しゃち #1




「あー、疲れた……」


 出張してまで飲みに付き合わされるとかマジしんどいから。


 ホテル別々にしといてよかった。部屋飲みとか勘弁だし……。


 とはいえ一服はしたい。

「一本買っとくか……」

 そのまま俺は、目についたコンビニへと入る。


「っしゃぁせぇ〜⭐︎」

「ッ!(びくっ)」

 そしたら、やたら元気のいい子がバイトしてた。


 三センチほどがプリンになった銀髪ウルフ。身長は一六〇くらいで。――瑠璃色の、綺麗な目をしていた。


「おひとりさまですかぁ?」

「コンビニにその概念ある!?」


 他にお客はおらず。


 俺は五〇〇ml入りの缶ビールを手に取り――次いでカゴを手に取ると、缶ビールを入れ、いくつか商品を物色し、彼女の立つレジへと向かった。



「いっぱい買ってくれるんですね⭐︎ありがとうございま〜す⭐︎」


 順番にバーコードを読んでいく彼女。

 ――ハタチくらい、かな。

 頬は健康的な丸みを帯びていて、唇は瑞々しく潤んでいた。


「どちらからいらしたんですかぁ?」

「俺? と、東京っすけど……」

「あーね!? やっぱそんな気したっす! しゅっとしてるし」

「ど、どうも……、、」

 グイグイなテンション。

 手際よく商品をレジに並べていく。


「あ、レジ袋いります??」

「ぁ、ハイ、お願いします」

「一枚四十円です!」

「たっか!?」こっちってそうなの!?

「なーんて、冗談です⭐︎」

「冗談かい!」


 すっかり彼女のペースに巻き込まれる。

 賑やかな店員さんだ。。でも不思議と、イヤな気がしないな。


「また来てくださいね⭐︎」


 バイバイ、と手を振る彼女に。


「また来るわ」、と苦笑して告げて、俺はホテルへと向かった。


「……明日も、頑張るか」


 明日も気が重い仕事が待っているが。

 ……ちょっとだけ、気が紛れた気がした。



     *


 翌日の夜。


「――ぁ! っしゃぁせ〜⭐︎」


 仕事を終えてコンビニに寄ると、彼女がいた。銀髪プリンの女の子。


「おひとりさまですかぁ?」

「ひとりでーす」


 ごゆっくりー、と声をかけられ、店内を見て回る。


 レジを見たら、タバコの補充をしていた。


「仕事、ちゃんとやってんだ」

「やってますよ!??」


 お酒とおつまみを会計中、彼女はむっと頬を膨らませていた。

「こう見えて、真面目っスから」



 次の日店を訪れたら、

「――いらっしゃいませ」

「、おぉ」

 慇懃に、深々と頭を下げてた。

 クールなのもいいな……ってなんの話や。


「い、いいよ、昨日までのノリで」

「おひとりさまですかぁ?」

「それはいらんわ!」

 と返しながら、これが彼女のリズムなんだな、なんて思ったりする。


「最初来た時よりカオ明るくなったすね⭐︎」

「そ、そう?」


 なんでか嬉しそうな彼女の表情に、俺はほんのり照れ臭くなって、そのままカゴをとって売り場の方へと歩いた。



 どれどれ、飲み物でも……お、珍しい炭酸飲料がある。


 一番下の……よっと。屈んで手に取る。

 乳酸菌的な炭酸飲料かな。レジであの子に聞いてみるか。


「――え、スコーラ知らんとかマジっすか!??」


 ――めちゃくちゃ煽り散らかされた。

 地元民マウント半端ない。


「めっちゃソウルドリンクっスよ〜」

「そーなんだぁ」

 すっぱくて甘いっす〜と丁寧に教えてくれた。


「初恋の味っすね♡」


 キラキラ笑顔がガチで眩しい。


 ま、まぁあれだ。東京とか地元では見たことないし、この地域のご当地商品なんだろう。



「兄ちゃんのスポ少の帰りに、よくおかーさんに買ってもらったっす」


 懐かしむ店員さん。

 微笑む表情は、まだあどけなくて。


「じゃー鮫川さんはずっとこっちなんだ?」

「へっ?」

 やべ、調子乗って名字で呼んじゃった。ネーム、胸に付けてたから(胸は見てない)。


「……しゃち、でいいっすよ?」

「へ?」

 ――瞬間彼女は頬を赤らめる。

 女の子の顔。


「――レジだけ、まだ古いんすよね」


 前のお客さんが置いていったのだろうレシートには、彼女のフルネーム。


 ――『鮫川さめかわ紗智さち』、の文字が刻まれていた。



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