第22話 国会LOCKTRANSFORMED状態
国会警備担当の自衛隊員は当然ブレインウォッシュ済みの者たちである。海削が一言も発することなく国会議事堂の扉は開かれた。続く相談者達も1/10は洗脳済みである。逆に言うと9割は普通の人間であるが、何もしていなくても集団催眠によって洗脳されているようなものであった。
参議院議場や委員会室に未洗脳の者たちを詰め込み、共産党青年団による相談コーナーの続きを実施した。
海削は衆議院議長席に座り、動画配信を始めた。
「お偉方が軒並み逃げ出して無人状態の国会議事堂は衆議院議場からお送りしております。毎度お騒がせしております共産党青年団・海削です。」
カメラは衆議院議場を全体的に映し出した。
「実に今、約1万人弱の方が我々を頼ってここまでいらしていただいております。周辺の官公庁もお借りして、真摯にご相談に乗らせていただいております。今、議場にいらっしゃいますのは八王子にお住まいであった方々です。重度の放射線障害が発症しておりましたが、ここまで回復し、我々の活動のお手伝いをいただいています。札幌の方々も生態研究所で受け入れていただき、順次回復しています。」
カメラは議場に座っている一家を映し出した。カメラに気づき、子供がカメラに向かって笑顔で手を振った。
「被災された皆様におかれましては、我々の努力が至らず大変ご迷惑をおかけしております。今まさに東京から避難する方々の避難支援を行っている警察や役所の皆様、東京の治安維持にご尽力いただいている自衛隊の皆様、本当にご苦労さまでございます。皆様の粉骨砕身、滅私奉公の精神には心より敬意を表します。」
まずは感謝と謝罪である。この辞に続く、巨悪は誰なのか明言しないまでも人々に想像させる。想像が現実となる。
「いの一番に尻尾を巻いて埼玉に逃げ出したのは誰だったか、穴倉に籠もって今も震えているのは誰なのか。これからも核爆弾が撃ち込まれるかもしれない。福岡なのか名古屋なのか大阪なのかどの都市にだって有りえます。それに対処できるのは誰なのか。今こそ、白黒はっきりする時だと思います。埼玉新都心に告ぐ!今すぐそれを証明すべく解散総選挙を求める!」
宣戦布告を受けた官邸サイドは共産党の戯言など無視を決め込みたかった。だが、世論はそれを許さなかった。埼玉新都心にはデモ隊が押し寄せ、メディアでも政権批判が苛烈さを増していた。
仕方なく石田首相は衆議院解散総選挙を決定した。通常、20日はかかる選挙期間中に共産党青年団が放射線障害などで自滅してくれればそれでいいと考えていた。しかし総務大臣が異例の発表を行った。財務省と連携し、マイナンバーカードを活用した選挙をe‐taxのシステムを流用した形で早急な電子選挙が可能である、と発表したのだ。これはれっきとしたクーデターだ。総務大臣もブレインウォッシュされていたというオチだ。しかし、官邸側にはシステム上介入できる余地がある。出来レースにできる。
選挙は解散から異例の短時間で10日後となった。しかし、各県、各区市町村の現場の役人は上層部の無茶振りに辟易していた。サボタージュすることは明らかだった。通常の選挙事務などやってられない。ましてやこっそりと官邸の意向を受けた票数操作などできるわけがない。
選挙準備は粛々と進められた。各党の選挙運動もやれる党はやった。ただどの党もロシアや核攻撃に対する政策を打ち出すことができず、尻切れトンボのような街頭演説を繰り返すだけだった。時間もなく急に決まった解散総選挙である。各候補者はほぼ何の準備もできておらず核戦争に怯える地元の不安を消すことができなかった。
一方、共産党は大量の洗脳人材の活用と反核、反ロシアを前面に出した明確な演説攻勢で、短い時間にかかわらず精力的に活動を行うことができた。中国からの物資面、金銭面の潤沢な支援も有り、日本全国、特に東京近郊と北海道を中心に精力的に選挙活動を行った。全選挙区に候補者を送り出した。他の候補者が大人しく活動をしているのと対照的に、日本全国で物量を武器に派手な選挙運動を繰り広げた。
「日本を救えるのは共産党しかいない」
そんな空気が日本中を黒い霧のように覆っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます