第17話 好感度UPで、放送事故を取り返せ!!

 数分後。


 配信画面は元に戻り、お台場小規模ダンジョンを映し出す。


「と、というわけで、最初の勝負はOne Pointの勝ちです~!!」


 滝のように汗をかいた観光庁職員は、ぱちぱちと拍手を送る。


 水の上にぷかぷかと浮いているリヴァーくんを間に挟み、ノアとヴィーは息を荒げながらピースサインをカメラに向ける。


「や、やったぁああああああああああああああああああああ!!」

「ヴィーちゃんたちの勝利ぃいいいいいいいいいいいいいい!! よっしゃぁあああああああああああああああああああああああああ!!」


『全力で誤魔化そうとしてて草』

『ぷかぷか浮いてて大草原』

『ここから取り返すのはさすがに無理だろwww』

『ついに、ガチの放送事故起こしてて草ァ!!』

『後ろに炭焼き台見えてるぞww』

物的証拠リヴァーくんが、波にさらわれそうで笑うww』


 ノアたちが、必死で誤魔化しを入れている中。


 リトルとセティは、必死の形相でリヴァーくんに心臓マッサージを繰り返し、どこからかAEDを持ってきたマリフが「下がって!!」と叫んで電気ショックを与える。


「「「ゔっ!!」」」


 水場なので、周辺にいたリトル、マリフ、セティが感電してぷかぷかと浮かび上がる。


『大事故で草』

『どんどん、死体が増えていくんだがww』

『最早、ネタでやってんだろww』

『なんの配信なのか、わかんなくなってきたなコレ……』

『また、ボートの映像流れるぞww』


 また、環境ボート映像が流れて。


 数分後、ぐったりと仰向けに倒れ伏した三邪神から離れ、蘇生されたリヴァーくんはOne Pointの背後に隠れて鳴き声を上げる。


 迷宮官公庁職員、ノア、ヴィー、リトル、マリフ、セティ……六人は、ぐったりと倒れるか、座り込み、無言で虚空を眺める。


「「「「「「…………」」」」」」


『公式放送、終わってて草』

『10万人以上が見てる中で、誰もしゃべらない放送を流す胆力よ』

『コメント量のピークが、ボートの映像流れてる時で大草原』

『配信中のコメント数、歴代3位に入ったらしいww』

『ボートの映像で3位とかどうなってんだよwww』

『人多すぎて、ボート映像流れてる時に追い出されたんだが(笑)』

『めっちゃぐるぐるする~!!』

『切り抜き上がり過ぎてて勢い凄いわww』

『シンプルにエンタメとしての仕上がり具合が段違い』

『上質なノア虐を接種しに来たら、リヴァーくんの死に顔見せられて困惑してる』

『今はリヴァ虐の時間だぞ』


 よろよろと。


 立ち上がったノアとヴィーは、死んだ目で震える拳を突き上げる。


「「かった~」」


『ゆるキャラみたいな勝利宣言で草』

『着信音に設定した』

『電話かかってくる度、水の上に浮かんでるリヴァーくんを思い出しそう』


 無理やり、カメラを掴んでリトルは自分の方へ向ける。


「つ、次の課題ってなにかの~!?」

「ふ、フハッ、気になるな!!」

「次こそ、リヴァーくんの炭焼きを作れとかじゃないですか(笑)」


 水に沈められたマリフは、無言で水底をたゆたった。


 静まり返った場を察したリトルは、こっそりとセティへ耳打ちし、意識を取り戻したマリフも加わって円陣を組む。


「ま、マズいんじゃ……わ、わしら、ものの見事にやらかしとる……ど、どうにかせんと、Dtuber界から永久追放じゃぞ……」

「う、うむ……このままでは、我も、モザイク枕をもった変態として後世に名を刻むこととなる……」

「ど、どうするんですか……リトルが『絶対、コレ、リヴァイアサンの死体をゲットしろとかじゃろ!!』とか言うから……!!」

「炭焼きにしたら、絶対にウケると言ったのはおぬしじゃろうが……ッ!!」

「やめろ、貴様ら。我らの間で諍いを起こしている場合ではない」


 セティは、力強く頷く。


「聞け、凡愚ども。こうなれば、取り返す他あるまい」

「取り返すってどうするんじゃ……?」

「フハッ、児戯よ」


 彼は、自信満々で首肯する。


「次の課題を完璧パーフェクトにこなす。それしかあるまい」

「でも、次の課題はなんなのかわかりませんし……」

「次の課題がわからない状態で」


 リトルは、にやりと笑う。


「課題を達成したら、わしら、相当格好良いんではないかのう……?」

「「おー……!!」」


 セティとマリフから拍手を送られ、リトルは両手を上げて両者の感嘆に応える。


「フハッ! つまり、最速で、現時点では不明な次の課題をこなせば良いわけか!」

「そうじゃ! 颯爽とこなせば、きっと好感度爆上がりじゃ!!」

「でも、どうやって、次の課題を推測するんですか?」


 マリフの疑問に対し、リトルは指を振りながら答える。


「ちーっちっち! 脳みそスカスカ、スポンジブレインのマリフくんは甘いのう! ふたつ目もみっつ目も、ひとつ目の課題と同じような内容に決まっとる。ひとつ目の課題は、リヴァーくんというわかりやすい仕込みがあった……つまり、ふたつ目もみっつ目も、スタッフが仕込んだ『なにか』ということじゃ」

「な、なるほど……! 明らかに仕込みっぽいものを見つけて、解決すれば良いんですね……!!」

「フハッ、委細、承知した!!」


 三邪神が、必死で仕込みを探している中。


 One Pointを一目見ようと集まっていた観客たちが、何者かに掻き分けられて押しのけられ、小さな女の子が床に倒れて泣き声を上げる。


「え、あれ、シローじゃね?」

「マジ? 迷宮探索者の? 本物?」

「やべーガチじゃん! すいません、サインくだ――」

「はい、邪魔邪魔邪魔ぁ~。どけどけ、凡人ども~」


 肩を押されて若い学生は勢いよく吹き飛び、水しぶきを上げながら転がって痛みで呻く。


 そんな光景を他所に。


 人混みを掻き分けてやってきた男は、タバコを吹かしながらニヤつく。


「よぉ~、クソ雑魚、詩宝ノア~! お前、よろしくやってんじゃね~の」

「……瀬戸セト獅蝋シロウ


 柄物のシャツにサーフパンツ。


 長めの金髪を片手でいじくりながら、丸い色眼鏡をかけた『瀬戸セト獅蝋シロウ』と呼ばれた男はニヤつきながら片手を上げる。


「よぉ、元気? この間、俺に敗けてから精進した~?」

「…………」


 黙り込んだノアを庇うように、ヴィーは前に出る。


「今、放送中だから。なにか話があるなら後にしてくれる?」

「あれあれ~? 俺にそんな口利けるだけの実力あんだっけ、お前って~? 良いね~、四六時中、迷宮で遊んでられるDtuber様は~?」


 色眼鏡をズラして。


 シローは、下からヴィーをめつける。


「……よこせよ」

「は? なにが? なんの話し――」

十字行白鍵クルスドライバー。あんだろ、ココに」


 ノアとヴィーの表情筋に力が入り、その表情を見て取ったシローは笑う。


「良いね~、キレイどころの困り顔は見どころだらけで良いもんだ。アレは、お前らなんぞには過ぎたシロモンだろ。他のダルいヤツらが来る前に、俺が回収してやるからとっととこっちに渡せ」

「あ、あの、無関係な方は――」

「俺は」


 間に入ろうとした迷宮官公庁の職員へと、シローは眼光を浴びせる。


「『国選』だ……わかんだろ、凡俗平職員?」

「…………」


 冷や汗を流して、職員は硬直する。


 ズカズカと踏み込んだシローは、十字行白鍵クルスドライバーを回収しようとして――ノアに腕を掴まれ――その瞬間、高速で回転したノアは宙を舞い、床に叩きつけられて水しぶきを上げる。


「うっ……!!」

「ノアちゃ!!」

「また泣かされてーのか、お前は」


 ノアが、水中から浮かび上がろうとしたところで。


 シローはその首をビーチサンダルで踏みつけ、ゆっくりと沈めていって、ニヤつきながらささやく。


「お遊びDtuberは、水遊びしてろよ」

「…………ッ!!」

「や、やめてよ!! か、カメラ回ってるからね!?」

「だから?」


 シローは、真顔でささやく。


「だから?」


 絶句したヴィーの前で、ノアを見下ろしたシローは高笑いする。


「また、三分でぶっ殺してやるよ。良いか、俺に触れられるヤツはこの世にいねぇ。わかったら、迷宮の浅瀬でぽちゃぽちゃ遊ん――」


 ヴィーの視界から。


 シローが掻き消えて、その線となった体躯は天井にぶち当たり、鉱石片を撒き散らしながら壁に跳ね返って水中へと沈む。


 拳。


 グーの形で、発せられたその一撃は――瀬戸セト獅蝋シロウを弾き飛ばし――その拳の撃ち手は、苦笑交じりに拳を開いて掌を振った。


「三分どころか三秒でぶっ殺しちゃったのう」


 カメラに向かって決めゼリフを口にし、リトルは天高く拳を突き上げる。


「よっしゃぁあああああああああああああああああああああああああ!! コレで、わしらは第二課題クリアじゃぁあああああああああああああああ!!」


 大盛り上がりで、ハイタッチを交わす三邪神を眺めながら。


 ノアとヴィーは、ぽかんと大口を開けて呆けていた。

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