12 訓練場
中央棟から中庭を抜けた先に、次の試験会場である訓練場はあった。
思わぬ時間を取られたがなんとか間に合った。
リッツはひとまず胸をなでおろす。
「思った以上に広いな」
ここを利用するのは訓練生に限らない。
アリアン中央騎士団院に住まうすべての騎士の訓練場ということもあって、芝生や土床、石畳など、各場面が想定されているのか足場の種類も豊富だった。
一応建物の中なのだが屋根はなく、ほとんど屋外施設のようだ。上部には囲むように観客席まで置かれている。
ただの鍛錬の場というわけでもなさそうだ、とリッツは感じた。
そんな中、ちらほらと少し年上の少年少女が、その観客席にいるのが見えた。現役の訓練生たちかもしれない。
「……見世物じゃないぞ」
おおかた今年の新訓練生候補者がどのようなものか見に来ているのだろうが、リッツからしてみれば野次馬などお断りだった。
「へえ。上級生にアピールするチャンスだぞ、こりゃ」
隣から、聞き覚えのある陽気な声。
「よ! また会ったな!」
「あんた……エリック=ベンジーだったか?」
「お? 覚えててくれたな。固っ苦しいからエリックでいいよ」
今朝ほど言葉を少し交わした人懐こい少年、エリックとまた遭遇した。
「わかった。じゃあエリックと呼ぼう」
「おうよ! 俺もリッツって呼ぶぜ。いいよな?」
「ああ……ところで上級生にアピールって、そんなことして何か意味があるのか?」
リッツは尋ねる。
入隊後も基本は同じ年の訓練生がひとまとまりで活動するという話だし、熱心に上級生へアピールしたところであまりメリットもないように思えた。
教導師であるザイールからも「上級生に特別権限が与えられている」なんて話、聞いたことはない。
けれどもエリックは意外そうな顔をして、
「そりゃお前……無名よりは有名な方がいいだろ?」
ニカッと笑って歩いていった。
変わったヤツだ、とリッツは思った。
「それでは諸君……これより、次の試験を開始する」
試験官の一声で、受験者一同には再び緊張感が走る。拡声魔術だ。声からしても、たぶん今朝の教導師と同じ男だろう。
「第二試験は『技術』だ。この試験は、各々の得意分野を見せてもらう」
そのままおおむねの概要が説明された。
要約すると、各自で好きな得物を選び課題に挑戦するというものだった。だいたいは事前にザイールから聞いていた通りの内容のようだ。
「その後、受験者同士の模擬戦を行うので再度集合するように。では各自移動せよ」
教導師の号令で試験は始まった。
課題の種類は大きく分けて三つ。近接、遠隔、それから魔道だ。このうちリッツの魔道は論外なので、実質二つの中から選ばなくてはならない。
「それなら……」
だが答えなど選ぶまでもなかった。
幼少の頃から、母マデリンの背を見て育ったのだ。費やした時間が違う。
他の受験者がどれだけ研鑚を積んでいたとしても、これだけは誰にも、絶対に負ける気がしなかった。
「リッツ=パドガヤル、遠隔試験を選択します。武器は……『弓』です」
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