アリスの海洋大冒険

星野林

アリスとお父さんとお母さん、そしてジークおじさん

「ねぇねぇ! お父さん! お父さんの冒険のお話を聞かせてよ」


「そうだな……あれはドラゴンと戦った話はしたか?」


「ドラゴン!? ドラゴンって赤くて翼が生えていてギザギザがいっぱいあって、火を吹くあの!?」


「俺が戦ったのは黒いドラゴンだったな……異国では黒龍と呼ばれるモンスターだったな。俺と母さんと……パーティーの皆で戦ったんだ!」


「へぇ!」


 カンカンとお母さんがフライパンを持ってやって来る。


「はいはい、お話も良いけど、朝ごはんを食べないといけないわよアリス」


「えぇー! 今お話が始まったところなのに……」


「ハハハ、じゃあお仕事が終わったらまた話してあげるよ。母さんに聞いてもいいぞ。同じお話でも視点が違えば2度面白いからな」


「むうー! ねぇお母様! お父さんが黒いドラゴンと戦った話しを聞く途中だったの!」


「あ~懐かしいわね。朝ごはんを食べたら話しましょうか」


「やった!」


 ダダダとリビングに走っていくアリスを見て2人はやれやれといったポーズをする。


「お母さん! お父さん! 早くご飯を食べよ!」


「わかったわかった」


「今行くわ」


 この物語はアリス·スチュワートの冒険の記録である。









 アリス·スチュワートことアリスは父親で鍛冶屋のジンとガンスミス(銃職人)の母親のアンの子供として生まれ、綺麗な金色の髪に青い宝石のような青い瞳を持ち、人形みたいとよく言われる。


 彼女は両親の話す冒険の話が大好きだった。


 ダンジョンから湧き出てスタンピードを起こしたモンスターから町の住民を守った話。


 ドラゴンと戦い、ドラゴンステーキを食べた話。


 ダンジョン内の砂漠でサボテンのモンスターで水を確保した話。


 ……どれも幼いアリスにとって刺激の強い話であった。


 そんなアリスが冒険者を目指すのは自然な流れであった。


「私も冒険者になりたい!」


「まだ駄目よ」


「そうだぞアリス。せめて母さんに習って銃を一通り作れる様になったらな」


「ええ! でもお母さん基礎の魔弾に魔法を練り込むのばっかりで銃の分解と組み立てしかさせてくれないじゃん」


 そう言うと父親のジンはアリスの頭をポンポンと撫でる。


「小さな小物を使って魔力操作と魔力付与の練習は将来必ずいきてくるから母さんの言う事を聞いてしっかり頑張りなさい」


「ええ! お父さんもお母さんの肩を持つの!」


「ハハハ、アリスが冒険者になりたいならなおさら母さんの肩を持つさ」


「ブーブー」


「さぁアリス、今日も魔弾を練りましょうね」


「はーい」









 一般的に魔力のある食べ物を食べると体内に魔力が溜まっていき、人類は魔法が使えるようになっていった。


 アリスの母親のアンと父親のジンも後天的に魔力を得た人種だ。


 しかし、魔力を持つ両親もしくは片方の親の子供は稀に魔力を持つことがある。


 アリスも生まれながらに魔力を持つ子供だった。


 なので学校に行く前の幼い頃からアンはアリスに魔法を使う基礎となる魔力操作と魔力放出(魔弾を作る時に魔力を付与すること)を徹底的に教えていた。


 まぁ幼年学校に通うようになる頃には食卓に出てくるモンスターの肉等で体内に魔力が溜まり、魔法は使えるようになるが、魔力総量だったり幼年学校で始めて魔法に触れる子供達より大きなアドバンテージになることは間違いない。


 そして幼年学校を卒業して冒険者になるようになればスタート地点が高い位置からスタートすることができる。


 後は強いモンスターをいかに食べるか、いかに良い装備を身に着けられるかに関わってくるが、それは親に手出しできる所ではない。


 アンやジンは自身が魔力を持って生まれてこなかったのに、最終的にはドラゴンをも倒せる一流冒険者となり、一生遊んで暮らせる資金を確保して陸地に住居を構え、冒険者向けの装備の整備をしながら暮らしていくことができている。


 冒険者としては一線を退いたが、町の人達は口々に夫婦を成功者として語る。








「うーす、アンにジン久しぶりだな。お! アリスも更に可愛くなったんじゃねぇか?」


 私が弾丸に魔力を付与していると店の扉が開き、見覚えのある男性が入ってきた。


「あ! ジークおじさん!」


「ありゃりゃ、俺はまだお兄さんって歳だと思うけどな」


 すると店の奥からお父さんが


「何言ってるんだジーク、俺もお前ももうおじさんって年齢だよ」


「そりゃねぇぜジン……仕事持ってきたぜ。俺の装具の改良を頼む」


「ほほう。素材は?」


「5階層のデススターのコアと外殻だ」


 デススター……お父さんの話だと私達の住むワロン島のダンジョンに生息する魔物で、5階層というのはダンジョンの深部と呼ばれる場所だ。


 ダンジョンは1島に1カ所という法則があり、ダンジョンのある所に島があると言われている。


 ダンジョンが大きいほど島の大きさも大きいとされているけど、大きな島でも町が5つあるくらいの大きさしか無いらしい。


 だから船が凄い発達していて、お父さんとお母さんは船に乗って様々な島を旅している最中に出会ってパーティーを組んだんだとか……最初の出会いについては頑なに教えてくれないのだけど……。


 ジークおじさんは今でも一流冒険者としてダンジョン攻略を頑張っている人だ。


 ダンジョンから取れるアイテムだったり鉱石や植物、モンスターの素材は高く売れるらしいから皆深く深く潜っていく。


 一流冒険者は5階層以下に行ける人でお父さんとお母さん、ジークおじさんのパーティーで他の島だけど8階層まで行けた事があるらしい。


 伝説として名を残した冒険者は10階層で巨大な魔鉱石を発掘してきて売ったお金で国を興したという話もある。


 冒険者には夢がある。


 私は幼いながらにも裕福だと言えるけど、貧乏人だろうが成り上がれるのが冒険者だ。


 ジークおじさんも幼少期は孤児院出身って言っていたし……そんな人でも今では町の人から尊敬される人になれる。


 金も名声……時には地位も手に入るのが冒険者……しかも島々の物流や食糧事情を担っているのも冒険者だから冒険者を中心に町が回っていると言っても良いってお母さんが言ってたっけ……。


「ジークおじさん魔弾はいかが?」


「お、拳銃の魔弾はあるか?」


「はいこれ!」


「う〜ん、これじゃあ使えないな〜」


「ええ! 自信作だったのに!」


「手本のお母さん魔弾をよーく観察してみろ……魔力付与に一切の乱れがねぇ。アリスは言っちゃ悪いがでこぼこしているんだ。俺の戦い方は片手剣にアームシールドだが剣が効きにくい敵には魔弾を用いた予備の拳銃で戦いこともあるんだが……拳銃で駄目だった場合、命を散らす時だからな。だから拳銃は俺にとって命綱なんだ。だから妥協ができねぇ」


 私はしょんぼりしてしまうが


「ただ腕は確かに上がっているぞ。これなら1階層の敵だったらしっかり倒す事が出来るだろう」


「ほんと!」


「ああ、本当だ」


 私はジークおじさんに褒められたのが嬉しくて小躍りすると、お母さんが


「ジーク、そんな簡単に褒めちゃ駄目よ」


「おいおい、アン。アリスも頑張っているんだから。それに子供は褒めた方がよく伸びるんだぜ〜」


 わしゃわしゃとジークおじさんが私を撫でてくれた。


 お父さんと同じくらい硬くて、何回も皮が剥けて分厚くなっている手は凄い温かかった。


 私は自分の手を見てからグーパーとにぎにぎして手を確認するが凄い柔らかい。


 素材を吟味していたお父さんがジークおじさんに声を掛ける。


「そう言えばジーク、幼少学校の教官の話も来てるんだろ? 受けるのか?」


「すっげぇ悩んでる。俺も人生経験は積んできたと思うが、それを子供達に教える事が出来るかっていったら未知数だからな」


「あら、ジークは子供を教えるのに向いていると思うわよ。ギルドの後輩を一人前に何人もしてきたじゃない」


「……あれは素質があると思った奴だけだ。ただ幼少学校ともなれば子供達全員に教えなければならない……そして素質が無いと思った子供にはキッパリ伝えなければならない。その子の人生に関わるからな。それが俺は怖い」


「へぇ……ジークにしては考えているのね」


「でもよジーク。幼少学校の教師ではなく教官だ。教官になれるのは町の人から信頼されているかつ一流冒険者じゃないと許されない。もしくはよほど教えるのが上手いかだ。ジークは何人も新人を一人前に鍛え上げた実績もギルドが記録している。もう十分に稼いだろ。パーティーも解散したんだ。そろそろ第二の人生を探す頃合いだぜ」


「……考えておくよ。ジン、防具はどれぐらいかかる?」


「そうだな3日あれば大丈夫だ」


「わかった3日後の夕方に取りに来るよ」


「ああ、それだったら終わってるからな」


 そう言ってジークおじさんは店を出ていった。


「ジークおじさん教官になるの?」


「アリスはジークに教わりたい?」


「ジークおじさんの話面白いから教わりたい」


「そうか……今度ジークが来たら言ってやるといいぞ」


「はーい」

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