14 組み合わせ

「諸君、ご苦労。では技術試験の後半、模擬戦を始める」


 試験官の合図で受験者たちは整然と並ぶ。場所は変わらず訓練場だ。


「模擬戦は一対一、どちらかの優勢を各試験官が判定して終了となる。組み合わせは先の課題成績を踏まえて……我々が決めたもので行う」


 何か質問はあるか、と試験官が問いかけた。

 すると少しの沈黙の後、一人の受験者が挙手をする。


「……試験官殿、武器は何を用いてもよろしいのでしょうか」


 質問したのはヨハンだった。


「ああ、ここにある訓練用の武具であればどれを使っても構わない。魔道を使う者は申し出よ。制約をかけた書を貸し与える」


 なるほど、課題試験は手に馴染んだ愛用の得物でよかったが、模擬戦は皆が同じ条件でやれというわけだ。


「ただし――」


 そこで一つ、試験官はこう付け加えた。


「課題試験に用いたもので臨むように。これが模擬戦の条件だ」


 その言葉で受験者たちに動揺が走る。ざわざわとして慌てるような、うろたえるような反応もあった。

 騎士たるもの「得意な得物を失っても慌てるな」ということか。

 理屈はわかるが、それを試験の後半に持ってきて、しかも今になって言うのだから意地が悪いとしか言いようがない。


「……ザイールから聞いた試験内容にはなかったな」


 であれば、おそらく今年の試験から取り入れられたことなのだろう。

 リッツも少なからず驚いたが、表には出さないようにした。

 そういえばザイールも「入隊試験については、上級教導師の領分だ」とかなんとか言っていた気がする。


「質問は以上か? それでは、模擬戦の組み合わせを発表する――」


 場も落ち着かないままではあったが、そんなものどこ吹く風といった様子で試験官は続けて喋る。

 そんなこんなで、模擬戦が始まろうとしていた。


                   ◆


「……最悪だ」


 沈みがちになってリッツはぼやく。

 順番を待っていた模擬戦。いよいよ出番が次に迫っていたが、別に体調が悪いというわけではない。

 では彼にとって何が最悪だったのか。試験内容、でもない。

 確かに弓が使えないのは少々想定外だったが、ザイールとの厳しい鍛錬の成果で、他の武器もそれなりに扱えるようになった。だからそこは重要ではない。


「なんで、よりによってと当たるんだ……」


 問題なのは「組み合わせ」だった。

 件の人物は今にも飛びかかり取って食おうかという勢いで、さっきからずっとリッツを睨んでいる。

 誰と当たっても気にしないつもりだったが、確実にイヤな相手は一人いた。

 それがあの、赤目赤髪の少年――ヨハン=セルバンテスだった。


「次、前へ出なさい」


 いよいよ順番が回ってきた。

 担当試験官の呼びかけで、リッツは言われるがまま前に進む。眼前には変わらず睨み続けている少年。

 模擬戦は間もなく始まってしまうだろう。


「すまんメーファ……相手にしないってのは、今回ばかりは無理そうだ」


 どうやら再び、金言を破ってしまうしかないらしい。

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