第5話 あっちいってこっちいって、BANBANBAN☆

「確実にBANされますよ」


 確信をもって、マリフチョーロは言った。


 ア・リトル・リトル、セティ=スタムレタスは、頭を抱えたまま頷きを返した。


「わ、わしらの本体は、普通の人間が処理出来る情報量ではないからのう……それに、ほれ、わしらってちょぴっとユーモラスな見た目しとるじゃろ……?」

「R-18Gをユーモラスと表現するやから、初めて拝見しましたよ」

「我らの本体露見は、信者側にとっても問題であろう。本来、邪神は封じられており儀式を通じて分体を顕現させるものだと思い込んでいるからな」


 セティは、重苦しくつぶやく。


「あぁ、アレですよね。ダブルピースしながら『あへ! あへ!』とか叫ぶヤツ」

「『いあ! いあ!』じゃろ。ほんま死ね、おぬし。アへ顔ダブピで呼ばれる邪神がいてたまるか」

「フハッ、全かつ一、神たる我は試練もまた受け入れよう。さて、どうするか無知蒙昧の朋輩ほうばいどもよ」


 ちらりと、リトルは二柱の邪神を見上げる。


 つんつんと人差し指同士をつつき合わせ、こてんと小首を傾げた。


「ば、BANされる前に、ちょこっとコメント見たらマズいかのう……? たぶん、アーカイブやらを見た殆どの人間は正気を逸してるとは思うが、最期に残したコメントくらいは見てやらんと申し訳が立たんじゃろ……?」

「…………」

「マリフ? どうしたんじゃ?」


 見た目だけは絶世の美女だけあって、顎に手を当てて考える姿も様になっているマリフは、ウサギ耳をぴくぴく動かしながら目を上げる。


「……おかしくはないですか?」

「「お前の頭が?」」

「いえ、コメントですよ」


 三柱も集まればぎゅうぎゅう詰めの安アパートの一室で、寄り集まった美少女とイケメンはひとつの画面を覗き込む。


「私たちの本体を見れば、人間たちは正気を保っていられませんよね?」

「まぁ、そうじゃのう。たまに高い耐性をもつ人間もいるが、わしらレベルの邪神を見れば一発でOUTじゃな」

「大分、常夜塒エヴェース側に寄っている人草もいるが、如何いかに足掻こうとも神たる我を直視すれば精神の根本から崩れるであろう」

「では、なぜ」


 マリフは、ささやく。


「我々が本体をポロリしたアーカイブの動画に……コメントが残っているんですか?」


 ハッと、リトルとセティは目を合わせる。


「た、確かに! おかしいのじゃ! ミリオン再生を超えているようなアーカイブ動画で、本体をポロリしておるのに、動画の中身に言及しているコメントが残っておるのはおかしい!」

「ふむ、『集団発狂』などのニュースは皆無」

「……画面を通せば」


 マリフは、仮説を口にする。


「画面を通せば、人々は私たちの本体を見てもおかしくならないんじゃないですか?」

「フハッ、斯様かようなことは有り得るのか?」

「い、いや、有り得る……!」


 リトルは、確信をもって声を大きくする。


「あの時、漏れ出たのはほんの一部じゃ! その上、カメラを通せば、わしらの実在性はどうやっても薄れる! ディープフェイクをかけられたライブ動画が出回っているような世界じゃからのう! 人間の精神が、『こんなもの実在するわけがない』という逃避によって守られたというのは仮定として有り得る!」

「で、では……!」


 喜悦満面で、マリフはスマホ画面を突きつける。


「私のアカウントは守られるということですね!」

「いや、おぬしはBANされとれ……」

「この世界からBANされろ」


 柳に風で、仲間からの罵倒を聞き流したマリフは「わーい、わーい」と飛び跳ねる。


 リトルは、ニコニコとしながら万歳する。


「やったー! わーい! わしらのチャンネルは安泰じゃー! こんなにバズリ散らかすなら、毎日、本体ポロリしようぜー、なのじゃー!」

「阿呆。リスクが高すぎるわ。貴様の説は仮説に過ぎんし、幾度も露見を重ねた場合の影響も不明だ。そも、下層での出来事で人気がなかったからこそ、大事にならずに済んだだけであろうが。邪神と比べ人草の身は儚いモノであると知るが良い」

「なんじゃあ、つまらんのう……」


 ちぇっ、と不貞腐れるリトルの横でセティはたくましい腕を組む。


「しかし、正体の露見を切り札と出来ん以上、バズリ後の配信をどう組み立てるかが肝要となるな」

「それはそうじゃのう。なんせ、わしら、今まで同接2の最底辺じゃし。一時的にバズっても、配信が面白くなければ視聴者は直ぐに離れていくもんじゃ。登録者数は多いのに同接は少ないとか、バカにされるのがオチじゃのう」

「まぁ、そうですねぇ……アーカイブの視聴数も爆発的に増えてはいますが、動画の大半はスキップされていて、一部分だけ取り沙汰されているようですし」


 寝転がったリトルは「うーむ」と唸る。


「なにか、わしらの配信にはマズい部分がある筈じゃ……ソレを教えてくれるような人物が……親切なダンジョン配信者の先達がおればのう……」


 苦笑して、リトルは足先を天井に伸ばす。


「ま、そんな都合の良い存在、棚からぼた餅で転がってくるわけもないがのう」

「……転がってくるかもしれませんよ」


 スマホの画面を見つめていたマリフがつぶやき、リトルは上体を起こして彼女を見つめる。


 にやりとわらって、マリフはリトルたちに画面を見せつける。


「詩宝ノアからのコラボ依頼、来てるみたいです」


 ぱちくりと。


 瞬きをしたリトルは、そのダイレクトメッセージを凝視し――


「あんぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 文字通り、ひっくり返った。

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名状しがたい邪神様は、ダンジョン配信で無双する~配信切り忘れで本体ポロリ、BAN不可避だと思ったらバズりまくってグッズ化しました~ かるぼなーらうどん @makuramoto

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