第一話 怪しい少女

アルド帝国とイダリア王国の国境線にある関所の待合所

そこに可憐な少女がいた

長年ここで働く男はどう見ても箱入りな彼女が気になって話しかける

「君、もしかして旅に出るのかい?」

自分に話しかけられたと気づいた彼女は無言でうなずく

愛想悪いなとは思うが仕事にも関係あるので無視するわけにもいかない

「今、各国の情局わかってる?相当危ないよ」

そういうと彼女は首を横に振る


この世界には4つの国家がある

アルド帝国、イダリア王国、ウルガ聖王国、そして魔国

ここは西側にあるアルド帝国で軍事力が強い

力で解決するような風潮が強かったが最近帝王が変わり弱者生存を掲げるようになった

北の大地にあるイダリア王国

農業や水産業が盛んで唯一食料が自国で完結できる国である

アルド帝国の東にあるのがウルガ聖王国

宗教色が強く正直怖い

この国に行ったことがある人間はこぞって

「もう二度と行かない」

とだけ言う

そして大陸で最も広く森が茂る魔国

元魔王領であり今は魔族の生き残りが住んでいる


「大体こんなところだけど何かわからないところある?」

「…では一つ」

あまりに透き通った声を出すものだから息が詰まる

「魔族って何ですか?」

「あぁ、魔族ね

…君そんなことも知らないの?」

「すみません、私今まで屋敷から出たことなくて」

本当に箱入りだったのか

しかし自分の家のことを屋敷といった

もしかするとかなり位の高い人なのかもしれない

「…わかった

ここではすこし話しずらいから別の部屋に移動しよう」

確証はないが海外逃亡の危険がある

別に平民であれば問題はない

しかし貴族となると話は別だ

できるだけ悟られないよう二階の別部屋に案内する


私が連れてこられたのは明らかに警備が厳しい部屋だった

普通の人なら気づかないだろう

おそらくどこかに魔術師が2人いる

「さて、ここは唯一音が遮断された部屋です」

目の前の人がさっき対応していた時とは違う雰囲気を出す

なるほど、おそらく私はどこか怪しい行動をしてしまったのだろう

いや常識的なことを聞いた時点であやしいか

…想定通りではある

「ではお座りください

担当のものを呼んでまいります」

そういうと男はどこかに行く

仕事というのもあるだろうが、私に警告してくるあたりよほどいい人なのだろう

後でお礼でも言おう


…さて現状を確認しよう

まずは国家

ここらへんは十年前、城で教わったこととそのままだった

しかし魔族というのは習っていない

…いや習う前にみんな死んだのか

そう思うとつらくなってくる

しかし私には支えがある

だから旅の途中でも諦めることはないだろう

今はどうでもいいか

ふと疑問に思う

なぜあの男は急に敬語になったのか

身分制度があること自体知っていたが詳しくは知らない

そこらへんも聞く必要があるだろう


あの男がどこかに行ってから数分

屈強な男が入ってくる

しかしその顔には見覚えがある

昔、父から助けになってくれるといわれていた人

父が帝王になる前の数少ない友人

一度だけしかあったことはないが確かに覚えていた

「…お久しぶりですね

数少ない父の友人、アルさん

私はアリス、アリス・アレイヤ

…いえ、旧名のアリス・アルドといった方がよろしいでしょうか」

そういうと目の前の男はハッとし、泣き出す

少し困惑したがこういう時はほっといた方がいいと知っている

…これも違ったら流石に「あなた」を恨む

目の前の男は泣きながらこう言う

「よく…ご存命でいられました」

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