バズり散らかし片付け三邪神

第11話 後付けブースト三邪神

「はえ~、大変なことになってるの~」


 たったの数日で、チャンネル登録者数45万人。


 前代未聞の大バズリを成し遂げたキモオタ三邪神は、成功者が住んでいるとは思えない安アパートでスマホを覗き込んでいた。


「で」


 マリフは、リトルとセティに目を向ける。


「どうします?」


 問われた二柱は、顔を見合わせる。


「今んとこ、わしは特に予定はないかの」

「我は、秋葉のスーパー◯テトに行く」


 やれやれと、大袈裟にマリフは肩を竦める。


「今日の予定を聞いてるわけじゃありませんよ、この源泉オタク臭垂れ流しが。私たちは、名実ともに有名Dtuberの仲間入りを果たしたわけですから。今後の身の振り方とかサインの考案とかファンをファンネルにしてライバルDtuberを潰すとか、色々あるでしょう」

「急に、んなこと言われてものぉ。わしの思いつきでDtuberやって、なんか知らんうちに数が増えとるだけじゃし」

「……常夜塒エヴェースに帰るか?」


 定位置の窓枠から。


 ちらりと、片目を上げたセティは二柱に問いかける。


「まぁ、当初の目的は果たしたし、ソレも良いんじゃないですか? 元々、リトルのいつもの思いつきで始まったことで、Dtuberに会いたいという望みも叶えたんですから。私たちは有名Dtuberとなり、信者だって大量に獲得したんだから、暫くの間は常夜塒エヴェースでも大手を振って歩――」

「えっ、わしらって信者いる?」


 得意満面で。


 ぺらぺらとまくし立てていたマリフは、ぴたりと口を止めて顎に手をやった。


「……いや、いるでしょ」


 ぼそりと、マリフはつぶやく。


「だって、チャンネル登録者数45万人ですよ。45万人。切り抜きとか、ほら、1500万再生。もう殿上人でしょう。駅前あたりに金ピカのマリフ像が立って、仲介業者ツバメを使って貧しい人に金箔を配り始めてもおかしくありませんよ。金を持て余したハリウッド俳優みたいなこと出来ますからね」

「マリフ」


 そっと。


 目を閉じて、腕を組んだリトルは言った。


「Dtuberを……舐めるな……ッ!!」

「な……ッ!!」


 その迫力に押され、マリフの犬耳(コーギー)がぴこぴこと揺れる。


「な、舐めてなんていませんよ! 私は現状を正しく理解し、あまねく世界に真実を伝えているだけです! 世の不平等さは、すべて、闇の政府による策略なんですよ! 世界大恐慌は、意図的に引き起こされたことも知らないんですか!」

「コイツ、スマホもたせたらダメなヤツNo1じゃろ」

「我は、リトルの論に賛同を捧げる」


 一本、指を立ててセティはささやく。


「マリフ、貴様に問おう――一度ひとたびでも、我らは、我ら自身の実力で数字を稼いだことはあるか?」

「いや、だって、先日のノアたそとのコラボで――」

「『様』をつけんか、三下ァアッ!!」


 唾を飛ばしながら。


 大声で怒鳴り付けたリトルに気圧され、マリフはぺたりとその場に尻もちをつく。


 その様子を眺め、フッとリトルは微笑した。


「わしらをこの高みに引き上げて下さった大恩人じゃぞ……ノアちゃんから、敬称を抜いたらダメじゃろ……?」

「じ、自分は良いんですか……?」

「わしは、メンシプ入っておるから良いんじゃ」

「た、たかが月500円で『ちゃん』付けが許されると思い込むそのマインド……き、キモすぎる……!!」

「聞け、マリフよ」


 何事もなかったかのように、セティは話を戻す。


「我らは、確かに視聴者を獲得している。しかし、所詮、ソレは見せかけの数字よ。ノアの補助があってこそのものと心得よ。古のギャルゲーで例えれば、女の子の連絡先を教えてくれる親友キャラ有りきといったところ。今現在、我らに『数』が群がっているのは、通りすがりに猛獣の檻を覗き込むようなものよ」

「要は、わしらってファンとかほぼいなくね? って話じゃ」

「なるほど、確かに一理はありそうですね。一度バズっただけで、そのまま静かに消えていく人とかいっぱいいますし」


 ふむふむと、マリフは頷いて首肯する。


「つまり、私たちは未だに信者を獲得出来ていない? そうですね?」

「フハッ、然り。我ら、未然よ」

「そもそもじゃよ? そもそも、わしら、次からはノアちゃんなしでやっていくんじゃろ? どうやって、今の視聴者数を維持するんじゃ?」


 シーンと、狭い一室は静まり返る。


「……リトルよ、この度の端緒は詩宝ノアから『我らの配信の至らぬ点』を教授願うことではなかったか?」

「た、確かに……! さ、サインをもらうことに夢中で忘れてたんじゃあ……!」


 ぱたぱたと両手を振り、リトルは上下に揺れる人差し指でマリフを指す。


「ま、マリフ、直ぐにノアちゃんと連絡を取るのじゃ! わ、わしらの配信の弱点を教えてもらわねば、次の配信であっという間に底辺へ後戻りじゃぞ!」

「そうしたいところは山々なんですが、この間、『ノアたそって、失神してる時と死んでる時の顔同じだよね(笑)』ってDM送ったらブロックされまして……」

「ノンデリのオリンピックあったら金メダルじゃろ」

「フハハッ、さて、どうする?」


 セティとマリフの視線を受けて。


 唸っていたリトルは、ゆっくりと顔を上げる。


「……わしに策がある」

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