第42話

「これで二度目か……」

 

 いつの間にかミラの前に一人の蒼い髪の女性が立っている。

今は、ミラとその女性以外の、全ての時間が停止しているようだ。


「これは、時間の停止……。あなたは……」

「私は女神アトリアという。お前のことは上からたまに見ていたが、こうやって会うのは初めてだな」

「女神様が来られたということは、カズアキはやはり神に召されるのですか……」

「そうだな。これは神のことわり。それを変えることはできない。本来は時間を逆戻りして別の未来にするのだが、彼は二度目だからな……。また痛みや苦しみを伴うのもかわいそうだ。今回は特別に、私が安らかに眠らせた後で母親に届けることにするよ。お前にそれを伝えようと少し時間を止めたのだ」

「お待ちください、アトリア様! さきほどから『二度目』と言われてますが、どういう意味でしょうか」

「彼が眷属を認知して神に召されるのはこれで二回目ということだ。これはめずらしいことだがな……」

「そ、それは彼が過去に一度蘇生しているということですか?! 神に召されてどうやって蘇生したのですか?!」

「そ、それは言えん……。まあとにかくそういうことだ。彼は連れて行くぞ」

 次の瞬間、アトリアとカズアキの姿が消え、世界の時間が進みした――。


 少しして、タマミがミーヤの他、数名の教師を連れて駆け付けた。黒澤は保健室に運ばれた後で意識を取り戻したが、何かに怯える様子で全てのことを話し、二度とタマミをいじめないことを約束した。

 サッカー部の顧問や部員達もタマミに謝罪し、全ての問題は解決したと思われた。

しかし――次の日からミラとカズアキは学校に来なくなった――。



 ミラはひどく落ち込み、家で一人、身体も精神もぼろぼろの状態となっていた。 

 カオルに続いて、カズアキまでもが自分の責任でいなくなってしまった……。もう友達部の仲間とも合わす顔がない……。ミラは全てのことに絶望し、学校に行く気力もなく、もう六日間も連続で休んでいる。何度も連絡があった学校とユメには、インフルエンザで休むと伝えていた。


 ――しかし、ミラには一つ気になることがあった。

フレイアがカズアキの死を隠しているということだ。

家にも何度か電話してみたが、カズアキはインフルエンザから肺炎に二次感染し長期入院していると言われた。感染するため見舞いも来なくていいと言う。

神に召されることは抗えないし、カズアキがこの世を去ったことは間違いないはず。それなのになぜフレイアはカズアキの死を隠しているのか……。


(アトリア様はカオルのお母様のところにカズアキを連れて行くと言ってた。あの後何があったんだろう。アトリア様……アトリア? どこかでこの名前を聞いたような……)


 そのとき……ミラはふと、フレイアがバイト先に来たときのことを思い出した。


――アトリアさんって名前のお知り合い、いるかしら――


「そういえばあのとき、アトリア様の名前を……!」

 ミラはベッドから飛び起きる。

 フレイアがアトリアを知っていたということは、彼女も女神か眷属であるということ。それがわかったことで、ミラの頭の中にあった全ての点が、つながって線となっていく。


「もしかして……!」

 ミラはすぐに部屋を飛び出し、フレイアの元へ向かった。

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