第14話 大人気水揚げDtuber

『また、遭遇してて草』

『エンカウント率100%のレアモブと化してる』

『100%の遭遇率は、レアでもなんでもない定期』

『普通、狙わなかったらOne Pointとは遭遇しないんですよ……』

『のあは のろわれてしまった』

『なぜ、ノア虐が巻き起こるのか……我々はその謎を探るべく、お台場小規模ダンジョンへ向かった!』

『邪神としては、常に正しい行動を心がけてるなコイツら』


 コメント欄は、大盛り上がりで同接数も跳ね上がっていく。


 大盛況のコメント欄を他所に、出会い頭に失神したノアを見たセティは顔をしかめる。


「リアクションにしては、堂に入り過ぎてはいないか? 下手すれば溺死するぞ」


 そのげんを受け、リトルは鼻で笑った。


「このバカタレ筋肉が。なーにをまたイミフで末席を汚しとるんじゃ。ノアちゃんのリアクション芸は他の追随を許さず、磨きに磨き込まれた伝統芸能じゃぞ。溺死くらいは織り込み済みじゃわ、覚悟が違うんじゃ覚悟がァッ!!」

「そうですよ、我々のノアたそは一味も七味も違うんですから! けんちん汁にかけられるくらいにスパイシーな覚悟なんですよ! その気になりゃあ、エラ呼吸くらいは余裕ですよ!!」


 非難囂囂ひなんごうごうのリトルとマリフを見て、セティは思わず閉口する。


 その視線の先で、ソンソン・ヴィーが手を振っていた。


「おーい、キモオタ三邪神~! よくも、人んとこのリーダー殺したな~!!」


 その愛らしい非難に、三邪神は顔を見合わせる。


「ゔぃ、ヴィーちゃんが、わしらに手ぇ振っとるぞよ!! ふ、ふつー、一ファンの呼びかけに応えたりするもんなのかの!?」

「…………」


 リトルに揺さぶられるセティは、腕を組んだまま緊張で硬直している。


 あわあわと泡を食っているリトル、推しとの遭遇硬直に陥ったセティを見て、ひとり冷静なマリフはため息を吐く。


「まったく、なにをオロオロとやかましい。先日、ノアたそとコラボしたばかりなのだから、あんなデカボイスで呼びかければ応えもするでしょうが。そもそも、我々は新進気鋭のDtuberですよ。最早、One Pointと肩を並べていると言っても良いんですから」

「ん、んなこと言われても……わしら、つい数日前はただの一般邪神じゃぞ。推しを前にして、平静を装えなんぞ無茶な注文じゃ。のう、セティ?」

「…………」


 リトルに押されたセティは、腕を組んだまま横に倒れて水しぶきを上げる。


 その様子を見て、マリフは「やれやれ」と首を振った。


「まったく、仕方ありませんね……チャンネル登録者数45万人オーバーのDtuber、時の人に相応しい態度というものを見せてあげますよ」

「おーっ!! マリフ、おぬし、たまには役に立つのぉー!!」


 リトルに褒めそやされ、苦笑したマリフは息を吸う。


 そして、大声を張り上げた。


「おーい!! そこのデカ乳女ぁーっ!! そんなとこに突っ立っとらんで、とっとと挨拶に来んかボケナスがァーっ!! 今直ぐ、私の前にひざまずかんかいーっ!! 過去の遺物が未来のスターに頭下げるのは、Dtuber界の常識だろ――」


 ボッ――音がして。


 猛烈な勢いで跳ね上がったマリフの頭は、天井に突き刺さり、ぷらんぷらんと下半身が揺れる。


「…………」


 ぷらぷら、ぷらぷら。


 足先を揺らしながら、上半身の半ばまで天井に埋まったマリフは痙攣する。


 ぱらぱらと降ってくる鉱石片と彼女を蹴り上げたセティを見つめ、リトルは大量に発汗した額を拭う。


「…………」


 片目を開けたリトルは、ちらりとカメラに目を向けた。


『こっち見んなwww』

『ギリギリセーフか……みたいな顔してるけどオールアウトだよ』

『炎上不可避ww』

『マリフ単体で炎上するから問題ない』

『さすが、キモオタ三邪神のメイン盾』

『このメイン盾、常にファイアエンチャントしてんな』

『ヴィー、大笑いしてるからセーフ』

『笑いすぎて、跪く人間初めて見た……』

『目標達成してて草』


 腹を押さえて。


 ぴくぴくと痙攣しながら、膝をついたヴィーは爆笑している。


 そんな彼女の横で、バシャアと音を立ててノアが起き上がり……リトルとセティを見つめ、天井に突き刺さっているマリフを確認する。


「よし」


 ノアは、爽やかな笑みを浮かべる。


「帰るよ、ヴィー」


『案件放り投げてて草』

『自己完結型の「笑えば良いと思うよ」は初めて見たな……』

『迷宮観光庁のお姉さん、オロオロしてて可愛い』

『もっと苦しんでから帰って』

『ノア……コレは、最早、逃れられぬ運命なのよ……』

『可哀想は可愛い』


「あ、案件だって……い、言ってるっしょ……も、もぉ、やめ……こ、これ以上、笑ったら……し、しぬ……」


 げほげほと咳払いをしながら、ヴィーは必死で笑いを収める。


 ようやく、笑いが引いて、彼女は笑顔でキモオタ三邪神に呼びかける。


「ね~!! キモオタ三邪神の諸君~!! よかったら、ヴィーちゃんたちの案件放送手伝ってよ~!! どーせ、暇でしょ~!?」


 ヴィーの発言を受けた瞬間。


 見る見る間に、ノアの顔面筋が『絶望』を表現する。


『ノアの形相www』

『ストレスが顔面に凝縮されてて大草原』

『「なに言ってんだ、コイツ」の顔面再現度第一位』

『腰の剣に手伸ばすのやめろww』

『顔芸やめてww笑い死ぬww』

『息を荒げながら、ヴィーの背後とってるの怖すぎるwww』

『ノア……るんだな!? 今……! ココで!!』

『世界が俺の推しに優しくない。でも、それが良い』


「え~!? わ、わしらも混ざって良いの~!?」

「いいよ~!! 大歓迎~!!」

「…………」


 息を荒げながら、真っ赤になった眼でノアはヴィーをめつける。


『ノアの両眼、充血してて草』

推しヴィーが殺されるwww』

『自然に抜刀してて大草原』

『ノアの殺意が画面越しに伝わってくる……』

『本日のノア虐のコク……モアベター、ね』


 最早、避けられぬとわかったのか。


 にっこりと笑ったノアは、美しいフォームでクロールしながら離脱を図り――


「……………………」


 先回りしたリトルの手で水揚げされた。


『ぐったりしてて草』

『猫とノアは流体って言うよね』

『水揚げされたノアって、マグロみたいに跳ねたりはしないんだな』

『命運を悟った動物は静かなんだよ』


 早くも、同接数は10万人を超えて。


 誰も想像していなかった日本政府、One Point、キモオタ三邪神の闇鍋コラボ配信が始まろうとしていた。

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