第四話 災害

私は特段凄い人間ではなかった

小さい頃たまたま魔術の才能が高いとわかり家族を少しでも楽にするために傭兵に

女だからということで舐められることがあった

が魔術だけは本当に強かったからあっという間に認められた

そんなことがあって浮かれていたのだろう

ベテランの人たちと砂漠で仕事してた時

ワームの群れに遭遇してしまった

そしてみんな囮になって、私だけは逃げ帰ってしまった

だけど後悔だけはしなかった

そんなことを望んで私を生かしたのではないとわかっているから、だから

「あんたを倒すためにずっと鍛えていたのさ!」

そう自分に言い聞かせる

でないと逃げてしまいそうだから

弱音は後で吐こう、たとえ死んだとしても仕方なかったと

魔術を発動させる

頭を使うのが苦手な私は作り出した炎を手の形にする

動いていることが一番想像しやすいからだ

それを何本、何十本、何百本と作る

頭脳戦では絶対勝てないから数で押し通す

それが私の戦い方で『多腕』と言われる由縁

負ける気はしない、死んでも勝ってみせる

「さぁ行くよ!」

そう意気込んだのも束の間

後ろから死の気配がし一瞬固まる

それは目の前のワームですら、そうだった

十五年傭兵をやっているが初めてだった

これが災害級と直感が告げていた

「シュレムさん!逃げてください!」

そういわれ体が動く

全速力で馬車に走る

ここにいたら死ぬ

死ぬのは別にいい、だが無駄死にだけはヤダだと

私が乗ると馬車は全力で走る


それは災害のようだった

ノームは砂に潜り隙をついて食らいつこうとしたのだろう

しかしノームは砂に入ることもできない

「あなた」は一帯の砂を硬質化したのだろう

次にノームは胃液を吐き、溶かそうとする

しかし「あなた」には効かなかった

そこでようやくノームは逃げる選択を取ろうとする

だが逃げれない

と思った次の瞬間にはノームは死んでいた

よくみると無数の穴が開いており、そこから血が出ている

おそらく風で舞っていた砂を硬質化したのだろう

やっぱり「あなた」は強いね

だから「あなた」の望みはまだかなえそうにないや

ごめんね、また会おう


「…あれはやばいっすね」「コクコクコクコク」

「あんなの相手してられるかい!」

完全に「あなた」が見えなくなった後、緊張の糸が切れたように各々叫ぶ

私は瓶を触って「あなた」の勇姿を思い出していた

「アリスちゃん大丈夫かい?

…どうしてこの子はニヤニヤしてるんだい?」

「これは…おかしくなってしまったんすかね?」

ズイさんに肩をたたかれ同情されたような顔をされる

複雑な気持ちになる

がズイさんが瓶の中身を見て、蛇を見た猫のように驚く

…これは見られてはいけない物の可能性はあったので迂闊だった

だって久しぶりの「あなた」で浮かれたのだもん!

「弟よ、どうし.,うわぁぁ!」

「なんだってそんな反応を…

うおッ!なんであんたがそんなものを!」

私が持っている瓶の中身、それは動き回る黒い砂だった


そんなものとは失礼なとは思ったが「あなた」は今サンドマンと呼ばれ、恐れられているのだった

仕方ないので噓をつくことにする

「夫のものです」

「あんた結婚していたのかい⁉」

「結婚してるんすか⁉」

この世界の成人は15歳であり、結婚できるのも15歳からだ

だが役所に婚約届を届けると城に情報が行ってしまうかもと恐れた私は届けれなかった

それに

「結婚の儀の前に夫は消えてしまいましたので正式にではないです」

「いやそれでも凄いよ」

「僕らなんて女性との付き合いもゼロっすよ」「コクコク」

「ってことは何だい?旅の目的は…」

「夫探しですね」

別に隠すつもりもないのでいう

まぁ「あなた」はすぐそこにいたのだが

「それでなんだい

あんたの夫はサンドマンを退けるくらいに強いのかい」

「確かにあのサンドマン、人型っていう割に頭かけてたっすけど…」

「まぁそうですね」

面倒事は御免なので「あなた」に押し付けておく

「すごいねぇ」「すごいっすね」「コクコク」

「ま、まぁそれほどでもありませんよ!」

「ノロケだねぇ」

「そっすねぇ」「コクコク」

そんな茶番をしていると御者さんが

「もうそろそろつくからな

降りる準備しろよ

それと、ようこそイダリア王国へ」

そうして第一の町、イダリア王国に着いたのだった


門を潜り抜け、馬車から降りるとダイさん、ズイさんは依頼主の元へ、そのまま行くらしい

「私たちはこのまま傭兵協会だね

んじゃあココで二人とはお別れかい

また会おうね!」

「さよならです」

「またっす」

そういいながら手を振る彼らを見送り私たちも歩き出す

いつかまた会えるだろうか

その時まで彼らは生きているだろうか

そう不安になってしまう

「あなた」のように急にいなくならないか

「安心しな、彼らは強いからね

必ずまた会えるよ」

顔にでも出てしまっていたのだろう、心配をかけてしまった

「すみません。ありがとうございます」

「いいってことさ」


たわいもないとこを話しながら向かっていると遂に傭兵協会に着いた

とても大きく威厳のある建物だ

「じゃあ私はここの一番偉い人に用があるのでこれで」

「マスターのことか

そうかい、じゃあまた元気でね」

「はい、また」

そういい受付に向かう

「すみません、マスターさんはいますか」

「誰かにお会いになる予定はないはずです」

「アルさんからの紹介状を持ってきたんです」

「…分かりました、確認を取ってきます」

「ありがとうございます」

さて今日中にできれば会いたいが最悪明日でもいいだろう

というか宿どうしよう

そもそもこのチケットの量で足りるだろうか

流石に足りるか

アルさんが用意してくれた物だし

そう思っていると受付の人が戻ってくる

「すみません、今日はもう遅いのでお会いすることができません

明日の正午にお越しください

あと宿は左に少し歩いたところに『麦の宿』というところがあります」

「あ、ありがとうございます」

「いえ、マスターから案内するよう言われたので」

なるほど、マスターさんは少しはこちらの事情を知ってそうだ

ならば話も早いだろう

そう思いながら教会を後にし、宿へ向かう

明日も早いし早く眠ろう

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