ex03-ミドリのディープおねだり




 ミドリの活動時間は、家族の中で最も遅い。

ユキオなどは健康的で、夜10時前には床に就き、朝5時には起きてトレーニングに出かける。

その後ミーシャ、ヒマリと龍門が起きて、早朝トレーニングからユキオが戻ってきて軽くシャワーを浴び、朝7時過ぎに朝食。

ミドリはその朝食に呼ばれてようやくベッドから抜け出し、寝巻のまま朝食を取る形となる。


 だから逆説、寝る時間は最も遅く、日付が変わる前後。

成長期の体のホルモンバランスに悪く、美容にも健康にも悪いが、ミドリは兎角夜が好きなのだ。

皆が床に就き、活動音も明かりもなく、世界に自分一人しか居ないのではないかと錯覚できそうな時間が。

本当はもっと昼夜逆転気味の生活が好みなのだが、ミドリは仕事の時間帯や家族への配慮でどうにか最大限、通常の生活時間に体を合わせていた。


 つまるところ。

ミドリは家族で最も、ユキオと活動時間がズレている。


「……兄さん」


 自室、ミドリはモニタを前に、オーバーサイズのTシャツから素足を伸ばし、ワークチェアに胡坐をかいていた。

フィギュアにゲーム機にガジェット塗れの横の棚から、ヘッドホンを引っ張り出して装着。

マウスに手を、じっとモニタ画面を見つめる。


 いつでも、そのクリックには心底体が震える。

罪悪感か背徳感か、それとも快感なのか、ミドリはその感情の正体を知らない。

深呼吸。

春の夜長、少しばかり空気は冷たく、喉を突き刺しながらミドリの肺に吸い込まれる。

温まった臓腑の温度が混じる空気が、その口唇から這い出た。

生ぬるい吐息の温度を感じながら、勢いを込めて指に力を入れる。


 青白いモニタ画面に、一つのアプリケーションウィンドウが立ち上がった。

自動で閉じる前に設定されていた映像を、映し出す。

暗くディテールのはっきりしない映像、遅れて暗視モードが立ち上がった。

物が少ない部屋だった。

ベッドに机に椅子、全身鏡、クローゼット、子供部屋にありうる最低限のものだけ置かれた部屋。

無機質で、伽藍としていて、生活感のない空間。

兄の、ユキオの部屋だった。


 カメラは、ユキオの部屋にあるぬいぐるみの中に隠されていた。

それすらも白一色の、ミドリがプレゼントしたクマのぬいぐるみ。

その中に仕込まれた監視カメラが、ユキオの部屋の映像を、常にミドリの端末へと送っているのだった。


「寝てる」


 つぶやき、集音マイクをオンにしてユキオの寝息に聞き入る。

距離と障害物のせいでさして拾えず、ノイズが多いため増幅にも限度があるが、それでも微かなそれを拾う事ぐらいはできた。

聴きながら、吸う、吐く、吸う、吐く……。

ミドリは、ユキオの呼吸と自分の呼吸との、リズムを合わせた。


 ミドリは、目を閉じた。

目を閉じてユキオの寝息の混じった音だけ聞きながら、その呼吸音と自分のそれを合わせる。

自分の心臓の音が、目立ち始める。

ミドリはその自身の心音が、ユキオの心音と同じリズムを刻む光景を浮かべた。

そのままそっと、マウスから手を放す。


 想像の中で、ミドリはユキオと抱きしめ合っていた。

重なり合う胸が、同じリズムで音を、命を刻んでいる。

想像のユキオは、見るだけで痛みを感じられるような切ない表情で、必死でミドリを抱きしめていた。

ミドリは、そんなユキオに縋りついていた。

手を、足を、全てを使ってユキオに絡みつき、離されないように、必死で。


「ごめんなさい、兄さん」


 ミドリの目尻が、潤んだ。

涙滴が次第に大きさを増し、遅れ頬を伝う。


「兄さん、愛しています」


 ミドリの想像が全て砕けた。

ユキオの拒絶の表情が、ミドリの脳裏に映る。

兄は優しいから、きっとどうにかその感情を覆い隠そうとして、それでも隠しきれずに嫌悪がその表情から読み取れて。

ミドリはそれでも、言った言葉を何時ものような冗句にだけはできなくて。

涙をポロポロと流しながら、謝り続けるだろう。

兄はそれを慰めようとして、それでも渦巻く嫌悪に限界が近くて。

想像の中で、決裂が訪れる。


 つまるところ、ミドリはユキオに恋をしていた。

そしてそれを知られれば絶対に破綻すると、心の底から確信していた。




*




 ミドリにとって、ユキオはユキオとしか言いようのない相手だった。

兄ではなく、父ではなく、それらに例えようがない相手。

ミドリのとっての、異性の全て。

異性としての愛を抱いた切っ掛けはもはや思い出せないが、それが叶わないと確信した日の記憶は、硬くミドリの脳裏に刻まれている。


 物心ついた頃、ミドリはユキオ以外に頼る家族は居なかった。

仕事ばかりで家に寄り付かない父親。

家政婦はコロコロ入れ替わり、姉はつまらなさそうに黙々と訓練や勉強をこなすだけで誰にも関わろうとしない。

ミーシャはユキオの事だけを見ており、姉妹にはあまり積極的に関わろうとしていなかった。

その頃全員と交流しようとしているのはただ一人、ユキオだけだった。


 記憶にある限り、ミドリの手を始めて握ったのは、ユキオだった。

ミドリが野菜を食べられるよう手伝ったのもユキオだし、熱が出た時にこっそり部屋に来てずっと手を握ってくれたのもユキオだった。

後を追うようにヒマリもその真似を始めたが、文字通りの後追いであるため、その行為はさしてミドリの心を打つことはなかった。

ミドリがヒマリの事を姉として敬意を持つようになったのは、それから更に数年後。

ヒマリがユキオの真似を継続し続け、自らの血肉にするまでの時間を要する事になる。


 だから当時は、まだミドリは家での味方はユキオだけだと思っていた。

6年前、当時ミドリは10歳。

今でも克明に思い出せる、地獄の夏。


 龍門はユキオに絆されはじめ、家族との時間を増やそうと決意し、仕事の調整をするための仕事をしていた頃。

ヒマリは中等部に上がる前の事前合宿に参加しており、その夏は合宿と家との往復であまり家に居なかった。

だから当時、家にはユキオとミドリ、ミーシャと川渡だけしか居なかった。


 具体的に何があったのか、ミドリは知らない。

直後の事情と合わせ、川渡による直接の暴力か、性的な暴力か、いずれかなのだろうとは想像するが、それ以上は何も知らない。

ただミドリが知っているのは、その期間、ユキオが浮かべていた表情だけだ。


 それまでのユキオは劣等感に苛まれながら、それでも明るく、相手を気遣える優しい子だったと記憶している。

だがその夏、ユキオは明らかにその表情を暗く落としていた。

常に何かに怯え、震え、誰かの視線から隠れるようになった。

食欲は不振になり、夜あまり眠れていないのか、昼間眠そうにすることが増えた。


 明らかに何かあったのだと、ミドリは確信した。

ユキオに何か恐ろしいことが起き、結果として悩み、苦しんでいるのだとミドリは気づいていた。

気づき、そして……。

ミドリは、何もできなかった。


 父は滅多に家に居ないし、こちらから話しかけるような間柄ではない。

ミーシャはミドリを見かけると逃げるように去ってしまうし、そもあまり交流がなく、頼りになる相手なのかはよくわかっていなかった。

少しは頼りになってきた姉は合宿所との往復で忙しく、ミドリの拙い話を聞く余力はなかった。

だから、ユキオを何とかできるのはミドリだけ。

そのことに気づき、ミドリはまず、こう考えた。


「兄さんを助けて、兄さん」


 そして愕然とした。

困った時、常に兄に助けを請い続けてきた自分に。

あまりにも甘えた、醜い自分自身に。


 これではいけない、とミドリは奮起した。

いつも助けてもらっているのだから、今度こそは自分が助けてやらねばならない。

そう思って……、またもや、愕然とした。

助けてやらねばならない。

しかしそれは、どうやって?


 ユキオは誰かに話しかけられる事におびえていた。

だからミドリの事をも避けていたし、避けられるミドリもショックでユキオを追うことすらできなかった。

今まで自分を際限なく甘えさせてくれていた兄に避けられるのは恐ろしい体験で、足元の床が崩れてゆくような恐怖を覚えるほどだった。

何があったのか聞くことすらミドリにはできず、また避けられてしまったことがあまりに辛かった。

当時のミドリには、もう一度避けられる事を覚悟して話しかける事など、絶対にできなかった。


 ミドリは、逃げ出した。

つまるところ、平日は寄り道をして学校に帰る時間を遅らせて、休日はなるべく早くに外出して遅くに戻るようにした。

ユキオを、ユキオに避けられる自分を直視するのが辛くて。

つまるところ、現実逃避。


 そうして数週間。

外出の多さが板についてきたころである。

ユキオから、ミドリに話しかけてきた。


「ミドリ、最近酷い顔をしてるよ。大丈夫? 何か、力になれない?」


 そう言うユキオの方が、はるかに酷い顔をしていた。

ミドリは、今でもその表情を克明に思い出せる。

怯え、震え、まるで今にもミドリに叱られそうだとでも言わんばかりの表情。

泣き出す寸前の、目の前の誰かに縋りつきたくて、それでも必死に堪えている顔。

あまりにも辛くて、よもすれば死んでしまいそうな、その顔を見て。

ミドリは、泣いた。

泣いて、絶望した。


 一度ミドリを避けてしまった以上、ユキオはきっと、逆にミドリに避けられる事ぐらいは考えていたはずで。

だからきっと、ユキオはミドリに避けられる事を覚悟したうえで、話しかけた訳で。

つまるところ、ミドリが絶対にできないと思った事を、苦しみ現実逃避を始めねばならなかったような事を。

ユキオは、他の大きな苦しみを抱えたうえで、行えたのであった。


 当時のミドリは、どこかで自分を天才だと思っていた。

課題を手早く片付け、術式を年齢不相応に速習して学び続け、実質飛び級している2つ上の姉をも超えていた。

10歳にして冒険者学校の中等部相当の術式は全て行使でき、いわゆる高等術式もいくつか使えるようになっていた。

天才と他称され、ユキオに努力と成果を褒められ、ついでに父親にも褒められて、自分で自分を天才なのだと納得するようになってきた。

家族で一番優秀な人間は自分なのだと、心のどこかで考えていた。


 天狗の鼻が、折られた。

ミドリは、恐怖に打ち勝つことができない。

何をすればいいのか、0から何かを作り出すようなことはできない。

自分が尋常を超えた苦痛の状態でさえ、誰かを思いやるような事は出来ない。


 後のミドリからすれば、当時の自分はよくユキオに当たらなかったな、と思う。

自分の自身がへし折られる現実を認めず、それを意識せず押し付けてくるユキオに八つ当たりしても、おかしくなはなかった。

しかしそれだけは耐える事ができ、ミドリはただただ泣いて、ユキオを狼狽えさせるだけだった。


 泣いて泣いて、そして暫くして落ち着き、今一度ユキオに話しかけようとした頃。

龍門の手で、川渡が解雇された。

凡そ二か月ほどで、ユキオの絶望の期間は終わった。

それも、ミドリが何もできないままで。


 その後も兄は絶望的な事実を知らされ、それでも努力と工夫は辞めなかった。

中等部に上がり本格的に冒険者としての実力をつけ始めた兄は、その希少な固有術式の応用を次々と作り出す。

本人は手伝ってくれたミドリのおかげだと謙遜するのだが、その既存の術式にとらわれない発想は、ミドリの劣等感を強く刺激した。


 ミドリは。

兄のような優しさも発想もなく、姉のように誰かを導くことも後天的に優しさを得ることもできず、父のように世界を救う事は絶対にできない。

家族で一番劣った人間が、自分。

ユキオの最大の窮状に気づいていながら、自分可愛さに見捨てた女。


 家族だから異性として見てもらえないとか、そういったレベルではない。

今家族として愛されているのが、既に奇跡。

仮に血がつながっていなかったとしても、ユウオに愛してもらえる事などありえない。

それがミドリの、自己認識だった。




*




「さて、ミドリ、お返しは何がいいかな?」


 夜。

ミドリの自室、ベッドの上に座らせたユキオが、そのように問うた。

チェアの上に胡坐をかいたミドリが、頬杖をつき、その表情を眺める。

愛する人をその手に掛けた苦痛は今でも色濃くユキオの表情を苛んでおり、どこか影のある表情だ。

それでもミドリが遠慮しないようにだろう、最大限暖かく、緩んだ表情のように見せようと努力した影があった。


「治療のお礼って、そんなのいいのに。

 兄さんが傷ついたら、治すのは当然の事だよ」

「そんな事はない。ミドリが頑張って、これまで積み上げてきた物があったから、僕は生還できたんだ。

 だったらそれに、報いたい。

 ううん、報う事で、僕にお兄ちゃんらしいことをさせてくれ。

 僕を助けると思って、なんでも言ってくれないかな?」

「……ズルいなぁ、兄さんは」


 溜息をつき、ミドリはクルリと椅子を回す。

そのままデスクの備え付けの引き出しを開けながら、つぶやいた。


「ちなみに、今「なんでも」って言った?」

「……言っておいてなんだけど、常識の範囲内にしてね?」


 遠い目をするユキオに、クスリと微笑みつつ、ミドリはそれを取り出し告げた。


「兄さん、これつけて」


 それは、首輪だった。

犬がつけるような、赤く太い革の、金属製のバックルとピンで止める首輪。

見る見る、ユキオの表情が変化する。

驚き、絶句、目尻が下がり、動揺に震え、死人のような表情へとなってゆく。

無理を言えば、つけてくれるかもしれない。

けれどそれが与えるユキオの精神へのダメージが、想像より遥かに大きそうだ。


「……な~んてね!」


 ミドリは未練を捨てながら、誤魔化してチョーカーを取り出した。

比較的細めのレザーのチョーカーで、色も黒く飾りもないため、首輪のようには見えない。

ほっと溜息をつくユキオにチョーカーを手渡し、そのままポスン、とミドリはユキオの膝の上に座った。

今日、ミドリの寝巻はオーバーサイズのTシャツ1枚だ。

ホットパンツも履いておらず、Tシャツの下は肌着しか着ていない。

直に限りなく近い感触で、ユキオの肉体が、感じられる。


「ちゃんと膝の上でつけてね。ご褒美でしょ?」

「……わかった、ちょっと待ってね」


 背中側の金具の説明をしながら、ミドリはチョーカーを付けやすいようにと、うなじを見せる。

両手を下ろし、自分の腿の下、ユキオの太ももを掴む。

そっと指を、太ももとベッドの間に挟む。

ぐにぐにと、ユキオの肉の感触を、楽しむ。

少し体を、前かがみにする。

首元のゆるいTシャツが、前にたわみを作る。

隙間から、ユキオがミドリの胸元を覗けるように、角度を調整する。

チョーカーをつけるユキオの、ミドリのうなじにかかる息が、少し荒くなった。


「くすぐったーい」

「う、ごめん……」

「いいよ。……大丈夫、だから」


 ミドリは、ユキオの太ももを、少し撫でた。

ごくりと、ユキオが生唾をのむ音が、聞こえる。

カチャカチャと音を立てる金具と、二人の少し荒い呼吸だけが、音を立てる。


 ――ミドリは、自分を家族で一番人品が劣った人間だと信じている。

だからミドリは、自分がユキオに告白すれば、必ず断られると確信していた。

ミドリは、自分がユキオを結ばれる未来を一切想像できなかった。

誰かのついでにミドリを、愛玩動物として飼ってもらう、それぐらいしか彼との未来を想像できない。


 だからミドリは、ユキオを誘惑する。

タイムリミットは、ユキオが姉か他の誰かと結ばれる、その未来まで。

それまでに肉体関係を結び、その関係をもとに懇願して、ユキオのペットとして過ごす。

ユキオと結ばれる誰かとに飼われる、かわいいだけのペットとして。

恋人としてユキオの隣に居る自分を、絶対に想像できないから。

それだけが今のミドリに想像できる、ただ一つの幸せな未来。


 ユキオが一番に誰かを選択するのであれば、それは姉なのだろうとミドリは思っていた。

だからユキオが、ナギを選択しかけていたのは、意外だった。

その選択は、ほかならぬナギ自身によって破棄された。

ミドリとしては、ナギが何を考えているのか全く分からない、というのが感想となる。

仮に同じような選択を前にすれば、ミドリは間違いなくユキオと結ばれる選択肢を取るのだろうから。


 ナギはかつて言った。

「本物の才能が、蟻を踏む象みたいにユキオを踏みつぶして。自分が猫だと思い込んだ虎が、主人を気づかずに踏みつぶして」

逆だよ、とミドリはナギをあざ笑う。

ミドリは、本物の才能とは、自身が持つ速習性のようなものではないとしている。

本物の才能とは、覆しようのないほどの位階を超え、運命を変えるほどの劇的な結果を呼び寄せる事ができるモノ。

つまるところ、ユキオが持つそれこそが本物の才能なのだと、ミドリは信じていた。


 理解できないし、見る目もない。

けれど何故か、時折ユキオと重なる時があり、苛立ちばかり重ねられる。

ミドリにとってナギはそんな女であり、だからユキオを誘惑するとき、ナギを参考にするようなことはできず、するつもりもない。

ただただ、ユキオに貪ってほしいと、言葉ではなく全身で主張するのみだ。


「これでいいかい」

「ん……」


 時間のかかった取り付けを終え、ユキオが言った。

ミドリは、そっと自身の首筋を撫でた。

チョーカーのサイズはちょうどよく、横方面の締め付けはないに等しく、首から肩へと広がる辺りで捕まえる事ができている。

どこか、ゆるく、そっと首を絞められているような感覚。

ユキオの手がそうしているのだと想像しながら、ミドリは全身をユキオに預けた。

ユキオの首筋に、鼻を擦りつける。


「少し、キツい……けど、これぐらいでちょうどいいかな」

「そう、か……」


 ユキオの視線に、時折性的なものが混じっている事に気づいたのは、いつ頃からだったか。

同時に、それを忌避していない自分に気づいたのは。

自分がユキオの事を、異性として想っていることに気づいたのは、その頃だった。

少なくとも6年前の夏よりはあとで、だからミドリは、自分の恋に気づくと同時、それが叶わないことに確信を抱いていた。


 ミドリは、ユキオの太ももを掴む手をゆっくりと上げ、ほとんどその尻を掴んだ。

預けた背の先、ユキオの体がピクリと動く。

腰を揺らし、芯にたまる切なさを、誤魔化す。

ユキオの漏れた溜息が、ミドリのうなじを撫でる。

少しだけ胸を突き出すようにし、ちらりとユキオを見返る。

ユキオの視線が揺れ、性的な求めと、罪悪感に満ちる。

それがどうしても、喜ばしい。


 少しキツく結ばれたチョーカーが、今のミドリにとっての首輪。

ユキオのものであるという、証。

いつしかユキオが自分を貪る日、ミドリをきっとずっと捨てないでくれる、破瓜の血という本当の証の、仮のもの。


 ペットにしてほしい。

なんでもしていい、あらゆることをしていい。

むしろ、してほしい。その方がきっと、安心できるから。

だからただ一つ、私を見捨てないでください。

ずっと一緒に居てください。

それだけが、今のミドリの願いだった。



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