おまけ プロローグ 【Another Story】

5年、日数にして1826日だ。



俺は大学を卒業して、就職した。

一日たりともあの人を忘れたことなんてない。

そして今日は記念日。

俺が咲也さんに好きを証明する記念日だ。


咲也さんは今何をしているのだろうか。

きっともうあの日の痕は消えてしまった。

でも、大丈夫。俺の気持ちは消えてないから。


俺は車を停めた。寄りたいところがあるんだ。


「薔薇の花束をください。」


99本の花束を。

これが人生初の告白だと、あの人はきっと知らない。どんな反応をするのだろう。

困らせてもいい、怒られてもいい、

喜んでくれたら1番いいけど。

まずは、あまりにも長く燻ったこの思いを、

包み隠さず伝えよう。

ちゃんと好きだと言おう。


再び車を走らせて、あの人がいる保育園へと向かう。

園の広場では、たくさんの園児たちが自由に駆け回っていた。

俺の存在に気づいた女の子が叫び声をあげる。

これ、不審者扱いされてるのか、、?


薔薇の香りに連れられて、

俺のもとへと飛び出してきたのは、

蜜を求める蜂でも、

可愛い蝶々でもなく、



俺の愛しいひとだった。



金色だった咲也さんの髪は、当たり前に生え変わって、俺が好きだった綺麗な灰色に戻っていた。


「おまっ...え?」


咲也さんは目を見開いて立ち尽くしていた。

栗色の熊さんとサッカーボールのアップリケがついたエプロンが似合っていて可愛い。


「好きだから、迎えに来たよ。」


そう言って、俺は咲也さんの前に片足で跪く。


「勘違いなんかじゃない。ずっと前から、愛してる。これからもずっと。」


昔から変わらない想い。

これが勘違いなら、この世に本当なんて存在しない。

俺は、大きな薔薇の花束を咲也さんに差し出した。


手のひらで顔を隠す咲也さん。

でも確かに頬を伝う涙を俺は見た。


「俺でいいの...?」


この期に及んでこの人は何をいうんだ。

当たり前だよ。


「咲也さんだから好きなんだ。」


薔薇を受け取った咲也さんは、今まで俺が見たなかで、1番綺麗な顔をしていた。もう何年も見ていない、俺が大好きなあのお兄ちゃんの顔だった。


「せんせぇ、そのひとせんせぇのかれし?」

不思議がる園児の鼻を摘んで、咲也さんは言った。


「この人は先生のだから、好きになっちゃダメだぞ。」


その困ったような笑顔には、嬉々が含んでいたような気がした。



騒ぎになったのをなんとか片付けた咲也さんは、俺の隣に座った。

これから咲也さんの家に向かう。


家に着くまでの間、じりじりとしたもどかしさでどうにかなりそうだった。


うち、寄ってけば、」


なんだか恥ずかしそうにして、咲也さんは俺を誘った。

あれは、絶対誘ってた。


そして、

玄関の扉が閉まった瞬間、

せき止められていたなにかが弾け飛んで、

互いに深いキスをした。


3度目のキス。

でもそれは、はじめての幸せなキスだった。


俺の想いを受け止めてくれたことが嬉しくて、笑みがこぼれてしまいそうだ。

すれ違い続けた目線が、今、交わる。

言葉にしなくてもわかるくらい、あんたのはずっと訴えていたんだね。


もう、それを逃さないように、

一生、咲也さんだけ見つめ続けよう。

だから、俺のことも見ていて欲しい。

今まですれ違った分も全部。

そして、教えてほしい。

あんたのことを全部。



俺たちは、あの日をやり直すかのように、

長い長いセックスをした。







ねぇ、聴いて。

これは、俺と愛しいひとの物語。


俺と、

俺の頭を優しく撫でる愛しいあんたの、

これからはじまる物語。

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聴いて。 omuz @omuz

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