第34話
『彼には明日のお昼休みに友達部の部室に行くように言っておくから、後はよろしくね!』
ミーヤにそう言われていたため、五人は部室でその生徒を待っていた――。
「本当に来るかな……」
カズアキは、その生徒が来るまで落ち着かず、部室内をウロウロしていた。
それを見たミラが険しい顔で注意する。
「緊張してるの? ちょっと座ったら? カズはその見た目に合わず本当に頼りないわね」
「ちょっとあなた。今、『カズ』って言った?」
今度はユメがミラに噛みつく。
「あら、駄目だったの?」
「だって……友達部のルールは下の名前で呼ぶんでしょ……」
「違うわよ。ルールは『ニックネームで呼ぶこと』よ。昨日、ミーヤが『カズくん』って呼んでたし、私も二文字の方が呼びやすいし」
「わ、わかったわよ。じゃあ、私も『カズ』にしよっかな……」
「俺のことも『タカ』でいいぞ」
「検討しておくわ。タカノリ」
「そ、そうね。『タカノリ』はそれほど言いにくくもないと思うわよ」
「お前たち、本当にそれが理由なんだろうな……」
「さっきからあなた達は呑気に何を話し合いしているのかしら……。その生徒さんから、どうやって話を聞きだすか考えといた方がいいと思うんですけど。それで、ミーヤ先生は彼になんと言ってこの部室に呼び出したのかしら?」
「ああそれね。たしか、『文化祭に向けて「友達」をテーマにいろんな生徒の意見を友達部でまとめてるから、協力してください』、ということだったかな」
「なるほど。うまく聞き出しやすいようにお膳立てはしてくれてるってことですわね」
すると、小さくトントンッと扉をノックする音が聞こえた――。
「来たのかな?」
カズアキが扉を開けると、体操着を着た背の低いショートカットの可愛い生徒が立っていた。
「あれ?」
「ああああああ、桜空先輩がぁぁぁ! すいません、突然にぃぃ」
その生徒はカズアキを知っているようで、突然顔を見てパニックとなっている。そして、子供役の声優のようなかわいい声を出して挨拶した。
「あの、
「もしかして入部希望?!」
ユメが大喜びで立ち上がる。
「おお! 入って入って! こっちに座って!」
タカノリが席を後ろに引きながら声をかける。
「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなに圧倒したら、彼女に悪いよ。ごめん……びっくりしたでしょ? さあ、こっちに入って」
「彼女……じゃ、ありません……」
タマミは少し涙目になり、身体が震えている。
「え? 何か言った?」
「先輩、僕は『男』です……。だから『彼女』じゃありません!」
全員、開いた口がふさがらない。容姿や声は完全に女性のようであったが、確かに体操着には水色のラインが入っており男子用である。あまりの可愛さに誰も目がいかなかった。
「ちょっと、あなた、本当に男? 最近よく聞くジェンダーレス的な感じでもなくて……」
「違います。僕は心も身体も完全に男なんです。あの……雨宮先生に、昼休みにこちらに行くように言われてまして……」
「あ! 君だったのか! てっきり男が来ると思ってたよ」
「だから僕は男です!」
「あ、ああそうだった……」
タカノリはボケて言ったつもりだったが、タマミには通じなかったようだ。カズアキが慌ててフォローする。
「ごめんよ、間違えて」
「い、いえ。そんな先輩は悪くありません……。よくあることですので……」
カズアキに顔を見られて顔を赤くしているタマミ。それを見て、ミラがうつむく顔を下から覗き込んで突っ込みを入れる。
「あなた、男だというわりに、どうしてカズアキに照れているのかしら」
「ええ?! いえ、そんな……僕は先輩に勝手に憧れてるだけで……」
「ぼ、僕に憧れて……?」
「そうです。先輩は一年生の間でも有名人で、憧れてる人はたくさんいます。僕もその一人でして……。すいません……」
「こんな『顔だけ度胸無し男』のどこに憧れるのかしら……」
(相変わらずきついな!)
カズアキは心の中で言い返すのが精いっぱいだ。
すると、タカノリがユメを指差しながら質問する。
「でも、男子だったらこっちの女性陣三人の方が話題に出るだろ?」
「あら? そうなの?」
ユメは手を頬にあてて少し照れている。
「それはなかったです」
「んなっ!」
ユメはすぐに悔しそうな顔に変わった。
「いえ、すいません。僕はこういう容姿から女子生徒と話すことばかりで……周りは桜空先輩の噂ばかりでしたから……」
「え? それじゃ、女子生徒の友達が多いの?」
「いえ。友達というほどでも……たまにちょっと話す程度でしょうか」
目を潤ませてカズアキをじっと見上げるタマミ。
「そ、そんな目で僕を見ないでくれ!」
慌てて目をそらすカズアキ。それを見てミラが険しい顔をする。
「あなたが照れないでよ。気持ち悪いわ。とても気持ち悪い」
「だって、この顔で見られてみてよ! かなり可愛いでしょう!」
「そんな、先輩……。僕が可愛いだなんて……」
顔を赤くして両手で顔を隠すタマミ。
「それそれ! その反応がまぎらしいのよぉぉぉ!」
ユメの叫ぶ声が、教室内に響きわたる。
すると、ミラが椅子から立ち上がり、タマミの肩をバンッと叩いた。
「あなた、そんな女性みたいにナヨナヨしてたら、いじめられるわよ?!」
ミラのドストレートな発言に全員絶句する――。
「ちょ、ちょっと! この私でも、そこは我慢して言わないようにしてるのに! デリカシーなさすぎ! それに今日の目的を忘れてる!」
「あら、そう。別に私は思ったことを言っただけで、それが悪いとは言ってないわ。私はこういうタイプは別に嫌いじゃないし……」
「あなたが好きかどうかの問題じゃなくって! 彼の悩みを聞き出すことが目的でしょう」
すると、タマミはうつむいて身体を震わせ始めた。泣くのを我慢しているようだ。
「……やっぱり、僕がここに呼ばれたのはそういうことだったんですね……」
「あれ? なんかばれちゃった……?」
「友達がいない僕が友達のことを質問されるって、おかしいと思ったんです……。僕がいじめられてると思ったんですね。雨宮先生は……」
ユメは目的がばれてしまい、あたふたしている。
「ご、ごめん、実はそうなのよ。雨宮先生があなたのことを心配してて、私たちも心配だったから、ちょっと話を聞いてみようかって。本当にそれだけなの。嘘ついてごめんなさい……」
「いえ……心配していただいて、ありがとうございます。でも……僕はいじめにはあってませんから、大丈夫ですよ! 次、体育で早めに行かないとダメだから、僕もう行きます」
タマミは顔を上げ笑顔でそう言った後、部屋を出て行った――。
タマミ出た後の部室は、重苦しい空気となっている。
「ちょっと、ミラ。あの言い方はないんじゃない? わからないように話を聞いて対策考えようっていう話だったのに、全部ぶちこわしじゃないの!」
「まあ、確かになぁ。『そんなんだからいじめられるのよ』はちょっとまずかったかな……」
「私はそんなこと言ってないわ。そういう感じだといじめられるかもよ、って言っただけで、今回の目的をばらしたのはユメじゃないの!」
「それは、話の流れで――」
ミラは話を最後まで聞かず、扉をバンッと開けて部室から出て行ってしまう。すると、五限目開始の予鈴が鳴った。
「とりあえず解散して、また放課後に話し合いましょうか」
サヤカがそう言った後、四人は教室に戻った――。
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