第40話 武装解除
私はギルガミールが落としていった兜を被ることにした。サイズはかなりデカかったが、頭に装着するとなぜかジャストフィットした。これも異世界技術か。
廃人状態だった井上が我に返った。子どもの日の兜を被ったような私を見て絶叫した。
「ギルガ、ミール!!」
「いや違うから。私だよ私!」
「あ、五木さんか。マジでビビったよ。しかし何すか?コスプレ?」
「ちがーう!この兜、マジで優秀なんだよ。私が何発もヘッドショット決めたのに傷一つ無い。後はデザインだけなんだが・・」
「まあ、戦争中だから気にする人もいないっしょ。俺も気にならないから被ってればいいと思うよ。」
井上は至極真っ当なことを言った。
「しかし、五木さんのおかげでギルガミールに勝てたみたいだ。ありがとうございました!しかしあいつは何だったんだ?」
「覚えてないと思うけど、もう1人来たんだよ。バニシング破りが。エンキノフとか呼ばれてたけど。死体はこれだ。」
黒焦げになったエンキノフの死体に蹴りを入れた。井上はしゃがみ込み観察した。
「ふむ。持ち帰ってエマちゃんに分析して貰えば何か分かるかも知れないな。手紙を入れて魔王城に転送するわ。」
そう言って井上は死体にバニシングをかけた。
「で、これからどうする?」
「もう愛の逃避行したいよ。五木さん、ついてきてくれるよな?」
井上に手を握られたが払い除けた。
「冗談だよ。バニシング破りはもういない。大手を振ってモスクワに向かおうぜ!とにかく軍隊を無力化したら俺たちの勝ち。あとの統治は自衛隊様がやってくれるから。」
「空軍基地は?また鶏頭を降らされたらヤバいぞ。」
「ナイチンゲールが既に制圧済みだ。余計な殺生はしていない。あくまで『余計な』だが。」
井上は役に立つのか立たないのか本当に分からない。いや、井上が操るデバイス自体が優秀なのであろう。井上自体はただのスケベなヘタレだ。
「トゥーラも落としたし、モスクワだ!全力疾走だ!」
さっきまで気絶していたのに調子のいいもんである。呆れてしまった。ナイチンゲール達は鶏頭に相当数やられたが、やられた分だけ増量していた。もはやこれはチートじゃないか。核攻撃を受けたナイチンゲールも分裂して増えてるかも知れない。蟻サイズの奴がモシャモシャっと・・考えるだけで鳥肌が立った。
巨大ナイチンゲールを先頭に、ロシア連邦道路M2を北上する。遂にモスクワ州入りし、ゴーリキー公園を拠点に増えるに増えまくったナイチンゲール達を環状道路にぐるりと配置した。クレムリン方面からの反撃はない。
「まるでゴーストタウンだ。」
私がつぶやくと、井上も相槌を打った。
「日本も核ぶち込まれて、偉い人たちはスタコラサッサと埼玉に逃げたから、偉い人たちっていうのは同じマインドなんじゃないか?」
そう言いながらショルダーバッグに手を突っ込んだ。ショルダーバッグから人間の生首を取り出した。
「これがナイチンゲールの首だ。この耳に話しかければ各ナイチンゲールがスピーカーになって声が出る。要は拡声器だ。五木さんはもちろんロシア語が喋れるよな?」
なんだか小馬鹿にされたような物の言い方だった。
「そりゃお前とは違うからな。で、何と言えばいいんだ。」
「『クレムリンは我々日本軍が包囲した。残っている軍属は武装解除に応じ、ゴーリキー公園まで投降せよ。』って言ってくれ。」
「分かった。」
私が生首へその通りのロシア語を話すと、各ナイチンゲールから地獄のようなうめき声に聞こえながらも、その通りのロシア語が出力された。全然拡声器ではない。昔あったボイスチェンジャーみたいな代物だ。しかもナイチンゲールの量が凄まじいので凄まじい音量だ。これは包囲網の中にいる人間はたまったもんじゃないだろう。
しばらくするとクレムリン宮殿方面から軍人と思われる一団が白旗を上げてやって来た。千人程度しかいない。大統領のプルチノフはさっさとどこかに逃げたのだろう。千人程度しかいないとはいえ、さすがは首都防衛部隊。面構えが違った。こっちの大将様とは全く違う。道路上に満ち満ちている異形のナイチンゲールなどにビビることなく歩いている。しかも、白旗を掲げ、手も挙げてるとは言え、背には小銃を担いでいるし、ポケットには手榴弾などが入っていそうだった。隙を見てこちらにカミカゼする気かもしれない。井上もそれを感じ取ったらしく通訳を頼まれた。
「『武装解除は笑顔でしてよ。殺気は消してくれよ。俺の殺気はおまえらのせいだぞ。ポケットの手榴弾ぶつけようと思ってるでしょ?俺には殺気はこれっぽっちもないだろ?察してよ。』って言ってくれ。」
なんだか井上にしては優しい言葉だな、と思ったが、通訳したその言葉をナイチンゲールスピーカーを通すとおぞましい雄叫びに聞こえた。それに観念したのか、武器をナイチンゲールに手渡し、いや手から足へ渡し完全に武装解除した。
「この隊の隊長はだれだ。」
「私です。ロシア連邦保護隊のアンドレイ・セルゲイビッチといいます。」
「プルチノフはどこに行った?あとギルガミールは?」
「わかりません。」
セルゲイビッチとの会話に対し、井上にどうだ?という顔をされたが首を振った。
「知らないって。多分隠している。」
「そうだと思ったよ。じゃあ全員洗脳工場行きだな。」
そう言って井上は全員にバニシングをかけた。千人の塊が目の前で一瞬で消える様は、ある意味壮大だった。
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