アリスとお祭り 1

 大きな光源となる光の玉が打ち上げられ、夜空に、太陽の様な輝きで町を照らす。


 ワロン島の1週間続く祭りの始まりである。


 町の人々は今年も無事に作物を収穫できた事、事故無く漁をできたこと、ダンジョンで生き抜いて祭りを楽しむことができること等様々な思いで祭りを楽しむ。


 町人達が練習していた音楽隊が音楽隊を演奏し、屋台では料理が売られている。


 今日という日に合わせて仕入れたモンスターの素材や加工された魔道具が屋台を賑わせる。


 私の家の工房前でもマネキンを並べて店頭販売を始める。


「おいおい! ドラゴンスレイヤーのジンさんとアンさんじゃね?」


「きゃー! 本物よ!」


 お父さんとお母さんは冒険者の間でも有名らしく、通りかかった冒険者の人達がお店に足を踏み入れる。


「おおすげぇレッドタートルの盾だ……やっぱりそれなりの値段はするよなぁ」


「何見てるんだよ。このレッドタートルの盾アンダマイトが練り込まれてるぞ。魔法の触媒にもなるって考えたら破格の値段だろ」


 冒険者達は実物を眺めたり、手にとってみたりしながらお父さんの作った商品を確かめていく。


「ジンさん、このレッドタートルの盾ってどんな効果があるんですか?」


「なんだ兄ちゃん気になるか……コイツは魔力を通すと更に軽量化されるのと消費魔力の軽減、硬化の回路を仕込んでいるから頑丈で長時間での戦闘でも役立つと思うぞ。屈めば体を隠せる大きさだからタンクの職種に最適だがな」


「よっしゃぁ買った! 150万ゴールドで良いんだよな?」


「あぁその値段であっているぞ」


 お父さんの作った品は次々に売れていく。


「アン姉さん久しぶりっすね」


「やだミラじゃない久しぶりね」


 お母さんは冒険者時代の後輩が来たらしくて見せ前でしゃべっていた。


「アン姉さんが冒険者を辞めてもう7年っすか……新人の頃は本当にお世話になりました」


「ミラも今では一流冒険者なんだから胸を張りなさい」


「ハイっす! 今日はアン姉さんの品を見ていっても良いっすか」


「勿論よ。ただ大型は無いわよ」


「アン姉さんの小銃ならドラゴン未満なら倒せるじゃないっすか。十分っすよ」


 ミラさんはお母さんからカタログを渡され、ペラペラと捲る。


 気に入った品があったらしく実物を見せてもらっていた。


「磁鉄鉱で作ったレールガンっすか」


「単発かつ雷属性を付与された魔弾しか使えないけど威力は一級品よ。ミラも雷属性だから弾丸に魔力を付与すれば継続的に使えると思うけど」


「試し撃ちしてみてもいいっすかね」


「庭でなら良いわよ」


 私も興味があったので行っていいか聞く


「アン姉さんの子供っすか?」


「ええ、アリスって言うの」


「アリスです。えっとミラお姉さん」


「かわいいっすね! アン姉さんに似て美人さんになりますよ」


「ええ、自慢の娘よ」


 お母さんも来ても良いって言われたので試射に立ち会う。


 他にも興味があったお客さんがぞろぞろと庭に移動してアンダマイトて作られた的を用意する。


「3、2、1……発射」


 バビュンと光の線が放たれた様に見えてバチンと的に当たる。


 アンダマイトの的に当たるとアンダマイトが黒く光って、当たった場所が真っ赤に光り輝いていた。


「こりゃ凄いっすね。これならドラゴンでも腹部の柔らかい部位なら効くんじゃないっすか?」


「ドラゴンにはもう少し銃身を伸ばした貫通力を上げた物じゃないと安定しないわよ。それにこの銃は次弾発射に3秒必要なのよ」


「3秒っすか……威力も弾速も十分なだけに惜しいっすね」


「なぁ姉ちゃん、買わねぇんだったら俺買いたいんだが良いか?」


「俺も欲しい。雷属性の弾丸を用意すれば良いんだろ?」


 ミラさんは買わなかったが、他の見ていたお客さんが同型のを含めて3丁売れた。


 お母さんもミラさんともっと喋りたそうだけど、お店の事があるので売り子に戻る。


「やっぱり銃は高いなぁ」


「剣で良いのが売ってるぜ」


「お! まじか!」


 ちょくちょく上級生の子も来るのだが、お父さんの武器の方が安いのでそちらにお客さんが流れていってしまう。


 お父さんもさばききれなくなって、私が上級生に商品の説明をしているくらいだ。


「このハンマー値段が他のに比べると高いけどなんで?」


「このくぼみに属性魔法を込めたパーツを組み込むとその属性の追加ダメージが入るようになるんですよ。炎なら叩いたダメージと延焼ダメージが入るみたいに……パーツはコチラにありますが、失礼ですが魔力の付与が慣れてないと使いづらいので、少し安くなりますがこっちのハンマーの方が良いですよ」


 とか


「ねえねえこのナイフ素材剥ぎ取り用って書いてあるけど攻撃には使えないの?」


「使えなくは無いですけど、直ぐに刃こぼれを起こしてしまいますよ。倒したモンスターの素材やダンジョンに生えている植物採集を目的としたナイフなので耐久性が攻撃用ナイフより無いんですよね。その代わりに切れ味を維持する仕組みが施されてますから、ナイフを研ぐ回数を減らせるので、長持ちするんですよ」


 などの説明をしていく。


「ねえこの魔弾作ったの君かい?」


 上級生と思われる人から話しかけられた。


「はい、このまとめ売りの魔弾は私が作りましたが」


「適正階層は何階までだい?」


「2階層までです。3階層以下はお母さんが作ったのがありますが」


「ふーん、じゃあ炎と雷の魔弾を1ダースずつ買おうかな」


「ありがとうございます」


 上級生の人は腰に銃をぶら下げており、魔弾を探していたらしい。


 私も初めて自分が作った商品が売れて感動した。


 お金を貰い、箱に詰めて渡していく。


 上級生は一緒に来ていた友達に弾丸を運ぶのを手伝って貰いながら祭りの人混みに消えていった。


「やっほーアリス!」


「メアリちゃん!」


 約束通りメアリちゃんとお兄さんがお店にやって来てくれた。


 メアリちゃんのお兄さんは冒険者では無く、既に商人としての道を歩くと決めているので学校を卒業してからはメアリちゃんのお父さんと一緒に商会を経営に携わっているらしい。


 ギルドから素材を仕入れてくるのを最近任されたとも聞く。


「やっぱりアリスの家の品揃えは凄いね」


「はい、メアリちゃんカタログだよ」


「ありがとう……アリス、私武器について迷っているんだけどこのまま順調に行けばアリスとアナとパーティーを組むでしょ」


「そうだね」


「アリスが銃手でアナが調理器具を用いた前衛……となると私はどのポジションが良いのかなって思って」


「メアリちゃんは運動神経が私達の中で一番良いから動ける前衛が良いんじゃないかなって思う。正直アナちゃん1人に前衛やらせるのは酷だし」


「確かに……そうなると片手剣にアームシールドが良いのかな」


「うん、となると片手剣は軽くて毒を染みやすいこれとかどうだろう。カラストだけど頑丈かつ刃こぼれしにくい構造になっているよ」


「値段は……ちょっとお小遣いじゃ足りないわね」


「まぁ武器は4年生になるまでは吟味して良いんじゃないかな?」


「うーんでも使い慣れていた方が良いし、素振りとかも実物でやる方がトレーニングになるし……」


 すると店内を眺めていたメアリちゃんのお兄さんが


「なんだメアリ、そのカラストが欲しいのか? 俺が足りない分出すぞ」


「え? 良いの?」


「冒険者になって有名になってくれれば親父の商会も有名になるからな。そしたらメアリの兄って俺も商談がやりやすくなるから投資だ投資」


「ありがとうお兄ちゃん!」


 ということでメアリちゃんはカラストと練習用のアームシールドを購入した。


「アリスも店番だけじゃつまらないだろ。少し遊んできても良いぞ」


 と、お父さんから言われたので、お小遣いを貰ってメアリちゃんと一緒に祭りに参加しに行く。


 ちなみにメアリちゃんのお兄さんは買い物があると別れたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る