アリスとお祭り準備

 収穫期も終わり、少し気温も下がり始め、海で泳ぐ子供達も少なくなり、海のシーズンも終わった。


 そしてこの時期になると始まるのがお祭りで、冬を乗り越えるために力をつけようという願いから1週間お祭りが始まる。


 他の島からもお祭りに参加するために人が集まるのでワロン島全体が賑わうのだ。


 私も今年から出し物を出す側で参加するために、魔弾の製造に力を入れる。


 今までは付与しては解除してという練習ばかりであったが、技術が向上したので2階層までだったら十分に通用する魔弾を作れるようになったので、お店で売り出しても良いと言われた。


 まぁ値段は凄く安く、材料費込みで収益とトントン……しかも50発のまとめ売りの対象商品である。


 それでも私は冒険者に使われるように頑張って魔弾を仕込むのであった。








 お祭りではお金がいつも以上に動く。


 なので算術の授業もお金についての授業になる。


「まずお金の単位はゴールド……文字にするとgと書くわ。銅貨が1ゴールド、大銅貨が10ゴールド、青銅貨が100ゴールド、大青銅貨が500ゴールド、銀貨が1000ゴールド、大銀貨が5000ゴールド、金貨が1万ゴールド、大金貨が10万ゴールド、魔銀貨が100万以上、更に上になると堅鋼貨(アダマンタイト)になると言うわ。そこまで行くと国家間での取引用ね。貨幣は同盟だったり連合だったりする島々の商業圏によって変わってくるわ」


「ワロン王国はゲルン協商圏という商業圏の島なので商業都市ゲルンが発行するゴールド通貨を使っているわ。他の商業圏だったらシルバーとかプラチナとか別の単位の言葉が使われることもあるの」


「さて、私達がよく目にするのは金貨まで、子供達のお小遣いともなると大きくても銀貨ね。お祭りでは青銅貨で食べられる屋台が立ち並ぶからお父さんやお母さんに言って青銅貨を多めに貰うと良いわよ」


 とリリー先生は教えてくれた。


 私の場合は弾丸が1発5ゴールド、魔弾に加工すれば10ゴールドで、50発のまとめ売りだから500ゴールドになるのか……。


 大抵魔弾を使えば適性以下のモンスターは1撃、多くても3発で死ぬ為、平均すると1発20ゴールドで倒すことになる。


 リリー先生曰く一番出会うことになるスライムの粘液1キロで50ゴールド、次によく出くわして換金率が高いとされるホーンラビットが1匹500ゴールド、珍味とされるゴブリンの睾丸が100ゴールドらしい。


 弾丸の値段はするが、銃さえ買うことができれば黒字になるとお母さんが言っていた。


 まぁその銃が高いのだが……。


 例えば私が練習でよく使っている回転式拳銃……魔法の武器でもなんでもないベーシックなタイプでも10万ゴールドする。


 鉄のナイフが500ゴールド、鉄の剣が2500ゴールドと考えるといかに高いかがわかる。


 今回のお祭りはお父さん、お母さんにとっても稼ぎ時らしく銃だけでなく防具とかも気合いを入れて作っていた。







 午前の授業が終わり、お昼のお弁当を食べる時間、いつもの3人でお弁当をつついているが、お喋りの話題はやっぱりお祭りについてだ。


「私はお父さんやお兄さん達と一緒に村に食材の買い付け行かないと……お祭りよりもその前の準備の方が商人は忙しいわ」


 メアリちゃんはお祭り前に食材の買い付け作業があるらしく、今度の学校のお休みの日にお父さんやお兄さんと一緒に村を巡ってお祭りで消費する食材を揃えるらしい。


「私の家はお祭りが本番かな……今年も家はポトフとホーンラビットのハンバーグを売り出すから是非とも来てほしいな。希望があればパンも追加で出す予定だよ」


 アナちゃんの家は料理人ということで料理を振る舞うらしい。


 毎年具だくさんのポトフとホーンラビットのハンバーグは絶品で行列ができることもしばしばだ。


「アリスの所も武器を売るんでしょ?」


「うん、初心者用の武器からベテランでも使える逸品を見せ前で並べて売るんだ。マネキンに鎧を着せたりするから大変だよ……」


「4年生になると来年には卒業して冒険者になるから武器を選びに来るんじゃないの?」


「そうだね。ただ3年生の人も多いよ。4年生のダンジョンアタックの授業で自前の武器で挑む人も多いからね」


「「なるほど」」


 メアリちゃんが


「私も武器を選ぶ時はアリスの家で選びたいわ」


 と言ってくれた。


 アナちゃんは武器については親の御下がりがあるので、最初はそれで頑張り、防具だけは私の家で選びたいと言ってくれた。


「まぁ今買ったら背が伸びて着れなくなるとかあるからもっと先だね」


「そうね。でも武器だけはどんなのがあるか見たいからお祭りの時に見せてもらおうかしら」


「うん、メアリちゃんぜひ来てよ」


「良いなぁ……私はお祭りは家の手伝いをしないといけないから」


「お祭りじゃなくても売出す物は殆ど変わらないし、カタログがあるからぜひまた家に来てよ」


「うん! 行くね」


 そんなお話をしながらお昼の時間を過ごすのだった。









 冒険の授業でもお祭りに関する事をジーク教官が経験則で語ってくれた。


「多くの島は冬の終わり、収穫後、年の変わり目、の3つの季節の何処かでお祭りが開かれるんだ。冒険者はお祭りを楽しむだけだと3流って言われちまう。ケビン、なんでかわかるか?」


 ケビンと言われた男子は少し考えたあとに答える。


「お祭りに合わせてダンジョンの素材を売り込むとか?」


「正解。お祭りの少し前からダンジョンの素材の買い取り値段が上がるんだ。それに合わせて素材の売り込みをかける。基本ギルドが買い取ってくれるし、この時期は色をつけてくれるが、個々人でクエストを発注されることもある」


「依頼者とギルド職員、冒険者の3者の合意があれば指定依頼ってのが受けられることがある。指定依頼の場合はギルドの取り分が少なくなる分、冒険者の取り分が多くなる仕組みで、依頼内容によるけど依頼者も安く素材を集めることが出来る仕組みだ。名が売れている冒険者はこの祭りの時期には指定依頼が多くなる」


「まぁ冒険者にとっては祭りの準備期間が稼ぎ時ってわけだ。それに祭りの期間中は武器屋や防具屋等も売り込みをかけるからいつもより安く買えることがある。交渉しなくても安く買えるってのは魅力的で、武器や防具の交換もこの時期に行うと良いぞ」


「あと祭りは出会いの時期でもある。多くの船が停泊し、人が流れ込むから情報収集をするも良し、意気投合してパーティーメンバーを集めるも良しってわけだ」


「祭りを通じて男女の関係になってその島に永住することを決めたなんて冒険者も居るからな」


「だから冒険者も祭りに向けて稼いで、祭りで散財する。散財する中で多く得られるものがあればそれが次の冒険に生きてくるんだ。まぁ今はお前達は祭りを楽しんでくれば良い! 来週から始まるから皆お小遣いもらっておけよ」


「「「はーい!」」」


 お祭りの重要性についての授業だった。

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