第35話

 ある日の職員室。ミーヤは教頭先生の前に立っている。それを見て、他の教師達は『また始まったか』と、うんざりした顔をしていた――。


「雨宮先生、本当に困りますな。あれだけ必死にお願いされたから設立を了解しましたが、一体どうなってるんですか?」

「申し訳ございません。教頭先生……」

「毎日何も活動してないように見ますし、単に生徒がだらだらする場所を提供しただけじゃないですか。水無月理事のご令嬢もおられるから、私もあまり言わないようにしてましたが、このままでは黙ってられませんな」

「申し訳ございません。でも実は今、活動を始めたことがございまして、もう少しお時間いただけませんでしょうか」

「もう少しとはいつまでですか?!」

「それは……今学年が終わる前では……」

「そんなに待てません。二学期中になんらかの成果がみられなければ、私も結論を出します」

「それは、もしかして……」

「そうです。友達部は廃部です!」

 

 ――ミーヤは肩を落とながら席に戻る。

友達部は教員となって初めての顧問。設立時は周りにもかなり反対されたが、時間をかけて説得しなんとか設立することができた。そして当初は、クラブ紹介でのユメの発表が功を奏し、応援してくれる教師も多くいたのだ。しかし、一学期が終わっても具体的な活動や成果が見られないことで友達部の存在意義があらためて問われはじめてきた。だんだんと、部を存続させることが難しい状況となってきていたのだ――。


「ふぅ……。あの子達になんて説明したらいいのかしら……。設立のOK出して顧問にもなったのに一年も存続させられないなんて……教師失格だわ」

 ミーヤは足取り重く、友達部の部室へ向かっている。

 途中、サッカー部のグラウンドの横を通ると、ネット越しに練習を見つめるミラの姿があった。

「あれ? ミラさん、一人?」

「ミーヤ先生……」

「どうしたの? 他のみんなは?」

「みんなは……部室だと思います。私がミスして、ちょっと言い合いしてしまって……」

「喧嘩したの?」

 ミラは今日の昼休みのことを話した――。


「そうだったの……。でも、ミラさんは気にすることないわ。今回のことをお願いしたのは私なんだから私の責任でもあるわ。それより……みんなが頑張ってくれても友達部が存続できないかもしれないの……」

「友達部が……?」

「ええ。一学期の間に活動した実績がないのと、何か具体的な成果があるわけでもない。学校としてもこれ以上、部費を配分して存続させることができないのよ」

「そんな……友達部が……」

「本当に私の力不足だわ。後でみんなのところにいって、ちゃんと謝らなくちゃ……」

「先生は謝る必要なんてない。他のみんなも多分、同じことを言うと思う。だって、先生は部を設立してくれたんだもの……。私たちは感謝しかないわ。それに、廃部になるのも先生の口から説明されてよかったと思う」


「ミラさん……」

 ミーヤは、涙が出そうになるのを必死に我慢している。

 そのとき、サッカー部から顧問の怒鳴る声が聞こえた――。


「なにぃ?! スパイクが無いだとぉ?」

 怒鳴られているのは、タマミだった。

「す、すいません! どこにもなくて……」

「家に忘れてきたんだろうが!」

「い、いえ、今日の昼まではあったんですけど、なくなってしまって……」

「言い訳するな! スパイク無いなら帰れ! スパイク持ってくるまで、グラウンドに入るのは禁止だ!」

「はい……」

 タマミは走ってグラウンドから出ていく。少し離れたところでは何人かの生徒が冷たく笑っているのが見える。

 そしてタマミは、ミーヤとミラの横を走って通り過ぎていくが、彼が泣いていることがわかり二人は声をかけられなかった。

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