アリスと魔法球

「船が来たぞ!」


 私がお母さんと買い物をしていると、港からそんな声が聞こえた。


「アリス、新しい船かもしれないわね……少し見に行こうか」


「うん!」


 船がやって来ることは珍しくはない。


 それこそ嵐の日以外は毎日何かしらの船がやって来る。


 周囲の島々を巡る定期船かもしれないし、他の島のダンジョンの品々を満載したギルド船かもしれない。


 ギルド船というのは船の中に冒険者ギルドがある船で、冒険者が乗り込んで他の島に行き、未開のダンジョンに挑んだりする船だ。


「ギルド船! ギルド船だよ!」


 ギルド船から船員が降りてくるとテキパキと積荷の一部を降ろして屋台を作り、食材だったり素材の叩き売りを始める。


 ギルド船だと分かると人々が集まりだし、この島では食べることができない食材を買ったりしていく。


「さぁ買った買ったサン幼虫の糸の束だよ! 1束50ゴールド! 買ったかった」


「スターダストフルーツだよ! おいしいよー!」


「生きたシュガーバードだよ! なんと100羽も入ったよ!」


 商人達だったり、近所のおばちゃん達、ダンジョンアタックから帰ってきたおじさん達もギルド船から降ろされる商品をどんどん買っていく。


 私もはぐれないようにお母さんの手をしっかり握って歩いていく。


 お母さんは次々に商品を買っていく。


「アリス! ハニービーの蜜が買えたから今日はホットケーキをおやつにしようか」


「やった! ハニービーの蜜好き!」


 私はふとギルド船の甲板を見ると冒険者の方達だろうか……甲板の手すりに腰を掛けて売買の様子を眺めている人々が居た。


 私が手を振ると気がついたのか手を振り替えしてくれた。


 少し嬉しくなった私はルンルン気分でステップを踏みながらお母さんと一緒に帰宅するのだった。








 今日はお母さんと魔弾についてのお勉強だ。


「アリス、魔法には色々な属性があるの。炎、土、風、水、氷、雷、闇、光の8属性が大きな属性となっているわ。魔弾に込められる属性は基本1つね」


「えっと……普通の人は2種類の属性適性があって、勉強したり才能か食べる物によっては4種類まで増やせるんだよね」


「天才と言われる人は6種類操れることもあるけれど、これは例外ね。アリスはまだ小さいのに3種類操れるから頑張れば4種類までは伸びると思うわ」


「頑張る!」


「その意気ね! じゃあこの島の住民に多い属性を聞こうかな」


「えっと水属性の人が多いんだっけ?」


「そうね。これは魚系のモンスターがワロン島のダンジョンだと多く出てくるから、それを食べる人々に水の魔力が宿りやすいのよね。アリスも水属性の魔法が得意でしょ?」


「うん。弾丸に水属性の付与できるよ」


「あとはアリスの属性はお父さんの炎と私の雷を受け継いでいるわよね」


「うん、だから私の使える魔法属性は炎、水、雷だね」


「じゃあジークは何の属性か覚えているかしら?」


「えっと……炎と土?」


「正解。よく覚えていたね」


 お母さんからよしよしと撫でられる。


「炎や土って水属性と相性が、よくないのは知っているわよね?」


「炎は水をかけられた消えちゃうし、土も水をかけたら柔らかくなるよ。だから相性が悪いの?」


「まぁその考え方で合ってるわ。そんなジークが水系の多いダンジョンだと苦労すると思わない?」


「……確かに相性が良くないよね」


「そんな時に魔弾だったり武器を工夫するのよ。例えば水属性に強い防具で固めて、短剣はどんな属性にも一定のダメージが入る光属性の武器にして、予備の拳銃の弾丸はダメージが入りやすい雷属性にするっていう風に自身に足りない要素を武器や防具で補うの」


「なるほど!」


「ちなみに武器の属性は8属性だけじゃなくてもっと大量に有ったりするのよ」


「へえ……あ! 爆破とか!?」


「そう。それらは武器特性と言われたりするわ。水属性も毒だったり塩だったり海水だったり水蒸気だったり熱湯だったり色々あるわ。自身とパーティーの魔法属性と相性を加味して冒険者は武器を決めていくのよ」


「じゃあ魔弾も頑張ればもっと細かい武器特性を付与できたりするの?」


「ええ、できるわ。ただ今のアリスには武器特性よりも基礎の属性単位の魔弾のムラを無くさないといけないわよ」


「はーい」


「ふふ、そんなアリスにプレゼントよ」


「プレゼント?」


 お母さんは透明な水の入ったボールを渡してきた。


「魔法球と言う魔法の練習用の魔道具ね。持ってみて」


「重い……」


 水が入っているからか私には凄い重く感じた。


「魔力を流してみなさい」


 お母さんに言われるがままに魔力を流してみると軽くなった。


「なにこれ!? 面白い! かる~い」


「魔力を込めれば込めた分だけ軽くなるのよ。そして中の水をよく見て」


「あれ? 少し減った?」


「いや、膜を張っているの。この水を魔法球全体に満遍なく張れると空中に浮くようになるのよ」


 お母さんに魔法球を渡して手本を見せてもらうと、魔法球の中に渦が出現して中の水がどんどんなくなっているように見える。


 空っぽになるとお母さんが魔法球から手を離すと確かに魔法球がお母さんの腰の位置で浮いている。


 私が凄い凄いと手を触れるとまた水が現れて軽いけど重さを感じてしまった。


「ああ……」


「コツを掴めれば一気に魔法のコントロールも上手くなるから頑張ってみない?」


「うん! 私頑張る!」


「じゃあ今日は魔法球の練習を頑張ろうか!」


「うん!」








「うーん」


 数日頑張っているが魔法球は浮くことは無く、軽くはなるけどまだ重みがある。


「思い出せ……お母さんはどうやった……」


 水の中に渦……渦? 


「渦? こういっぺんに膜を張る感じじゃ駄目なのかな……となると渦を作るイメージ……」


 魔法球の中に渦ができるが変化した感じは無い。


「違う……渦を作ることが目的では無い? ……あっ!」


 私は魔力を渦に流れるように流し込む。


 すると魔力が全体に込められた水を膜になるように誘導すると魔法球は浮き始めた。


「渦を作ることで魔力を水の中に満遍なく行き渡るようにしたんだ! 卵をかき混ぜると全体が黄色くなるように……それを魔力に見立てれば……」


 私の頭の位置で浮いている魔法球。


 私は今度は魔法球に乗って浮くことができないか試してみることにした。


「足に挟んで……足から魔力を流す感じで……えいっ」


 確かに魔法球は浮いたが、私はグルンと回転してしまい、頭から地面に強くぶつけることになるのだった。


「ビェェェェェン」


 私は痛みと何が起こったかよく分からずに大泣きし、しかも不運は重なるもので、魔力の効力を失った魔法球が私のお腹に落ちてきてドスと綺麗なボディブローを受けてしまい、痛みで気絶してしまうのだった。







 でも確かにコツは掴めた。


 魔弾に魔力付与をする時にいつもより魔力を込めなくても今まで傑作と思った魔弾と同じ品質の魔弾がいっぱい作れるようになったし、お母さんからもこれなら魔弾については合格点をあげる事が出来ると言われて、次は銃についての勉強が始まるのだった。

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