最終章
第37話
『それは、どういう意味……?』
カオルを殺したのは私だというミラに、カズアキは電話の向こうから確認した――。
「満島くんは、バイト終わりに私を送ってくれたのよ。いつもと違う道で帰ったことで事故にあってしまった。私と一緒に帰ってなければ……、私があの日バイトに行ってなければ……、私が彼の前に現れなければ……、彼は今も生きてたはずだわ」
『そんな風に思ってたんだね……』
「道島くんの葬儀の日、同じ話をユメに言ったの。そしたら思いっきりひっぱたかれたわ」
『ユメが?!』
「そのときに彼女も満島くんが好きだったってわかった」
『ちょ、ちょっと待って。今、「彼女も」って言った?』
「ええ……」
『と、ということはミラさんもカオルのことが……』
「そうね……今だから言えるけど」
『でも、カオルが告白してミラさんは断ったんじゃあ――』
「誰がそんなこと言ったの? ああ、ユメかサヤカね……。彼女達にはそう言ったけど、本当は告白されたとき、私も彼に想いを伝えたわ。その直後に事故になったから……」
『そうだったんだ……。なんでそんな大事なこと僕は忘れて……』
「……? どうしたの?」
『そ、それで、ミラさんは今もカオルのことを?』
「……それは……」
そのとき、ミラの電話から電池切れの警告音が鳴った。
『い、いや、ごめん。変なこときいて。ミラさんのこといろいろきけてうれしかったよ』
「ごめんなさい、電池が切れるわ」
『でも、これだけは言えるよ。ミラさんはもっと人を頼った方がいいんじゃないかな』
「でも私は……」
『ミラさんは友達部にいても、孤独に見えるときがあるよ。もっといろいろ話して欲しいな』
「でも私はそういうのが苦手で……」
『感情表現が苦手なのは知ってるよ。でも本当はみんなともっと仲良くしたいんだよね』
「それは……」
『だから笑顔の練習もしてたじゃないか。最近はちゃんと練習してる?』
「え? どうしてそれを……」
『あ! えっとぉ、それは……。まあ、とにかく一人で悩むの禁止!』
また電池切れの警告音が鳴る。
「あ、もう電池が!」
『電池? ケーブルつなげば……』
「実は今、助けて欲しいことがあって――」
『助ける? あれ? 今、家じゃないの?』
「今、学校に――」
通話が突然終わる。
ミラの最後の言葉はカズアキに届けることはできなかった。
*
カズアキとの電話が切れた後、ミラはカズアキに対する特別な気持ちに気づき始めていた。こんな気持ちになれるのはカオルが最後だと思っていたのに――。
ミラは顔を上げると目の前のゴミの山が目に入った。そして重い腰を上げ、またタマミのスパイクを探し始める。しかしスマホのライトも点かないため、うす暗い電灯の明かりだけで探すしかなかった。
ゴミ袋を一つずつ開けて手探りで奥まで探していく――まだ半分終わったくらいだろうか。ミラの手は更に怪我をして傷ついていく。そして、なかなか減らないゴミの山を見て、ミラの精神は限界になっていた――。
「だめだもう……。助けて……カズアキ」
ミラの口から自然と出た名前はカオルでなくなカズアキだった。しかし、電池切れで電話をかけることもできない。
そのとき――ミラの全身をライトが照らす。ミラは警備員が来たと思い、逃げようとするが身体が思うように動かない。
すると、ライトを照らした人物が優しく語りかけてきた。
「ミラさん……? これはいったい……」
「え?」
その声はカズアキだった。心配でミラを探して助けにきたのだ。
ミラはカズアキの顔をみたとたんに身体に力が入り、カズアキのもとに駆け寄る。
そして、カズアキの胸に顔を埋め大泣きしたのだった――。
「ど、どうしたの? ミラさん?!」
「うぅぅぅ……。一人で辛かった……。怖くて……寂しくて……悲しくて……」
「もう大丈夫だよ。大丈夫だ」
「満島くんが死んで、また私は一人になった……。私はずっと一人……」
「もう一人じゃないだろ……」
「でもみんな、心の中では私を恨んでるんじゃないかって――」
「そんなこと言ってると、またひっぱたくわよ!」
カズアキの後ろから突然女性の声がした。
ミラが顔を上げると、そこにはユメが立っていた。
「ユメ……」
「何を一人で勝手に思い悩んでるのかしら?」
「ほんと……。俺たちのこと、ちゃんと見えてるか?」
「サヤカ……。タカノリも……」
「ごめん。僕がみんなに電話したんだ。そうしたら、みんなすぐに助けに行こうって」
「みんな……どうしてここが?」
「えっと、それはぁ。電話で学校って言ったような気がしたから……」
本当は母に無理を言ってアトリアを呼んでもらい助けてもらったのだった。女神に探索の魔法はないが、眷属の場所は感知できるようで、ミラがどこにいるかすぐに見つけることができたようだ――。
ユメが優しく微笑みながら、ミラの肩をポンッと叩く。
「ミラは、私たちがあなたを恨んでるように見えたの? もしそうだったとしたら、逆に謝るわ」
「そうですわね。私たちの方にも責任があるのかも……。もっといろいろ話して、もっと頼り合いましょう」
「そうだな。俺たちにそれができてないのに、友達部なんてえらそうに言えないよな」
「みんな……ありがとう」
ミラはとても可愛く暖かい笑顔でそう言った。
それは昔、カオルに見せていた満点の笑顔だった。
「それと! 友達部ルールその一! 好きになるの禁止!」
ユメは、距離の近いカズアキとミラを指して注意する。すると、二人は恥ずかしそうにしながら慌てて離れた――。
「そ、それで……ミラさんはここで何をしてたのかな? すごいことになってるようだけど……」
散らかるゴミの山を見て驚いているカズアキ。
ミラはこれまでの経緯とタマミのスパイクを探していることを全員に説明した。すると、ユメはすでに上着を脱いで腕まくりしている。
「そういうことね。それじゃあ手分けして探しましょう!」
その後は早かった。スパイクを探す人、ライトで照らす人、探したゴミを整理する人……ユメがテキパキと指示し、綾瀬と名前が書かれたスパイクはすぐに見つかった。
そして五人は、警備員に見つからないようすぐに学校から退散した。
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