違うというところを見せてやる」
こっちはこっちで、面倒な輩に目を付けられてしまう。
巨竜の襲撃から助けてやった恩もすっかり忘れて、ヨハン=セルバンテスは相変わらずの態度だった。
「こいつ、竜のエサにしてやった方がよかったかな……」
そんな物騒なことも思い浮かぶが、彼は竜との戦いの最中、気絶していたのでリッツたちの活躍など覚えていないのだ。
傍若無人なアーキスに、粘着質なヨハン。
とてもじゃないが、打ち解けられる未来など見えなかった。
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