最終章:さらば、キモオタ三邪神!

第32話 キモオタ三邪神、そろそろ帰る

 三邪神の見守る中で。


 チャンネル登録者数の数字は増えていき――ついに、100万人を突破する。


「……ついに」


 万感の籠もった声で、リトルはつぶやく。


「来るところまで来たのぉ。わしらってば、ビックリするくらいの人気者じゃ」

「フハッ、我ら、ついに得難き物を得たり」

「まぁ、コレでさすがに」


 つい最近まで、ヒナの件で炎上していたマリフはつぶやく。


「潮時ですかね」


 リトルとセティは、合わせて頷く。


「近頃では、変装なしでアキバに行けば囲まれる始末じゃしな。彼ら彼女ら、『信者』と言っても過言ではないじゃろ。ノアちゃんを筆頭に推しのDtuberとも会えたし、これ以上を望むのは贅沢というものじゃ」

「フハッ、我は満足である! ルート攻略完了を是認する!」

「では、常夜塒エヴェースに帰るとしますか」


 セティは同感を示し――リトルは首を振った。


「その前に」


 邪神が一柱は言った。


「その前に、ひとつだけやっておくべきことがあるんじゃ」


 それはなんだと、疑問を呈する二柱の前でリトルはつぶやく。


「……グッズ化」


 ぼそっとしたつぶやき声に、セティとマリフはびくりと反応する。


「グッズ化……しといたほうが良いじゃろ、わしら」

「た、確かに……私の奴隷ファンも言ってましたよ。グッズ化して欲しいって。それに、我々の信者の信仰を長く維持するためには――」

「引退の前に、偶像グッズ化しておいた方が良いというわけか」


 こくりと、リトルは頷く。


偶像グッズ崇拝、わしらもしとるじゃろ?」


 狭苦しい部屋の四方に貼られているノアといったDtuberのタペストリーを見て、確かに確かにと二柱は賛同した。


「フハッ、ギャルゲーにおいても偶像グッズ崇拝は基本! ゲームというのは次作が出るまでの間隔が長い! 特に、ギャルゲーなどは続編が出ずにそのまま……という事例ケースが多数ある! しかし、何年後、何十年後でも、古めかしい作品であろうとも偶像グッズが発売されることは多々あり、ファンはその折りにその存在を思い出すのよ!」

「素晴らしいですよ、リトル! 私という存在がこの世界に蔓延し、奴隷ファンどもがひざまずくその光景が! 目に見えるようです!」

「じゃろうがじゃろうが! わしらってば、コレだけの人気があるんじゃし、働きかけすればグッズ作成くらいは簡単にしてくれる筈じゃ!」

「安心するが良い。個人作成という道もある。人気の出なかったギャルゲーのグッズは、爪に火を灯すようなひもじさでファンが自作するものよ」

「DMを漁れば、その辺りの話に乗ってくる会社も見つかる筈ですよ。大量の企業が我々に声がけしてきていますからね。

 では、早速、動き始め――」


 ぴんぽーん、と。


 間延びした音が聞こえて、リトルたちは目配せする。


「おぬしら、Ama◯onでなにか買ったかの?」

「我は、実店舗で買う派である」

「私も、最近は通販で買い物してませんねぇ……大家さんの殴り込みじゃないですか? アレとかアレとかしたし」

「おぬし、今度はなにやらかしたんじゃ……」


 ため息を吐いて。


 リトルは、扉を開ける。


「はーい、どなたですかのう?」


 その視線の先には、神々しいひとりの女性の姿。


 亜麻布を使用した衣装キトンを纏った彼女は、ベルトで膨らみコルポスを作っており、柳の枝で作られているサンダルを履いていた。


 全身から発光している絶世の美女は、浅草寺から買ってきたらしい雷おこしをリトルへと差し出す。


「あのぉ……こちら、つまらないものですが」

「ん? 新しい大家さんかの? これこれはご丁寧に」


 腰の低い彼女から、リトルは手土産を受取り――


「いえ、わたし、そのぉ」


 彼女は、辛そうな顔で言った。


「この世界の女神です」

「さよなら」


 リトルは、勢いよく扉を閉めた。

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