第31話 世界一のお嬢様系Dtuber決定!!

 炎上している車内から。


 当然のように歩いてきた三邪神は、担いでいた藤堂修二ヒナの父を下ろした。


 マリフの『目』による透明化は、既に解いている。


「さて」


 上空へと伸ばした触手から。


 回収したクゥをぽーいっと放り投げ、近くの電柱へと縛り付けた後、リトルは胸を張って謎の金髪縦ロールを糾弾する。


「わしらに突然、突っかかってきたお主は誰じゃ! わしら、なーんにも悪いことしておらんぞ! ムカつく眼鏡でピンボールゲームして、宙空に無許可で初音◯ク投影してから、音ゲー形式で腰振らせただけじゃ!!」


『邪悪、そのもので草』

『それ、悪いことって言うんですよ』

『なんで、俺たちは悪人に同情してるんだ……』


 むくりと。


 身体を起こした修二は、謎の金髪縦ロールを見つめ声を上げる。


「ひな……」

「「「えっ」」」

「お父さん……」

「「「えっ!?」」」


 ヒナはモニター形態を解放し、元の姿へと戻る。


 その様子を視て、マリフはヒナの元へと向かいその肩を親しげに叩いた。


「私は……気づいてましたよ」


『絶対、嘘で草』

『顔面が嘘つきのソレ』

『寝返るのが早すぎる』


 無駄にヒナの配信画面にカットインしているマリフを他所に、父娘は顔を見合わせて互いに黙り込んでいた。


 その様子を見守っている三邪神は、道路の隅に茣蓙を敷いて座り込み、ポテチを食べながらやんややんやと煽り立てる。


「ひなちゃん、がんばえー!」

「フハッ、父娘の絆とは見応えがある!」

「殺せーっ!!」


 意を決して、ヒナは口を開く。


「お父さん……わたし」


 なんと口火を切るのか、三邪神と視聴者たちは固唾を呑んで見守り――


「強いの」


『えっ』

『コレ、流れ、大丈夫ですか……?』

『ヒナさん?』


 唖然としている父の前で、ヒナは飛来してきたモニターを受け止める。


 そして、その画面を発光させて――光線は炎上していたロードスターを貫き、真上に吹っ飛んだソレは火花を上げながら弾け飛ぶ。


 唖然と、父は娘を見上げた。


「お父さん、わたしのDtuber活動、妨害してたんだってね」

「…………」

「お父さん、わたし、Dtuber続けても良い?」

「…………」

「お父さん」

「…………」

「3」

「良いです……」


 カウントダウンが始まった直後。


 どこからともなく飛んできたモニターが、ヒナの両手両足に貼り付き、その顔面にくっついた瞬間――ヒナの父は言った。


「全然……問題ないです……」

「お父さんっ!!」


 泣きながら、ヒナは父を抱き締める。


「お父さんならわかってくれると思ってた……わたし、頑張ってキラキラするね……!!」

「…………」


『いや、無理無理無理!! その流れから感動のフィナーレに繋げるのはさすがに無理!!』

『パパ、青ざめてて大草原』

『どうした泣けよ、エンディングだぞ』

『育成失敗』

『大いなるバズリには、大いなる責任が伴う』


 ポテチとコーラで胃を満たしていた三邪神は、ひそひそと相談をしてから笑顔でヒナたちに拍手を送る。


 良いのか悪いのかよくわからないが、拍手で誤魔化すことにしたらしい。


 そんな拍手で迎えられる形で、滑るようにロールスロイスが近辺に停まり、そこから鷹晶たからジェンヌが下りてくる。


 華麗に下りてきた彼女は、ふさぁっと自慢の金髪を掻き上げた。


「どうやら、間に合わなかったようですわね」


 驚いて固まっているヒナの前へと進み出て、彼女は優雅に微笑んだ。


「藤堂ヒナさん。見守っておりましたわよ。最後の最後に貴女のフォローをして、人気を掻っ攫おうとした作戦が無為に帰しましたわね」

「ジェンヌさん」


 挑むようにして。


 ヒナは一歩前に踏み出し、ジェンヌへとおのが全身を見せつける。


現在いまこそ、世界一のお嬢様系Dtuberを決めましょう」

「ヒナさん……」

「うぉお!! ヒナちゃんがんばえー!! ヒナちゃんが負けたら、わしら、マジでDtuberではいられなくなる可能性高いんじゃー!!」

「ヒナよ、勝て!! 我らの現在いままでを糧とし、おのが血肉へと変えるために!!」

「私が炎上するので!! 今までの流れが無為にしたら、私が炎上するので勝ってください!! もしくは、私の代わりに炎上してください!!」


 盛り上がっている三邪神が声援を送る中、ジェンヌはふっと微笑を浮かべる。


「ヒナさん」


 そして、モニターまみれのヒナに向けて彼女は言った。


「ソレ、お嬢様ではありませんわ」

「「「「…………」」」」

「お嬢様ではない」

「「「「…………」」」」


 その場に気まずい沈黙が立ち込め。


 無言で、マリフは炎上回避のために配信を切ったが――普通に炎上した。

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