アリスと体操

「よし揃ったな。冒険についての勉強を担当する教官のジークだ。よろしくな」


「「「はい! ジーク教官!」」」


「元気があってよろしい。と言っても1学年は体力づくりが基本となるから頑張っていくぞ」


 校舎正面にあるグラウンドで私達のクラスはジーク教官に見てもらうことになった。


 同じ時間に他のクラスも教官がついて色々やっている。


 例えば4年生のクラスは魔法を使った実戦形式の戦闘訓練だったり、3年生のクラスは障害物走をしていたりと様々だ。


「よしじゃあ今日は体操や柔軟について勉強していくぞ! 体をほぐすことで怪我の予防になるからな」


「「「はーい!」」」


 私達は距離を開いて、ジーク教官の動きに合わせて体操をしていく。


「うーんうーん!」


 ジーク教官がリズムを言っていき、リズムに合わせて体を伸ばす。


 ジーク教官は毎日欠かさずに柔軟や体操をしているためか、体を屈める時に手のひらが地面にべったりついたり、曲げる時も私には届かないような場所に手が届いたり、開脚して体を伸ばすのも、私は膝が浮き上がるのに、べったりと膝が浮き上がらずに左右両方体と足がくっつくような柔らかい動きをしていた。


 皆体が硬くて痛い痛いと口々に呟く。


 私もピリッとした痺れるような痛み……可動限界の痛みといえばよいのか、そんな痛みが来るが、ペアを組んだ子からグイグイと押される。


 皆普段使わない動きをしたためか少しバテ気味である。


「体操だけで1時間はつまらないから逃げる特訓をして終わりにしようか」


 グラウンドの芝生の部分で捕まえっこ(鬼ごっこ)をする。


 捕まえ役は小鬼(ゴブリン)、逃げる側を兎と言って、小鬼からとにかく逃げてタッチされたらその場で死体(棒立ちの状態)にならないといけない。


 全員捕まったら小鬼に勝ち、時間いっぱい兎が逃げ切ったら兎の勝ちというシンプルなゲームだ。


「よし鬼を決めるぞー」


 ジーク教官から小鬼役と言われた人が3人呼ばれる。


「よし、じゃあ10数えたら始まりだーせーのいーち、にーい……」


 わーっと蜘蛛の子を散らす様に芝生の中を兎役の人達が逃げ回る。








 私も結構逃げ回ったが、足の速い男の子に追いつかれてタッチされてしまった。


 そして時間切れの笛をジーク教官が吹いて終了。


 結果は兎役が何人か逃げ切って勝利した。


「はい、そこまでだ。走るってのも冒険者だけでなく、普段の生活でも生きてくるからな」


 そうジーク教官は言ってクラスに戻り、掃除して解散となった。








 放課後になり、私とメアリちゃんとアナちゃんはジーク教官を訪ねていた。


「なんだ家でもできるトレーニングを知りたい」


「はい! 前にスライムと戦った時に怪我したし怖かったの……冒険者になったらスライムはよく戦うモンスターって聞いたから!」


「わかったわかった。家でもできるトレーニングな。まず今日教えた体操とストレッチは毎日しろよ。これを真面目にしていたかどうかで将来の冒険者人生の活動期間が変わってくる。風呂に入った後とかはよくやった方が良いぜ」


「他にはそうだな……自重トレーニングっていうのがある。腕立て伏せや腹筋、背筋って言われトレーニング方法だな。あとは腿上げとかか……」


「腿上げ?」


「その場で腰近くまで膝をあげて足踏みするトレーニングだ。これを片足100回を3セットしてみろ。足がパンパンになるから」


「筋トレって言われるものは筋肉を使ってパンパンにすることで休ませた時に魔力を体に馴染むようにするのが目的だ。筋肉も原理は分からないけど大きくなっていくからな。まずはこれと体幹を鍛えるトレーニングを教えるから毎日やってみろ。1ヶ月もすれば効果を実感するから」


 そう言われて腕立て伏せ、腹筋、背筋、体幹トレーニング3種類と腿上げのやり方を教わった。


 どれもトレーニングにしては地味だけど、やってみると目標回数に行く前に腕や腹筋、足がパンパンになってプルプル震えてしまう。


 体幹トレーニングは目標時間できたけど、それでも凄い疲れた。


「最初はそんなもんだ。徐々に回数を増やしていってみろ。そしてよく食べる! できれば魔物の料理をな!」


 そう言われてオススメの魔物料理についても教えてもらった。


 この島で安くて美味いとなるとホーンラビットの肉とか水トカゲの肉とかの料理が良いと言われた。


 水トカゲは3メートル程の大きさで、普段は温厚だけど攻撃を加えると狂った様に攻撃してくる為一撃で仕留める必要があるモンスターだけど、肉厚で、赤身魚と同じ様な味で牛肉の様に弾力があるのでステーキや煮物にすると美味しいモンスターだ。


 討伐方法や怒らせてしまった時の対処法も確立されているので毎日多くの水トカゲの肉が、市場に並ぶ。


 そんな事を教わり、家に帰ったら親御さんにモンスターの食材を食べたいと言えば良いと言われ、実際に家に帰ってそう伝えたらお母さんやお父さんから


「ジークに何か言われたわね。まぁ子供は誰しも通る道だね。わかった。モンスターの料理を必ず1品作るようにするわ」


 と言ってくれた。








 お風呂に入ってから柔軟や体操をした方が良いと言われていたので早速実践する。


 お風呂は貯水タンクから水を流して、熱石と呼ばれる魔力を込めると熱くなる石をお風呂に入れる。


 するとお湯になるので適温になったら熱石を引き上げて今度は料理に使ったりするので鍋等に入れて沸騰させたり、冬には複数個を温風機と呼ばれる魔道具に入れて温風で部屋を暖めたりする。


 体を洗ってからお風呂に使って体を癒し、お風呂から上がったら下着姿で体操を始める。


 お風呂を沸かすのは魔力付与の練習になるからと私がやるようになっていた。


 お風呂に入ったらご飯の時間だ。


 今日は私の要望通り水トカゲのステーキで、分厚い水トカゲを塩とレモン汁、トマトソースをそれぞれかけてパンと一緒に食べた。


「うんん! 美味しい!」


「アリス学校は楽しかった?」


「うん! 楽しかったよ!」


「ジークは教官やれてたか?」


「ジークおじさん……いや、教官から体操とか柔軟のやり方を教わったの! 痛気持ちいいっで言えば良いのかな?」


「お、柔軟教わったのか……」


「あと放課後に家でトレーニングできる方法を聞いたら自重トレーニング? ていうのを教わったよ!」


「それは良かったわね……じゃあ夜は魔力が少なくなるまで弾丸への付与をしましょうか。これもトレーニングよ」


「はーい! 頑張るね」


 こうして私の学校生活が始まるのだった。




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