本編①-8
ねぇ、聴いて。
これは、俺とこの人の物語。
ご飯の後、おばさんは夜のパートへと出掛けていった。
俺と咲也くんは、2人リビングに取り残された。
ピヨピヨ
だんまりを決め込んでいた咲也くんの代わりにスマホが鳴いた。
通知を見るなり咲也くんは、腰を上げて、
「出かけるから...」
と俺に言った。
こんな夜遅くに、
一体どこへ出かけるの。
俺が「どこに、」と聞くと
「友達のとこ、」と咲也くんは答えた。
ほんとに友達なんだろうか、その男は。
「何すんの、」
出かける準備をしていた咲也くんの手が止まって、俺の方を向いた。
数年ぶりにこの人と目が合った。
咲也くんは、俺の鼻を摘んで
「ガキにはまだはやいこと。」
と冗談ぽく言った。
変わってない。
昔から、俺が生意気なことを言うと
俺の鼻を摘んで、そうやって困った顔で笑って
誤魔化すんだ。
でもね、俺、もう、
「もう、そんなので誤魔化されないよ。」
俺は、咲也くんの腕を掴んで強引に唇を寄せた。
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