第45話

「うぅ……」

 ミラは全員に痛みを感じて目が覚める。

見えるのは見慣れた天井。そこはミラが住むワンルームのベッドの上だった。

「身体が重い……」

 今まで感じたことのない身体の重みと疲労感。ゆっくりとベッドから上半身を起こすが、なかなかベッドから立つことができない。

「学校いかないと……。今日はカズに会えるかな……」

 カズの名前を呟いたとき、ミラは全てのことを思い出した。

「あれ? 私はどうしてここに……。カズは?! 今は何日?!」

 慌ててスマホのカレンダーを確認すると、カズアキの家に行ってからすでに二日が経っていた。すると突然、着信が入りスマホがブルブルと震えだす。画面には『カオルの自宅』と表示され、慌てて電話に出るミラ。

「もしもし!」

『あらぁ、ミラちゃんやっと起きた~?!』

 電話の相手は、ハイテンションのフレイアだった。

「ずっと寝てたみたいで――」

『そうなのよ。私もアトリア姉様も心配してたのよ~。でもよかった、無事で。あ、身体は大丈夫? フラフラしてない? 私は人間になったとき、二日ほど身体が重くて歩けなかったのよ。ミラさんは――』

 早くカズアキがどうなったか知りたかったが、フレイアの話が終わらない。ミラは半ば強引に話を変えた。

「あ、あの! カズアキさんは……」

『ああ、カズちゃん? もう元気でぴんぴんしてるわよ! 明日から学校に行くことになってるわぁ』

「そうですか……よかった……」

『今回のことは、カズアキには何もいってないから。肺炎で気を失って一週間入院してたことにしてるわ。それでよかったかしら』

「ええ。何も言わないでください。お願いします」

『あなたの気持ちも伝えてないから。安心してね。ふふふ』

「は、はい……」

『ミラさん……』

「はい」

『ミラさん、ありがとう。本当に……ありがとね』

 電話の向こうでフレイアは泣いているようだった――。


『それで……ミラさんは学校行けそう? 無理しちゃだめよ』

「それが……お母様。なんだか、身体が重いのと、とても気持ち悪い感じでフラフラするんです。ベッドからも立てない感じで……」

『それってもしかして……腹ペコなんじゃないかしら?』

「え? 腹ペコ?」

『私もそうだったのよ。人間になると「空腹」の感覚を初めて知るのよ。人間って食べないと死んじゃうのよ。めんどくさいわよね~。ミラさんもう二日食べてないんでしょ? 多分腹ペコなんだわ』

「ふふふ。わかりました。何か食べてみます」

『え? なに? ちょっと、今は私が……』

 フレイアは電話の向こうで誰かともめているようだ。

「お母様? どうされました?」


「久しぶり、ミラさん!」


 電話の声はカズアキだった。

ミラはその声を聞き、涙が止まらくなる。

「うぅ……」

 ミラは涙が止まらず、話すことができない。

「あれ? 大丈夫? ミラさん?」

「だいじょうぶ……」

「なんかすごい鼻声だけど、まだインフレンザ感知してないのかな? 僕はすっかり治ったよ!」

「よかった……ほんとに……」

「まだ大変そうだから切るね。ミラさんも早く治してね!」

「うん……」

 通話が切れた後、次々とスマホにグループメッセージが届く。


《やっと体調良くなりました! 明日から学校行くからよろしくです!》

「カズ……」


《カズ、明日から来るの? また学校の女子が騒ぎ出すから鬱陶しいけど……仕方ないから歓迎してあげる! ところでミラはどうなったの? 言い合う相手がいなくて毎日張り合い無いから、あなたも早く来なさいよ!》

「ふふ……ユメ……」


《カズはやっと治りましたの? 同時にインフルエンザで休むなんて……本当は二人でどこか行ってたんじゃないかしら? 聞きたいことがいっぱいあるから、ミラも早く治して部室に来てちょうだい!》

「あはは……サヤカは相変わらずね」


《おお! 待ってたぞ、心の友よ! お前がいないから友達部は男一人で寂しかったぞ! ミラちゃんも待ってるよ~。お見舞い行くから家の場所教えてくれ~》

《タカノリ先輩、僕も男です! あ、カズ先輩、復帰おめでとうございます。明日お会いできるの頼みにしてます! ミラ先輩はまだですか? またクールでかっこいい先輩に会える日を楽しみに待ってます!》

「タカノリ……。タマちゃん……」


《みなさん、今は授業中なのにどうしてメッセージが送れるのかしら?! カズくん、復帰おめでとうございます! ミラさんも、待ってますよ! 今は焦らずゆっくり治してね! あ、教頭先生がこっちを見てる。これで失礼します~》

「ふふふ……。ミーヤ先生……」


 メッセージを読んだ後、ミラは涙を拭きながら笑顔で画面を閉じた。

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