第38話 トゥーラ警備隊
やはり前方のナイチンゲールはスホーイが発射したミサイルの直撃を受けたのだ。井上の方を見た。何事もなかったかのように、井上は鼻歌を歌っていた。
「ぼーくが旅に出る理由は、だいたい100個くらいあって〜。」
「呑気に鼻歌歌ってる場合じゃないぞ!戦闘機だ!このままじゃ全滅だぞ!」
そうこう言っている間に更に上空から轟音が聞こえてきた。視認できないが戦略爆撃機だ!
「おい!爆弾落とされるぞ!どうするんだよ!」
「へーきへーき。」
井上は意に返さない。余裕の根拠を考えてみた。このナイチンゲールにそんなに信頼を置いているのか?刹那、空から大量の爆弾が降ってきたが、私たちの周辺はバリアが張られているのか被害は受けなかった。
「ほら、大丈夫だって言ったでしょ。魔法のバリア張ってるからさ。あと、五木さんだけは絶対守るから!」
井上は余裕の表情だった。しかもなぜかイキっていた顔がキモかった。しかし周辺のナイチンゲールは甚大な被害を受けていた。1万はいた軍勢は半減しているように見えた。
「このままだとモスクワまでに私たち以外全滅するぞ!」
「だから大丈夫だって。よーく地面を見てみ?」
は?何言ってるんだ?頭にクエッションマークを浮かべたまま、路面を眺めた。手のひらサイズのナイチンゲールが大量に蠢いてた。
「ゲ、何これキモ!」
こういう虫とかがワシャワシャしてるのは本当に苦手だ。鳥肌が立ってきた。
「こいつらは攻撃を受けると分裂して自己再生するの。プラナリアを異世界に持ち込んだらツアレが面白がって細胞移植したんだよ。走りながら成長するから軍勢はもっと増えるぞ!」
戦略爆撃機ブラックジャックや、スホーイから降り注ぐ爆撃を正面から受けながらも、数を増やしながらハイウェイを疾走する。だが、爆撃を受ければ受けるほど数が増え、増えすぎてハイウェイもパンパンになってきたので、井上も重い腰を上げた。
「おい!増えた分のナイチンゲール!ラングトンのアリモードだ!」
その命を受け、一部のナイチンゲール達はハイウェイから飛び出し四方八方に散っていった。おそらく人里に入って虐殺をするのだろう。爆撃機もそれを阻止すべく各都市方面へ向かったナイチンゲール達を追跡し始めたようだ。こちらへの爆撃は大分緩和された。小一時間経った時、西の方にキノコ雲が上がった。同時に衝撃波が届いた。ナイチンゲールに爆撃が効かないと見て核攻撃に踏み切ったのだ。
「おい、核ぶっ放しやがったぞ!こっちの本体は大丈夫なのかよ!」
もう頭が追いつかない。気が狂いそうだ。井上の異様な落ち着きっぷりもサイコパスに見えて恐ろしい。
「平気だって。あと、普通核使うなら真っ先にこっちに使う筈だろ?それをしない理由がこの先に有るんだよ。」
確かにそうだ。冷静になれ、私。冷静に。深呼吸をし、心を落ち着けていたら井上が口を開いた。
「ほら、奴さん登場したぞ!」
すかさず自動小銃のスコープを覗く。8倍ズームで前方を見ると、T90重戦車の砲塔に、ストレッチポールでもやってるかのように寝転んでいる男を視認できた。男は立ち上がり、ここまで聞こえる大声を上げた。
「あおーい空 ひろーい大地 こんなにいい気分にひたっている私をじゃまするのは… だれだー!!」
ロシア語で放たれたその声に呼応するかの如く、上空にいるのてあろう戦略爆撃機ブラックジャックから大量の爆弾ではないあるものが投下された。
「来たぞ!バードメンだ!フラーイ!フラーイ!バードメン!」
すかさずスコープを上空に向ける。鶏頭の人間が大量にバンジージャンプの如く降ってきている。が、翼があるわけじゃないので飛べない。そのままナイチンゲールの群れに突っ込んでいく。
「バカが。物理攻撃無効だ!」
私が勝ち誇った顔で井上の方を見たら、先ほどと打って変わって真剣な表情をしていた。
「クリミア大橋ではギルガミールの軍団には数の暴力で勝った。だが、今回空から降ってきているのはこちらと同じ規模だ。首都が落ちそうだから全軍動員しやがったな。」
「でもこちらも分裂するだろ?」
「分裂はする。だが、前回の戦いでは4対1でようやく一体倒せた。今回は数が同規模だから、正直微妙な線だ。こんなことならロシアンハスキーも連れて来るべきだったぜ。」
余裕かましてた井上がビビリ始めてる。逆に私は冷静さを取り戻した。ここで私が出来るのは何か。考えろ、考えろ。
半ば勝ちを確信しているのか、前方のギルガミールという男の馬鹿でかい鼻歌が聞こえた。
「やって来た化外、街破壊。迎え撃つ俺様転生者。」
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