【05】花畑と美味しそうな香り
その頃ウィリアムはラズを抱いて丘の上にある花畑に来ていた。
「見てごらん。ラズ。ここの花たちはね季節によって変わり咲くんだ。一年中咲いているんだよ。この花たちはね僕の大事な人が毎年捧げてくれるんだ。」
ウィリアムはラズに語りかけていた。だがラズは産まれたばかりの赤子だ。伝わるわけがない。ウィリアムも馬鹿ではない。ラズに伝わらないと言うのは重々承知している。でもウィリアムはラズに語っていた。
「ラズも成長したら自らの足でここに来るんだろうね。」
ウィリアムがそう呟いた瞬間。
ラズが大きなあくびをした。まるで“そうだよ。”と言っているかのように。ウィリアムは目を大きく開いき笑った。
「君はきっと偉大な魔女になるよ。僕が育てるからね。」
ウィリアムがそう言ったとき涼しげな風が吹いた。
当たり前だ。夏が終わり秋に移り変わる風だ。ラズはくしゃみをした。急いでウィリアムは自分の上着を脱ぎラズをくるんだ。
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その頃フロムはあの汚い部屋の掃除を終わらせてご馳走に取り掛かっていた。
「何を作ろうか……。肉料理にスープ。それにサラダにバゲット。ピザも作るか……?」
この沢山の品数、一人では到底作りきれない。だがフロムだってしがない魔法使いだ。しかもウィリアムに育てられている。魔法で料理なんて朝飯前だ。
フロムは最初に時間の掛かるバゲットとピザから作り始めた。バゲットとピザ生地を発酵させなければいけない。だがそんな時間もない。フロムは考えた。
(バゲットとピザ生地だけ時間早めれば行けるんじゃね…?)
フロムは思い立ったら即行動。分量を図り生地をこねた。あっという間にバゲットとピザの生地が出来た。
(後はこれに時間を早める魔法をかけるだけ。)
フロムは杖を持ち深呼吸して唱えた。
『クロノスヴァンテ《時間よ進め》』
見事に成功した。発酵ができた。フロムは安堵の息をつき次は焼く段階に入った。最初にかまどに火をつけなければならない。フロムはかまどに向かって呪文を唱えた。
『フレイムス《燃えよ》』
かまどに火がつき高温になっていくのを確認したらバゲットの生地とトッピングをしたピザをかまどの中に入れた。
「よし。バゲットとピザは焼くのを待つだけ。次は肉料理とスープだ。」
フロムは肉料理とスープに取り掛かった。
(肉料理はうさぎの丸焼きにしよう。冷蔵庫を確認したらあった。しかも内臓は取ってあるし血抜きも終わってある。ウィリアム様がやっておいてくれたのか。)
フロムはクスリと笑った。
「食べること大好きなのが丸わかりだ。」
うさぎの肉の中にスパイスやハーブをたっぷり入れオーブンで焼く。簡単だがとても美味しいしウィリアム様のお気に入りの一品だ。
次はスープだ。そろそろテーブルのセッティングも始めておきたいところだろう。
フロムは材料をまな板の上に置き包丁に向かってこう唱えた。
『カティス《切れ》』
次の瞬間包丁は一人でに野菜や肉を切り始めた。それを確認したフロムはテーブルのセッティングに取り掛かった。
(テーブルクロスを敷きグラスも置いた。)
「後はフォークとナイフ、スプーンも必要か…。」
フロムは何が必要かを確認してキッチンに戻り必要な食器たちをテーブルにセッティングしていった。
フロムがセッティングし終わった時、家のドアが開いた。ウィリアムとラズが帰ってきたのだ。フロムは急いで玄関に向かった。
「ただいま。…うん、いい匂いだ。久しぶりのフロムのご飯だね。」
ウィリアムは嬉しそうにしていた。フロムはウィリアムの嬉しそうな顔を見て少し胸がくすぐったかった。
「おかえりなさい。ウィリアム様。もう少し時間が掛かるのでラズと待っていてください。」
フロムはウィリアムに伝えた。実際ウィリアムのご馳走は出来ていてもラズのミルクがまだだった。
この家では皆で食卓を囲む。ウィリアムも分かっていた。
「分かったよ。ラズと待っているね。」
ウィリアムはラズを抱きながらソファに腰掛けた。
フロムはそれを確認してから急いで準備を始めた。
ピザもバゲットも完璧に焼けていた。オーブンに入っているうさぎの丸焼きはもう少しだ。
(急げ、ウィリアム様もラズもお腹を空かせている。スープの材料は切れている。後はこれを少し煮込むだけ。その間にサラダの野菜を切っておこう。)
フロムはさっき魔法でカットしていた野菜やお肉を鍋に入れ味付けをし煮込み始めた。その間にサラダの野菜は魔法で切ってある。サラダは皿に盛り付けたら終わりだ。
二十分ぐらい経っただろうか……。
ウィリアムはいい匂いで目が覚めた。ラズと一緒に少し寝てしまっていた。
(あぁ、お腹が空いた。もうすぐだろうか。ラズにもミルクをあげなくては……。)
あまり上手く回らない頭で考えていたその時だった。
「ウィリアム様ー!ご飯ですよー!!ラズも連れてきてくださいねー」
キッチンからフロムの声が聞こえた。ウィリアムは待ちに待ったご飯を楽しみにしていた。ラズを抱きテーブルに向かったのだった。
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