本編①-10

ねぇ、聴いて。

これは、俺と初恋だった人の物語。


俺は、あの日咲也くんとしたキスの続きを、

毎日のように夢に見る。


咲也くんは相も変わらず、夜中に家を抜け出して、どこかへ出かけているのを、俺は、塾の帰りに何度も目撃していた。


どこで、誰と、何を。


そんな疑問を抱いては、勉強をしてかき消す日々ももう終わった。


何も集中出来なかった大学受験を無事に終えて、俺は晴れて東京の有名大学に合格した。


つまり、俺は咲也くんがいるこの地から、

明日、離れることになるのだ。


もう、一生咲也くんに会えることはないのかもしれない…

俺は、咲也くんの家のチャイムに指を伸ばした。


「何してんの。」


後ろから声がして、振り返るとそこには、

咲也くんがいた。


「咲也...くん。」


俺の馳せる気持ちは高まっていた。

どうせもう会えないなら、

言ってしまいたい。


「おれ、ずっとあんたのことが!」


「言うな!!」


咲也くんは俺の言葉を遮った。

咲也くんのこんな大声を聞いたのは初めてだ。


「お前は勘違いしてるんだ。」


咲也くんはそう言った。

違う。勘違いじゃない。

俺のこの感情をそんな言葉で片付けないで。


「俺、明日にはもう東京に行くんだ。これで最後にするから!」


どうせ最後なのだから、


「あんたを俺のものにしたい。」


咲也くんは、俺と目も合わさず、

玄関の扉を開けて、「入れよ。」と言った。


おばさんは今日も夜のパートらしい。

この夜、咲也くんは俺の戯言を聞き入れて、

俺の上に跨った。

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