第23話 DMで相談しただけなのに

「月見で一杯……コレで、わたくしの勝ちですわね」

「…………」


 鷹晶たからジェンヌは勝利宣言し、花札をもったマリフは無言で敗北を受け入れる。


『出オチで草』

『物凄い勢いで喧嘩売って、とんでもない速さで敗けてて大草原』

『というか、なんでマリフが戦ってんだよww』

『花札とお嬢様になんの関係があるんですか???』

『大手Dtuberの事務所にカチコミして、花札勝負して敗けるまで五分くらいしかかかってないの面白すぎるww』

『なんで、自分から花札勝負仕掛けて敗けてんだよwww』


 ぽんっと。


 リトルは、慰めるように藤堂ひなの肩を叩いた。


「ヒナちゃん……わしらの敗けじゃ」

「えっ!?」


『ヒナちゃん、なにもしてなくて草』

『物凄い勢いで、敗北者にジョブチェンジさせられてる……』

『悔しいのはわかるが、皆、受け入れよう……ヒナの敗けだ』

『人間の尊厳を凌辱するのが上手すぎるだろ』


 頷きながら、セティはヒナへと声をかける。


「誇れ、ヒナよ。貴様は、今、確実に人間として成長した。勝ち負けは肝心ではない、あの鷹晶たからジェンヌを相手によく戦い抜いたではないか。我は、貴様をプロデュース出来たことを誇らしく思うぞ」

「はいっ!?」


 マリフは、照れ臭そうに鼻の下を掻く。


「ったく……貴女は、おもしれー女ですね。遠路はるばる大手Dtuber事務所に乗り込んで、トップ層のDtuberに喧嘩を売るなんて普通は出来ませんよ。私は、心から貴女のことを尊敬します」

「なにが!?」


 ジェンヌは、優雅に己を扇ぎながら微笑む。


「藤堂ひな……わたくしが属するOne Pointへカチコミし、ドゥアーを蹴破り、配下の三邪神を差し向けた、そのアグレッシヴでお美事なGood華美は評価いたしましょう。お優雅点、120億を差し上げますわ。コレで累計120億お優雅、ゆえにわたくし、貴女を好敵手ライバルとして認めますわよ」

「はぁっ!?」


 ヒナを囲んだキモオタ三邪神とジェンヌは、優しい笑みを浮かべて拍手を送る。


 まばらに。


 職員たちも拍手を送り始め、いつしか会議室は万雷の拍手に包まれ、その中心に取り残されたヒナの表情がすーっと消えて真顔になる。


『全部、ヒナがやったことになってて草』

『イイハナシダナー』

『こんなにスムーズな冤罪ある???』

『警察だ!! 今直ぐ、藤堂ひなを解放しろ!!』

『お巡りさん、この子、自分から地獄行きに乗り込んでるんすよ』


 正気を取り戻し。


 輪の中心でおどおどとしているヒナは、必死で周囲へと呼びかける。


「あ、あのっ!! わたし、キモオタ三邪神さんに、突然ココに連れてこられただけで!! べ、別に、鷹晶たからジェンヌちゃんと勝負するつもりなんてなくて!!」

「ヒナちゃん……」


 リトルは、驚愕で目を見開く。


「『今日この日は、勝負を行う予定の日ではなかった。今回の敗北は、暴走した三邪神の落ち度。ゆえに、此度こたびの勝敗をわたしが受け入れることはない。世界一のお嬢様系Dtuberは、依然、この藤堂ひなの手にある』……そう言いたいんじゃな?」

「なんですって!?」


 愕然と。


 とんでもないことを言い出したヒナに対し、ジェンヌは思わず敵愾心の籠もった視線を向ける。


「ゔぇっ!? い、いや、違くて!!」

「違う……では、『なぜ、このわたしが鷹晶たからジェンヌに敗れたと勘違いしているのか。浅慮、はなはだしい。常勝の将は、ひとつの城を落としたところで手柄と思わない。理解しろ。One Pointの鷹晶たからジェンヌは、わたしにとってひとつの城に過ぎない。いや、路傍の石といったところか』と言いたいのだな、ヒナ」

「ひ、ヒナちゃん……それは、言い過ぎじゃろ……」


 ドン引きしているリトルに対し、ヒナは慌てて両手を振って否定する。


「ち、違う違う違います!! わ、わたし!! そんなこと欠片も思ってなくて!!」

「欠片も思っていない……なら、『HEY、鷹晶たからジェンヌ!! まずは、挨拶代わりにわたしの尻を舐めな。この五本の指を見てみろよ。わたしの五本指は、全部、中指だ……意味がわかるか、全部、お前に捧げるファックサインだよ。マザファッカ、ヴィッチ!!』と言いたいんですね」

「ヒナよ、貴様、そこまで言うとは……ッ!!」

「……………………」


『地獄みたいな自動翻訳ツール付き纏ってて草』

『口を開けば悪化することを理解して、一言もしゃべらなくなって大草原』

『地獄への道は、善意で舗装されてるってホントだったんですね』

『ガチで、キモオタ三邪神は善意100%なの怖いよね』

『こんなにテンポよく、取り返しがつかなくなることある???』


 ばさぁっと。


 扇を広げたジェンヌは、画面が割れた自分のスマホを見下ろし不敵に笑む。


「藤堂ひな……わたくし、貴女の挑戦を受け入れますわ。なぜならば、わたしは、ノブレス・オブリージュを旨とする世界一のお嬢様系Dtuber。ニューチャレンジャーは拒まず、オールドソルジャーはただ去るのみ……貴女がそこまで言うのならば、わたくし、貴女が指定する日時で世界一のお嬢様を賭けて勝負いたしますわ!!」

「…………」


 マリフ、リトル、セティは、黙り込んでいるヒナを囲んで脇腹を小突く。


「どうしますか、ボス」

「あやつ、調子にのってますよ、ボス」

「わからせてやった方が良いんじゃないですか、ボス」

「…………」


 うんうんと頷いたリトルは、偉そうに胸を張って声を張り上げる。


「よーし!! では、勝負は一週間後!! わしらのボスが指定したダンジョン内で行うこととするんじゃ!! 精々、それまで、冥土の土産用の自家製ティーカップでも磨いとるんじゃなあ!!」

「フハッ、貴様のお嬢様系Dtuberとしての寿命は一週間後よ!!」

「ギャハハ!! ヒナたそを敵に回すなんて、終わったぞテメー!!」


 三邪神に囲まれたヒナは、無言でMTGテーブル上にあったモニターを持ち上げ――


「やってやるよ、オラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 凄まじい勢いで、マリフとジェンヌのスマホに叩きつけた。

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