第3章 トカゲの種族
1
人体アーティスト・
家具屋敷。
目隠しして連れて来られたので詳しい場所はわからないが、そう遠くはなさそうだった。
下手すると県内。
私有地の森の中。
古びた洋館の観音開きの扉が勝手に開いた。
甘いような苦いような独特の匂いが漂ってくる。
これを長時間嗅いでいると頭がおかしくなるので注意したほうがいい。
俺はもう麻痺しているので関係ないが。
入ってすぐのエントランスに燕薊幽が立っていた。
鮮血色のチャイナドレス。
黒い髪。蒼い眼。白い肌。赤い唇。
「ようこそ、私の家具屋敷へ」燕薊幽は今日は日本語で喋った。
気分で変わるかもしれないが、いまのところは会話がしやすそうだった。
「国内に作るなよ」
「存外志望者多くて困らないの」
2階建て。
吹き抜けの木造階段(手すりはニンゲンが支えている)を上がり、広い部屋に入る。屋敷の構造自体は実家のそれとよく似ていた。
長いテーブルの脚にニンゲンが張り付いている。テーブルの裏にもニンゲンがいた。
ここにある家具はすべてニンゲンでできている。
蝋燭台を持つニンゲンが自分で火を点けた。
窓のない薄暗い部屋に炎が揺らめく。
「何の用?」テーブルに着いた燕薊幽が口を開く。
「呼んだのはそっちだろ。しっかりしてくれ」
「そうだったかしら。ああ、椅子の話ね」燕薊幽がたったいま思い出したようにぱん、と手を叩いた。
がらがらがらと秘書がカートを押してきた。
そこに、
椅子になろうとしているニンゲンが載っていた。
「材料がたくさん手に入ったの。でも使い物になったのはこれだけ」
見間違いでなければ、
あのとき
気のせいでなければ、
あのときの苅狛似吹が一糸まとわぬ姿で椅子になろうとしていた。
「どうやって回収したんだ?」
警察に逮捕されたはずだが。
「そんなのどうとでもなるの。ちーろの父親とかね」
「あれは父でも親でもなんでもない」
「そうなの? あれの息子とはよろしくやってるじゃない」
「やってない。不快だからあいつを巻き込むなよ」
「それはちーろの振舞い次第じゃない?」燕薊幽がテーブルで頬杖をつく。
その動作に動揺したのか、燭台が揺らいだ。
「えんでは見つかったの?」燕薊幽が言う。
「そこまで知ってるなら協力してくれ」
「好き勝手やってると思ってるんでしょう?」
「好き勝手やってなきゃ困るんだよ」
あいつはいつも損な立ち回りで。
「先生っていうのを追いかけてるの」燕薊幽が言う。
「だろうな」
「でもその先生っていうのはえんでのことを何とも思ってないの」
「らしいな」
燕薊幽が秘書を下げた。
秘書はささやかに抵抗したが、燕薊幽の一睨みで折れた。
「ああやってうるさいのが気に入ってるの」秘書が廊下に消えてから燕薊幽が言う。
カートに載ったままの椅子。
蝋でコーティングされたのか、艶々と炎を反射した。
「いい椅子になるわ。座ってみる?」燕薊幽が椅子の背もたれに触れながら言う。
「結構だ。こいつを見せて何がしたかったんだ」
「あなたの振舞い次第ではお友だちがこうなるってこと」
「脅迫か。あんたの世界を壊す気はないってゆってるんだがな」
「じゃあ何がしたいの?」燕薊幽が別の椅子に座りながら言う。
椅子からため息が漏れた。
もともとそれはニンゲンだった。
「えんでを止める。あいつは一人だと暴走するから」
「暴走したところで世界が滅ぶわけもない」燕薊幽が母国語で喋った。
本題に移る合図だ。
三つの炎が二つ消えた。
「ちーろ。お前がしているのは自己満足だ」
燕薊幽の赤い唇が闇に浮かぶ。
「だろうな」挑発に応じるつもりはないので敢えて日本語のまま喋った。
「もしくは自己犠牲の自己都合」
「そっちのほうが合ってる」
「あの男の遺伝子はそんなに美味いのか」
「最大級に下品な言い方だな」笑えてきた。「そんなんじゃねえよ。あいつはまともに警察やってるだけだ」
鬼立。
燕薊幽から遠ざけなければいけない。近づけてはいけない。
みすみす椅子になんざしたくはないのだから。
燕薊幽のコレクションにするわけにはいかない。
「他にも見ていくか」
「いい。帰らせてくれ。よくわかった。あんたに逆らうとどうなるか」
「わかったならいいけど」燕薊幽が日本語に戻った。気が済んだらしい。
まさか手塩にかけて育てたクソガキに足元を掬われそうになったんだから。
俺の本当の父親は、陣内千尋の元部下。陣内千尋のせいで殉職した。
彼は、ベイ=ジンをもうあと一歩のところまで追い詰めた。
もうあと一歩のところまで追い詰めたせいで死んでしまった。
陣内千尋が殺した。
つまり俺の父親は、陣内千尋に殺されたことになる。
そんな俺を陣内千尋が育てた。自分の仕事を継がせるために。
そうはいかない。
俺はそんなつもりは更々ない。
陣内千尋も気づいている。俺にその気がないことは。
でも俺はいまのところ使い道がある。その使い道を失わない限り陣内千尋は俺を使い続けるだろう。
車から降ろされたので眼隠しを取って渡した。
運転手は何も言わずに引き返して行った。
家に帰ると、駐車場に見覚えのある車が止まっていた。
運転席にいたのは、
陣内千尋。
さっさと家に入れと目線で言われた。
21時。
居間。
「どこに行っていた?」陣内千尋が言う。
「言う必要あるか」
「この匂いを付けて帰ってきて。とぼけるのか」陣内千尋は俺のコートの袖を引っ張った。「ベイ=ジンと何を話した」
「そんなに気になるなら俺にGPSなり盗聴器なりを付けたらどうだ」
「お前の口から聞けなくなるだろ」
コートを脱いで畳の上に座る。
陣内千尋は正面に立っている。
「何を話した」陣内千尋が俺の前髪を引っ張った。「椅子事件のことを何か言っていたか」
「椅子事件て言われてるの」か、が口の中の異物にかき消された。
こんなことをさせたらまともに喋れないのだが。
仕方ない。
さっさと終わらせるか。
「あの手の頭のいかれた輩は最優先で確保しろ。それを奴も望んでいる」
要は俺に餌になれと言っている。
いかれた奴にはいかれた奴が喰らいつく。
「長野に京都。今回は埼玉か。国内なら場所は問わない。好きなように動いて、好きなように関われ」
急に後頭部をホールドされて、口の中に独特の苦みが拡がる。
まずい。
くそまずい。
「お前の名字を忘れるな」そう言い残して、陣内千尋は帰って行った。
ほら。
俺の話なんか聞いちゃいないし、聞く気もない。
俺がまともに餌を演じられているか、チェックしにきたにすぎない。
口の中を十回すすいでも全然不味い。
歯磨きをしてもしばらく消えない。
寝るか。
寝ようとした瞬間に電話が来た。
見ていたのだろう。
「なんだ」
「今日はどこに行っていた?」鬼立からだった。「いまどこだ」
「帰ってきた」
「だから、どこに行ってたのかと言ってる」
「お前は知らないほうがいい」
「特に出会ってないな?」
一般市民に、死体に会ってないかどうか聞く現役警察官。
なんだそりゃ。
「椅子事件はどうなったよ」
「ああ、そうだった。容疑者が取り調べ中に消えた。いま捜している」
「捜してるのはお前じゃないだろ」
「俺も捜してる。何か知ってないか?」
「暢気にデートしてた奴には教えられねえな」
「何か知ってるんだな?」
「知ってても教えねえっての。お前こそデートは? 童貞は散らせたか?」
「うるさい。生理中だと言われた」
「お前それ遠回しに断られてんだぜ?」
「そうなのか?」
「付き合うことにはなったのかよ」
「なんでお前に報告しないといけない」
「応援してやるって言ってるんだ」
どの口で。
「うまく行かなそうだ」鬼立が悲しそうな声で言う。
「へえ」
「顔はいいけど、て言われたよ」
「褒められてんじゃねえか」
「茶化すな。やっぱり俺には早いのか」
思いのほか真剣に悩んでいる?
「悪かった。今度ちゃんと聞いてやっから」
「明日朝一で行くから」
「そんなにがっつくなよ」
「うるさい。こっちは余裕ないんだ」
「そんなに溜まってんのかよ」
「違う。ああもう。切るぞ」
「はいはい。おやすみ」
「また明日。そっち行くからな」
またフられたのか。
ざまあねえな。
今夜はよく眠れそうだ。
2
翌朝。
9時。
鬼立がやってきた。
いつもの上質そうなスーツの上下。今日はスリーピースだった。よく似合う。
「ちゃんと起きてるじゃないか」鬼立は満足そうだった。
「今日は出掛けるつもりはない」
「賢明な判断だ」
炬燵に脚を入れる。
向かいに座ったので、鬼立の脚とぶつかった。
「上に言わないなら面白い話をしてやれる」
「なんだ」鬼立が訝しげな顔を向けた。
「椅子事件の容疑者はたぶん見つからない」
「どういうことだ」
「上が手引きしてとんでもない奴に引き渡した」
鬼立が眉を寄せた。「誰だ」
「誰だったらやべえと思う?」
「お前の知り合いか」
「まあ、古い知り合いではある」
「燕薊幽か」
さすが。
頭は鈍っていない。
「燕薊幽の本当の二つ名は、人形作家じゃない。人体アーティストだ」
鬼立が明らかに不快感を示した。
薄い唇をぎゅうと結んだ。
「人形もご遺体もそう変わらない。あいつにとってはな」
「何がどうなってる」
「だから、上が燕薊幽とつながってんだよ。お前の正義とやらはぐちゃぐちゃなわけだ」
「本当なのか」
「本当だ」
鬼立が胡坐をかいて溜息を吐いた。
「ショックか」
「薄々そうじゃないかとは思ってた」
「じゃあ平気か」
「ショックはショックだ」
鬼立の隣に座った。炬燵が熱くなってきたので脚を出しつつ。「前に言ったこと覚えてるか」
「なんだ」
「お前に気があるってやつ」
「らしいな」
「まだ彼女が欲しいのか」
「それは、まあ」鬼立が歯切れの悪い返事をする。
顎を掴んで顔をこっちに向かせた。
「なんだ」
「こないだの続きをしたら、もっといい話をしてやれる」
「交換条件じゃなくてちゃんと話せ」
「だから、お前の正義に配慮してやってんだよ。聞く覚悟があるかどうか」
「ある」
「じゃあそれなりの態度を示せって言ってんだ」顔を近づけた。
鬼立が眼を強く瞑って、小刻みに震えている。
怖がらせるつもりはない。
そんなつもりはないのに。
「悪かった。冗談だ」顎を解放した。
「キスくらいならいい」鬼立が真顔で言いのける。
「はあ? お前」
「1回も2回も変わらん。だから」
「いいのか?」
「気が変わらんうちにやれ」
「なんだよそれ。ムードもへったくれもねえな」
無理矢理にやるのは気が引ける。
俺がやりたいのはそういうんじゃない。
「もういい。しねえよ。いい話の一部を教えてやるからあとは自分で調べろ」
ケータイに送った。
椅子と呼ばれた少年について。
「これがなんだ」鬼立が言う。
「椅子事件のこと調べてえんだろ? なんかヒントになるかもしれねえよ」
はっきり言うと全然別の事件だ。
いまから5年以上前の話。
椅子と言っていじめられていた少年が自殺した。
そのいじめを主導していた男子生徒が現在どこにいるのか。
何をしているのか。
何をさせられようとしているのか。
場所は京都。
「お前も来るか?」
鬼立は躊躇いがちに頷いた。
3
探偵の寄越したヒントを元に調べた。
5年前。
名古屋。
そのときいじめを主導していた同級生は生きている。
現在京都在住。
少年Aとする。
彼は乃楽を椅子と呼んで椅子のように扱っていた。
この事件がなんだと言うのだ。
次の日。
探偵と一緒に新幹線で京都に向かった。
探偵は俺の横でずっと居眠りをしていた。
京都はさすがに冷えた。2ヶ月前とは打って変わって、冬の湿った風が全身を撫でた。
市街地の商店街。
クリスマス前なので飾り付けとイルミネーションがそれ用になっていた。
探偵がジェラード店の前で足を止めた。
店番をしていた20代になったばかりの若い男が一人で店番をしていた。
彼が、少年Aか。
この寒いのに探偵がジェラードを買って店を出た。
「何がしたい?」
「美味そうだったから」探偵が白いジェラードにかぶりつく。「ああ、お前の推測、当たってるぞ」
「今更こいつを問い詰めるのか?」
「言ったろ」探偵が近くの公園のベンチに座る。「頭のおかしい奴はもっとイカレた奴の餌食になんだって」
探偵は少年Aを見張るらしい。
しばらく京都に滞在することが決まった。
ホテルを押さえて(先々月に泊まったときのような高級ホテルは用意できなかった)拠点を決めた。
ジェラード屋の近くのビジネスホテル。
探偵はシングル2部屋にしろと言ったが、俺は俺で探偵を見張る必要があるのでツインを取った。
「莫迦が。襲われてえのか」探偵がベッドに荷物を放り投げた。
「レイプは犯罪だ」
「だから莫迦っつってんだよ。どうすんだよ、俺がその気になったら」
「覚悟はしている」
「犯罪なのかやってもいいのか、どっちなんだよ」探偵が頭を抱える。「莫迦だろ」
どうやら本当に性衝動の置き場に困っているようだった。
もし俺が逆の立場で、好きな女としばらく狭いホテルの同室に泊まることになったら。
ああ、なるほど。
「悪かった。お前のことを何も考えてなかった」
「なんだよそれ」探偵が唖然とした顔をする。「もういい。あんま煽るなよ。とりあえず肌は見せるな」
一週間経った。
クリスマスまであと一週間。
しまった。
彼女との約束が。
「ざまあ」探偵は嬉しそうに笑った。「ちゃんと断っとけよ」
彼女は怒っていなかった。
先約があるのだろう。俺よりもっとだいじな相手が。
静かにフェイドアウトの気配が出てきた。
まあいいか。
確かに見た目は好みだったが、動物園デートの趣味が合わない。俺に動物を愛でる習慣がない。
探偵は毎日足しげくジェラード屋に通う。そして本日のおススメを買って店を出てくる。
それだけで本当に監視になっているのかいささか疑問だ。
「あいつが匿ってるガキは、ベイ=ジンのとこの後継者だ」探偵がぽつりと言う。
ん?
何の話だ?
探偵はジェラードを食べ切って、珍しく店の外で(見つからないように)待機した。
店が閉まって、少年Aが出てくるのを待っていたようだった。
出て来なかった。
少年Aはジェラート店のバイトを辞めたようだった。
見失った?
「俺らが来るちょっと前に、ガキを拾った」探偵が遠く見ながら言う。「そのガキはベイ=ジンに言われて奴に飼われてる。頃合いを見てベイ=ジンの遣いがガキを迎えに来る」
「ちょっと待て。事情が読めない。それになぜそんなことがわかる」
探偵がめんどくさそうな顔をしてケータイをちらつかせた。「善意の垂れ込みが入るんだ」
その夜探偵が一人で出掛けた。
追いかけるつもりが「来たら犯す」と言われて足が竦んだ。
何もそんな脅し方をしなくても。
狭い空間に一緒にいすぎて向こうが限界を迎えているのだろう。
今日は一度出掛けたし、朝には帰って来ることを期待する。
4
アパートから元少年Aが出てきた。
俺を、匿っているガキの一味だと思い込んでいる。
違う。
俺の目的は。
匿っているガキの飼い主。
「こんばんは」元少年Aが挨拶した。
身長160後半。金に近い茶髪。白いダウンジャケット。
「罠にかかってるぞ」
元少年Aの現状を忠告してやったが、ピンと来ていないようだった。
それどころか、鬼立の姿を警戒しているようだった。
気にすべきはそっちではないのだが。
遠くでパトカーのサイレンが聞こえるせいだろうか。
ああ、そうか。
いじめの件で警察アレルギィにでもなっているのだろうか。
どう逆立ちしても警察ですとしか言えない外見の鬼立を連日連れていればそうなるか。
「安心していい。うるさいのは置いてきた」
「あなたは誰なんですか?」元少年Aが言う。
「少なくとも、探偵じゃない」
そういうつもりは更々ないが、ラブホに連れて行った。
元少年Aは居心地が悪そうな雰囲気を醸し出しながらとりあえず椅子に座った。
椅子。
「あの人とヤらないんですか?」元少年Aが言う。
はあ?
何の話かと思えば。
「違うんですか?」元少年Aが言う。
「そう見えるのか?」
「受け取り方次第ですけど」
一体俺と鬼立の関係をどう勘違いしたのか。
「ないんですか?」
「さあな。俺を追っかけてるせいで幾度となく女に振られているらしいが」
鬼立の個人情報を渡してやるのが惜しかったので適当に誤魔化した。
「やっぱそうなんじゃないですか」
「違うだろ」距離を取りたかったのでベッドに座った。
元少年Aが俺をじろじろ見る。「探偵じゃないなら何なんですか」
「探偵じゃないなら何だっていい」
「探偵が厭なんですか」
「厭だ」
なんで俺が探偵が厭なのか。
鬼立に捕まえてもらえないから。
元少年Aがシャワーを浴びた。匿っているガキは放置で大丈夫らしい。
泊まる気か?
こちらはだいじなカードを出すタイミングを伺っているのに。
元少年Aがうとうとしだした。風呂なんか入るから。
仕方ないのでベッドを譲って、俺は床で寝た。
背中が痛い。
朝。
ラブホを出る。
「これからどうするんですか?」元少年Aが言う。
「どうしたい?」
背中の痛みと、相手の出方を見るためにオウム返ししたが。
思いもよらなかった返答だったらしく、それ以上その話題が続かなかった。
朝食を提案されたが、適当に買って来いという意味でコンビニを指差した。
道の向こう。横断歩道。
「食べないんですか?」元少年Aが言う。
「朝は要らない」食べる気がしなかった。背中が痛くて。
「じゃあいいです」
金がないなら奢ってやらんでもない。
そう思って財布を取り出したら元少年Aが首を振った。
「遠慮するな」
「そうじゃありません」元少年Aが苛立ってきた。「用があるなら早く終わらせてくれませんか? 僕だって暇じゃないんです」
「あいつのお守りか」
ようやく本題に辿り着いた。
昨日のうちに本題を敢えて提示しなかったのは作戦。
内側に入ってからじゃないと、こいつは口を開かない。
そのためにベッドを譲ってまで一晩過ごした。
「だったらなんですか?」
「
元少年Aが動揺した。
見逃さなかった。
「誰ですかそれ」元少年Aは、知らぬ存ぜぬを通そうと必死だ。
「奥さま、のほうがいいか」
元少年Aは動揺で言葉が出なくなった。
匿っているガキの飼い主であり、家具屋敷(京都版)の主人。
「留守か」
「僕には何のことなのか」元少年Aが言う。
「とぼけなくていい。俺は奥さまとやらの組織を乱すつもりはない」
元少年Aは何も言えない。
何も言えないことがすなわち認めたことになるし、何か言っても認めたことになる。
元少年Aが、富寿野カグヤの下で高収入のバイトをしていることを。
ジェラート店のバイトだってもう辞めた。
あのアパートだって、引っ越したあとだ。
それでもわざわざ引き払った後のアパートの前で待ち伏せしていたのは、絶対に来ると思っていたから。
「連れてけ」
「ほんなら乗らはって」ライチ色の車から富寿野カグヤが降りてきた。
身長150センチ程度。桜から藤へのグラデーション色の着物。
ダークスーツにサングラスの没個性の男が後ろから出てきて深々とお辞儀した。身長170センチ前半。ご丁寧に名刺を寄越したが要らないので、元少年Aに横流しした。
ライチ色の車で家具屋敷に移動する。
椅子を探す必要がある。
清廉な椅子・再レース 伏潮朱遺 @fushiwo41
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