アリスと傷薬の授業
7日間続いたお祭りも終わり、3日目にメアリちゃんとアナちゃんとお祭りを回ったりしながら過ごして、あっという間に1週間が過ぎていった。
そしてお祭りの終わりに光源となっていた巨大な光の玉が王様によって空中で破裂させて閉会となった。
そして再び普通の日常が始まるが、あっという間に寒くなり、冬の季節が始まった。
他の島とは違い、暖かい気候の島なので雪が降るほど温度が下がる事は無いが、それでも少し寒い。
4年生は冒険者になる生徒達によってパーティーを組む様になり、積極的にダンジョンアタックをするようになる。
4年生の後半は授業も1時間目だけ学校に来たら、1階層に挑んていくらしい。
2階層以下には学生のうちは潜る事ができないらしいが、1階層は3年間しっかり冒険の授業を受けていればほぼ死ぬことは無いらしい。
ただどうしても年に1人から2人くらいは不運な生徒が犠牲になることもあるが、その死因も仲間の誤射が殆どらしい。
それが原因でパーティーが崩壊して卒業時にソロ冒険者になるということもあるらしい。
そんな時期なので学校に残っている4年生は冒険者にならない人か、まだ勉強が必要な人に限られる。
そんな中、1年生の私達も授業内容が上がっていく。
文字の読み書きも最初は簡単な童話とかだったが、少し難しい冒険者の有名な伝記等に変わってくる。
冒険者の伝記はその人がいかに優れていたかを誇示する目的もあるだろうが、先人の知恵を後輩達に教える目的もあり、分かりやすく、そして詳しく書かれている伝記も多くある。
先生方がその中から比較的新しく、読みやすい物を選んで授業に用いる事がある。
ただ伝記になるような人でもドラゴンを討伐した人は少なく、だいたい6階層に潜れる様になってワイバーンを倒したそういう話が殆どだ。
正直お父さんやお母さんの実体験の話の方が為になるし、伝記には不都合な部分が削られている場合があり、金銭トラブルで解散した冒険者の話や料理ができなくて苦労したお父さんの実体験とかの方が面白い。
つまらないながらも先生が黒板に書いていく物語を読んで字の勉強をしていく。
算数の授業もお祭り以降より実践的な授業が多くなった。
特にお金に関する授業が多い。
素材の重さに対して金額を求めなさいとか剥ぎ取りに失敗して半分の価格での買い取りになったので、半分の価格を求めなさいみたいな問題ばかりである。
魔法の授業に関しては基礎を固める為に水属性魔法を徹底的に仕込まれるのと魔力総量の底上げの授業が続く。
冒険の授業では薬草の見分け方や薬草を使った傷薬の作り方、使い方を習っている。
治癒魔法を使えるパーティーメンバーが居ても全てを治癒魔法で癒すのは効率が悪いし、若い治癒魔法使いは治癒に必要な魔力総量が分からずに傷が治りきらなかったり、多く魔力を流しすぎて魔力切れに陥りやすくなることが多いらしい。
私はその話を聞いてほっぺたにある傷を撫でた。
メアリちゃんが悪いわけでは無いが、治癒に失敗するとこうなるというのがよくわかる事例だ。
メアリちゃんも一瞬私の方を見ていた。
「傷薬の上位に錬金術師が作るポーションの類もあるが……数を揃えるのは難しいし、まぁとにかく不味いんだ。その分即効性があるんだが……何度も飲めるかというと俺でもごめん被る」
ワロン島にも錬金術師の一派が居るが、錬金術師は学術集団であり、知識を収集することを目的としており、冒険者と兼業している人もいるらしいが、戦闘職ではない。
どちらかと言うと補助職であり、ポーションを始めとする薬品や物質の生成に長けた人達である。
モンスターの素材から別の品に変えるのが得意とも言える。
ワロン島の錬金術師さん達からお母さんも火薬を購入したりしているし、お父さんも特殊金属を加工するのに必要な薬品を購入したりしている。
話を傷薬に戻すが、傷薬で特に使うのは外傷用であり、基本塗り薬だ。
止血作用のある傷薬を飲むこともあるらしいが、腕ごと切断されたとかじゃない限り塗り薬で対応するらしい。
多くのダンジョンには薬草が生えている場所が1階層から2階層の何処かにあるらしく、薬草採集は初心者冒険者が通る道なのだとか……。
「初心者冒険者に陥りやすいのは節約するために知識が無いのに自家製の傷薬に頼る事だ。正直傷薬の作り方を教えては居るが、あくまで手持ちの傷薬が無くなってどうしようもない時に使うことを想定している。だから安易に高いからと町で売られている傷薬を使わないというのは絶対にやめろ……普通に死ぬか再起不能になるからな」
ジーク教官曰く、初心者冒険者の死因の1つに薬草の調合失敗による薬効が毒素を含んでしまい、それが蓄積してぽっくり逝ってしまう事があるらしい。
この毒素は排便や排尿と共に体外に排出されるらしいが、緊張や食べ合わせによっては初心者冒険者は特に便秘になりやすいらしく、数日排便できないまま傷薬で体内に毒素を溜めるとキャパオーバーを起こした毒素が体を蝕み、体内の魔力に干渉し始めるらしい。
そうなると連鎖的に反応して暴走した魔力が本人の制御を無視して体を攻撃し始めるのだとか……。
まぁちゃんとした知識のある人が正しい手順で傷薬を作れば毒素をほぼ無効化し、あったとしても利尿と排便を毎日行っていればそんな事になる事は無い。
ただ毒素を含んでいても傷薬があれば助かる命があるのも事実だからこうしてジーク教官が教えてくれている。
「ちなみに薬草も凄い大雑把な括りをすると毒草の一種だ。元々は毒草だったのを先人達が使えるようにしたのが今町で出回っている傷薬だな」
と軽く傷薬の歴史についても教えてくれた。
傷薬の作り方は薬草を水でよく洗い、刻んで粘り気が出るまでよく混ぜる。
それにスライムの粘液を加えよく混ぜると応急の傷薬ができあがる。
町などで批判されている傷薬はこれに更に別の薬品を混ぜて毒素を中和させているのだとか……。
「あと安易に自作した傷薬を売るのは犯罪だ。ダンジョンの素材を加工した物をギルドや国、町の役所を通さないで密売するのが犯罪で、場合によっては死罪もあり得るからな。昔、ダンジョンの素材でストレートという薬が作られた事があったんだ。真似すると不味いから素材は伏せるが、それが作られ、密売により支城に出回った結果、大量の廃人を生み出し、町が機能不全に陥った事があった。俺も当事者じゃないから聞いた話になるが、密売をしていた冒険者達は縛り首の上に死体が腐敗して腐り切るまで晒され、廃人になった人達も安楽死させるしかできなかった」
「そんな大事件が度々起こるんだよなぁ。皆はその当事者になってはいけないからな。それをやれば仲間にも被害が出るからな」
そう言って今日の授業は締めくくられるのだった。
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