第39話 鉄風鋭くなって
鶏頭は強かった。初手の爆撃機からのバードストライクで大打撃を受けた上、ナイチンゲールの分裂と成長が間に合わず相当前線が押し込まれた。
「おい、井上!バニシングで消せるだろ!援護しろよ!そもそも大将首取ったら勝ちなんだからギルガミールにバニシングかけろよ!」
井上は歯をガタガタさせて怯えきっていた。そして小さな声でつぶやいた。
「さっきからずっとやってるよ。どっちにも効かないんだよ。」
「ふ・ざ・け・ん・な!お前はそれしか取り柄がねーだろうが!」
激昂して井上のケツに蹴りを入れた。しかしそんなことをしている場合じゃない。
「糞ったれが!」
私はカーシートの上部に自動小銃を置き、ギルガミールを射撃した。初めての狙撃だったので下振れしてしまったが、ギルガミールの肩にヒットした。続けて何発か打ったところ身体にもヒットした。スコープで覗くとギルガミールは砲塔に倒れ込んでいるようだ。
「おい!射撃が効いてるぞ!あいつ物理無効じゃないんだ!」
しかし、効いてはいるがロシア人のくせに纏っている、武田信玄みたいな鎧のせいで決定打になっていないようだ。小鹿のようになりながらも砲塔の上に立ち上がった。撃っているうちに慣れてきて、ヘッドショットも決めたが、死ななかった。それも戦国武将のような兜のせいだ。全弾撃ち終わり、私がマガジンを交換している隙にあの大声が聞こえてきた!
「エレクトリック・サンダーー!!」
声と同時に雷が飛んできた。しかしその雷魔法は、井上のバニシング・バリアで無効化された。あいつも魔法を使うのか。さすが転生者だ。しかしバリアを貫通できる威力では無いらしい。その隙に装填を済ませ、改めてギルガミールを狙撃する。面白いように弾が当るようになった。うちの大将もバカだが、あいつも相当バカだ。戦車に隠れれば良いのにそれをしない。狙撃→倒れる→起き上がり雷魔法のパターンに入った。ナイチンゲールも戦いで進化したのか成長速度が上がっていた。脚が六本の変異種が誕生したりで鶏頭優勢だった前線を押し戻していた。
一進一退の攻防の最中、上空にヘリが現れ、一人の男がヘリからギルガミールの隣に飛び降りた。
「ギルガミール、遅くなった。カルーガに向かった脚クモ退治に手こずってな。」
「エンキノフ、助かった!」
そんな声が聞こえたような気がした。大将首が2人になった。これはマズい。しかも、エンキノフと呼ばれた男が魔法を唱えると、薄茶色で可視化されていたバニシング・バリアが吹き飛ばされた。エンキノフは得意げに技名を叫んだ。
「人呼んで『鉄風』!」
井上の方を見た。唇が紫色で戦意喪失していた。しかし、バニシング・バリアはすぐに張りなおされた。自動発動にされていて助かった。それでも、自動発動の隙間に雷魔法を撃ち込まれたらマズい。そのため鉄風を撃たれたら直後に雷魔法を撃たれないように狙撃でギルガミールを足止めしなければならない。つまり鉄風→狙撃→バリア復活→雷魔法のパターンに入ってしまった。これは弾薬が尽きた時点で負け確定だ。
「おい、井上!いつまで震えてる気だよ!なんとかしろよ!」
「・・・・」
狙撃の合間に井上に怒声をあげても、井上は全く動かなかった。
「てめー!このやろー!」
弾薬が遂に尽きた時、私はヤケクソになって井上のパンツを下ろし、ケツアナに自動小銃の銃口を突っ込んだ。
「ウッ!」
井上は目玉をひん剥いた。私は銃口をグリグリ押し込みながら叫んだ。
「てめー、バニシング以外で何か魔法を使いやがれ!この糞の役にも立たないゴミクズが!」
私の罵倒と押し込まれる銃口に反応したのか、井上の、恐怖で縮こみ上がっているチ◯ポから、勃起すらできていないのにデロデロデロと精液が垂れてきた。キモすぎた。キモすぎたが、今までの経験上これでこいつのレベルが上がったのではないか?と感じた。
「田中の使ったアレ、アレだよ。ホーリーライトニングってとりあえず叫べ!この役立たず!」
私は銃口を突き上げた。井上は廃人の様になっていたが、ボソッとつぶやいた。
「ほ、ほぉりぃらいと、にんぐ・・」
その瞬間、雲一つない空が一瞬輝き、半径20mはあるであろう光の柱がギルガミールとエンキノフを直撃した。
「奇跡だ!」
私は感動を覚えたが、魔法を撃った当の本人、井上はなんか真っ白に燃え尽きていた。こいつ・・。川に捨ててやろうか。それでも勝ちは勝ち。勝ちを確認するために、銃口にウ◯コが付着した臭すぎる自動小銃のスコープを覗き、相手方を確認した。エンキノフは消し炭になったようだ。黒焦げの死体が確認できた。ギルガミールの鎧と思われるものもあった。しかし、信じられないことにその鎧がピクピクと動いている。まだ奴は生きているのだ。ギルガミールはやっとのこと上体を起こし、膝立ちの状態で叫んだ。
「エンキノフ!あとはおまえに任せたぜ!!」
しかし、エンキノフは既に消し炭になっており、周囲には鶏頭の消し炭が無数に転がっている。エンキノフが逃げたと勘違いしたギルガミールは、またそのでかい声で叫んだ。
「ありゃ…エンキノフ… おいてけぼりはなしだぜー!」
ギルガミールは瀕死状態にも関わらず、人間とは思えないスピードで後方へ退却した。生き残っていた鶏頭たちも大将に続いていった。こっちは井上がこんな状態だからか、ナイチンゲールは追撃をせずにこの場に留まった。退却地点にはギルガミールが身につけていた兜が落ちていた。何度もヘッドショットを決めたのに、兜には傷一つ付いていなかった。内側には日本語、しかもひらがなで「へいけのかぶと」と書いてあった。
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