第16話 Nice boat.

 時間の経過と共に、噂を聞きつけた観客が押し寄せる。


 一躍、時の人となったキモオタ三邪神、トップ層で活躍するOne Pointによる三番勝負……しかも、それが、かの『緋非ひびカノン』が用いた人外遺物アーティファクトを賭けたものとなれば盛り上がって当然だった。


「というわけで、改めてのルール説明です。元々、用意されていた三つの課題に対し、私たちOne Pointとゲストのキモオタ三邪神、先に解決した方が勝利となります。勝ち星が多かった方の勝ちってヤツだね」


 先ほどまで、土下座していたとは思えない爽やかな笑みで。


 ノアは、ルール説明を行ってヴィーにバトンタッチする。


「はいは~い、それじゃあ、早速、ひとつ目の課題を見ていきましょ~っ!!」


 ヴィーは、めくりフリップをスタッフから受け取る。


 ファンからの「ヴィーちゃ~ん!!」という声援にピースで応えながら、ヴィーは一番上の粘着紙めくりに手をかける。


「では、ひとつ目~!! じゃ~ん!!」


 ぺらりと、粘着紙めくりがめくれる。


 そこには、デカデカと『リヴァイアサンをゲットしろ!?』と書かれていた。


 カメラを余所目にノアとヴィーを入れて記念撮影している三邪神とは異なり、プロのヴィーとノアはわかりやすく反応リアクションする。


「え~!? リヴァイアサン~!? どゆことどゆこと~!?」

「リヴァイアサンなんて、お台場小規模ダンジョンには棲息してないよね。最低でも大規模ダンジョンにまで潜らないと……その鱗を使った人外遺物アーティファクトは、工芸品としても高く売れるって聞いたことがあるな」

「ちょっとちょっと、ノアちゃ! お目々に『$』マーク浮かんじゃってるよ~?」

「お金は大事だよ。この間、ネット止まったし」

「それ、ただの支払い忘れでしょーが!」


 アハハと、わかりやすくスタッフが笑い声を入れる。


 その様子を見ていた三邪神は、互いの脇腹を肘でつついて「せーの」と小声で合図を出し、背を仰け反らせながら笑い始める。


「「「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」」」

「…………」


『下手くそ過ぎて大草原』

『ノアの真顔が色濃くなっていく……』

『煽りにしか聞こえねーだろ、こんなもんwww』

『実際、マリフは煽りでやってると思う』


 散々、ノアを指差して笑っていた三邪神は、笑われているノアが真顔で虚空を見つめているのを見て……すっと、真顔になる。


「「「「…………」」」」


 三邪神とノアは、互いに虚空を仲介し視線を交わしあった。


『完全に放送事故で草』

『コイツら、どこ見てんのwww』

『ヴィーのこんなに気まずそうな笑顔、初めて見たよ』

『コミュ障、大集合で大惨事』


「あー……そ、その……き、キモオタ三邪神たちって~、リヴァイアサンとか倒したことあるの……?」

「蒲焼きが美味いんじゃよね」

「我は、甘辛煮を好む」

「この間、アパートの屋根で天日干しにしてたら大家にバチクソ叱られましたね」

「…………そ、そうすか」


『ヴィーまで、ドン引きしてて草』

『リヴァイアサン、アパートで天日干しにするなwww』

『どうやって持って帰ったのか純粋に気になる』

『コイツら、もうなんでもありだな……』


 なぜか、リヴァイアサンの料理談義で盛り上がる三邪神を余所目に、虚空を見つめていたノアは正気を取り戻して笑みを浮かべる。


「でも、『リヴァイアサンをゲットしろ!?』ってどういう意味なんだろ? 詳しい説明を聞きたいよね」

「の、ノアちゃ……あんた、プロだよ……」


 淀みない司会進行を見て、ヴィーは思わずノアに拍手を送る。


 後ろに控えていた迷宮観光庁の職員は、人の良さそうな笑みを浮かべてカメラに向かって一礼する。


「さすがは、One Pointの皆様……そうです、お台場小規模ダンジョンにはリヴァイアサンは棲息しておりません」

「だよねだよね~!! それで、『リヴァイアサンをゲットしろ!?』ってどういうこと~? 倒して鱗をゲットする……とかが課題かな~と思ってたけど、存在しないモンスターを倒すのはさすがのノアちゃでも無理だよ~!!」

「さり気なく、私に丸投げするな」


 ツーカーの仲で、ノアはヴィーにツッコミを入れる。


「いえいえ、そうではないんですよ。実はですね、今日は、研究用に捕獲された後に手懐けられた世界唯一の成功例……リヴァイアサンの『リヴァーくん』が、このお台場小規模ダンジョンに来ているんです」

「え~!! ウソ~!! リヴァーくんって、ニュースとかでやってたヤツじゃ~ん!! 会いたい会いたい~!!」


 笑いながら、解説役の職員は頷く。


「それでですね、ひとつ目の課題はズバリ!! このお台場小規模ダンジョンのどこかに潜んでいるリヴァーくんを見つけ出し、お友だちになってココに連れてきて欲し――」

「「「えっ」」」


 声が聞こえて。


 職員が振り向いた先で。


 ぐったりとしているリヴァーくんを炭焼きにしようとしていたリトルたちの顔から、すっと笑みが消えて真顔になる。


「「「「「「…………」」」」」」


 キモオタ三邪神と、その他は見つめ合う。


 マリフは、ブチッと音を立てて千切れた尻尾をそっとノアの足元に添える。


「「「「「「…………」」」」」」


 時は止まって――配信画面に美しい湖をボートが進む環境映像が流れ始め、『都合により、番組を変更してお送りしています』のテロップが表示された。

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