第三話 旅の途中

「あ…」

「あ…」

「あ…」

私が屋敷で暮らし始めてきてからすぐの頃

皿を割って、壺を割って、観葉植物を切りすぎて

とにかく上の空だった

あの頃は死にながら生きていた

ただ皆が死んでまで守ったこの命が自死という道を選ぶのは間違っている

そんな思いが私を動かしていた

そんな私を見て「あなた」は何て言ったか

…もう思い出せない


「っん…」

いつのまにか寝ていた

もう外は暗くなりそうだった

馬車の中には私のほかに男性二人と女性一人

おそらく全員傭兵なのだろう

一応バックの中を確認する

ナイフ、数日分の食糧、水筒、チケットと紹介状が入った袋、そして「あなた」の手がかりとなる瓶

物が盗まれたとかはない

それだけが心配だった

特に瓶は盗まれたら終わりだ

そんなことをしていたら女性から話しかけられる

「安心しな、こんなところで盗みをしようとする奴なんていないよ

傭兵業界は案外狭いしね」

「気遣いありがとうございます」

「こんなの気遣いのうちにも入らないさ」

そう好印象そうに話しかけてきて素直に嬉しい

が私は「あなた」以外の人間とコミュニケーションをとるのはアルさんたちを除くと十年ぶりなのだ

正直どうすればいいのかわからない

話を続けた方がいいのか

すると男性のうちの一人が

「傭兵としてまだヒヨコみたいなんで色々教えてあげたらどうっすか?」

といいもう一人が激しく首を縦に振る

「じゃあこれも何かの縁ということで自己紹介から行こうじゃないか

私はシュレム、多腕のシュレムって呼ばれてるよ

炎の魔術を使うのが主流さ」

見た目は四十代といったところか

おそらくベテランなのだろう

「二つ名持ちとは驚いたっすね、僕らは運がいい

じゃあ次は僕ら

僕はダイ、こっちは弟のヅイっす」「コクコク」

確かによく似ているが弟のヅイは口周りを覆い隠すように布をつけている

どちらも若そうに見える

「私はアリス

最近傭兵になったばかりです

色々お世話になります」

「さぁ!何か質問はあるかい?」

そういわれたので今までずっと気になっていたことを聞く

「ずっと砂漠地帯なのですがいつからですか?」

そういうと全員驚いた顔をする

「あーホントに傭兵始めたばっかなんすね」

「どこもかしこもこうなんだよ

国家は巨大オアシスって呼ばれる水や木がある場所にあるんだ

砂漠と国家含める森林の比率がたしか7:3だったかね

その半分以上が魔国なんだよ」

「だから旅に出る前に『砂に幸運が在らんことを』って言われるっすよ

砂漠で死なないよう、ね?」

そういうとズイさんは激しく首を振る

「そういえばだ

最近またサンドマンが出るようになったんだろう」

「あーそういう噂聞くっすねぇ」

また知らない単語が出てくる

「サンドマンとは?」

「…これも知らないのかい

帝国でもよく聞くと思うけど」

「すみません、少し前まで世間とのかかわりが少なくて」

「そうかい、まぁ訳ありな傭兵なんていくらでもいるからね

サンドマンってのは砂漠地帯にしかでない魔物だ

見た目は黒い砂でできた人間さ

魔術、物理攻撃どちらも聞かないくせに竜巻とか私たち人間が一撃で死ぬようなものを撃ってくるんだ

皆、災害級って呼んで恐れている

唯一の救いは一体だけしかいないことと15年間全くでなくなる時期があることだね

まぁ最近その15年が終わってしまったけどね」

黒い砂という言葉で瓶の中身について気になり聞こうとしたその時

「傭兵さんたち、前方400メートルに狼が7だ」

「わかったよ

御者さんから言われたら私たちの仕事だ

戦闘準備に入ろうか」


馬車を降りると少し遠いところに狼がいた

「私は3匹相手しよう」

「じゃあ僕らは3やるんでアリスさんは1匹お願いっす」

「わかりました」

私は実戦は初めてだった

この十年で「あなた」との模擬戦しか戦ったことはない

でもこんな所で躓くわけにいかない

狼が向かってくる

それを見て私は魔術の準備をする

「結界魔術」

そういうとイメージする

狼たちに弱体化を、私たちを強化する空間を

その間は一秒もいらない

途端に狼の動きはノロいなる

代わりに皆の動きが速くなる

勝負はすぐについた

ノロい狼には避けることすらできない

ただ七体の首が飛んだだけだった


皆、唖然としていた

正直私もここまでとは思っていなかった

「あんた、凄いね!」

「ほんとすごいっすね!光の魔術が使えるなんて」

「ブンブンッ」

「…やはり光の魔術だったのですね」

火、水、風、土以外ではあると思っていたので意外というほどでもなかった

「あんた、絶対大物になるさ!

私が保証するよ」

「マジナイスっす!」

そう褒められ、嬉しく思った時間も短かった

「シャアアァァァアアアァァァァアァァァ‼」

突然、砂の中から巨大な生き物が出てくる

「これはまずい!

ワームだよ!」

ワーム、全長20メートル以上になる個体もいるというミミズのような魔獣

その危険さはベテランの傭兵十人でやっと一体といったところである

こいつだけは「あなた」から聞いていた

でも私たちに倒せるほどの戦力はない

「…あーあ、ここまでか」

そうシュレムさんがつぶやく

「…すまないっす」

「いいんだよ、私もたくさんの先輩の屍の上で生きてる

気がかりなのは初めての旅で死体の上で生き残るあの子さ

二人ともアリスを頼んだよ」

「わかったっす」「…コクッ」

…私でもわかる

シュレムさんは囮になるのだろう

確実に私たちが逃げれるよう

「…ありがとうございます」

そういうしかなかった、顔は合わせれなかった

「おうよ!」

逃げるように馬車に走る

後ろでは魔法を発動させる音がする

本当にこの選択は最善なのか

もっといい選択はなかったのか

…「あなた」ならきっと助けた

でも私にそんな力ない、だから…

走りながら涙が出る、隠すように下を向く

…こんなの十年前と同じだ

やっぱり後悔したくない!

涙を乱暴に拭き、振り返る

『じゃあ少し手助けしてあげる』

…そこには黒い砂をまとった人の形をした者

一つ違和感があるとするならば頭の部分が欠けていたことだ

「…あなた?」

そういえば死んでたように生きる私に「あなた」は言ったんだった

「僕はいつでも君のそばにいるからね」

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