第33話
八月となる。そして夏休みが終わり、今日から二学期が始まった。
これまで、友達部には一人の入部希望者も現れなかった。新入生は二学期からしか受け付けないと言ったことと、二年と三年には部の存在がいまいち浸透していないことが理由だろうと五人は思っていた。
しかし一番の原因は、この五人の存在自体にあることを本人達は気づいていない。友達部は美男美女そして強いクセのある部員が集まっているような場所である。部員の中に気軽に話かけられるような存在がいないことが、大きな理由だったのだ。
そんなこととは露知らず、五人は呑気に放課後になると部室に集まり、一時間ほどぐだぐたと取りとめもない話をして帰っていくことが日課になっていた。そして夏休みは完全に活動停止。具体的な活動は何もないまま二学期が始まったのである――。
ガチャガチャと鍵を開ける音がする。そして扉が開いてタカノリがその部屋に入ってきた。
「暑いなぁ。早くクーラーつけようぜ。まだミラとユメは来てないのか」
そこは友達部の部室だ。カズアキとサヤカも後に続き入ってくる。そして、手慣れた様子で電気とクーラーをつけた。
「そうだね。そもそも今日、来るのかな。何か活動するわけでもないしね……」
「そろそろ何か考えないと、廃部にされてしまいますわよ」
三人が話していると、少し遅れてユメがやってくる。
「はーい! おひさ~!」
ユメは日焼けして真っ黒である。
「すごい日焼けだね、ユメ。海でも行ったの?」
「そうそう! 夏休みはめっちゃリア充させてもらったわよ! あなたたちは寂しくバイトか家で一人でしょ?」
「おいお前……本当に海行ったのか? 俺たち以外の友達いないだろ。誰と行くんだよ」
「はい! そこ! はっきり言わない! でも……そうよ! 家族とよ! なぜだかわかる?! あんたたちバイトばっかで誘っても誰も来ないからよ!」
「最初からそう言えばいいんです。見栄はるとこうなりましてよ」
「サヤカも何で遊んでくれないのよ。家族でずっと海外って……どんだけセレブなの?!」
ユメがしょんぼりしていると、ミラがやってくる。カズアキとタカノリは、夏休みの間もミラとはバイト先でたまに顔を合わせていた。
「久しぶりだね。ミラさん!」
「一昨日会ったじゃない」
相変わらずの冷たく鋭いカウンターパンチをお見舞いされ、カズアキは撃沈する――。
「みんな、何話してたの?」
「ああ、そうでしたわ。この部もそろそろ何か活動するとか部員を増やすとかしないと、廃部にさせられるかもって話をしてましたわ」
「確かにそうだよな。ここはやっぱり部長に一肌脱いでもらうしかないよな」
「ええ? 一肌脱ぐって具体的に何を?」
「言葉通りだよ。夏なんだし、勧誘チラシ持って水着になって校内を――」
「黙らないと眼鏡割るわよ」
「すいません」
「バカはほっといて、真面目に考えましょうか」
「そうですわね。バカはほっといて、何かアイデアを出し合いましょうか」
すると――扉を開け、汗を拭きながらミーヤが入ってきた――。
「みんないる?」
「あれ、ミーヤ」
「タカノリくん! ちゃんと『先生』をつけなさい!」
ミーヤも、友達部の顧問ということで部のルールを強制され、部員のことを下の名前で呼ぶようになっていた。
「それにしても、なんて涼しい……。ちょ、ちょっと十六度って設定低すぎ! まったく……こんな立派な部室まで用意したのに、友達部には贅沢だわ……。あなた達は何もせずに毎日ただ集まってるだけで……」
「先生……。嫌味を言いに来たんですか……」
ユメが鬱陶しそうな顔で聞く。
「違いますよ、ユメさん。何もすることがないあなた達に仕事を持ってきたんです!」
「仕事?」
「毎日することもないんでしょ? でもまあ、仕事というよりはお願いですね」
ミーヤは真剣な表情に変わる。
「実は……あなた達に助けて欲しい生徒がいるんです。ちょっと一緒に来てもらえますか?」
そう言った後、ミーヤは全員を外に連れ出した。
*
ミーヤが五人を連れてきたのはサッカー部のグラウンドだった。
サッカー部が練習している様子を、少し離れたところから並んで見ている。
「ああ、またやってるわ……。ほら、ベンチ横に立ってる集団を見て」
ミーヤが指示する先を五人はじっと見る。すると、タカノリは何かに気づいた。
「あれって、いじめですか……?」
一人の生徒が他の数名に囲まれて何かされているように見える。それを更に他の生徒が列になって見えないように壁をつくっているように見えた。
「すぐに辞めさせましょう!」
「ちょっと待って、ユメさん!」
勢いよく飛び出そうとするユメだったか、ミーヤが腕をつかんで止めた。
「どうして……」
「実はね……まだいじめかどうかわからないのよ」
「でも、あれってよく見えないけど集団で何かやってるんじゃ」
「そうなんですけど、何をやっているのかがわからないのと、本人に直接聞いたんですけど、本人は何も話そうとしないんです。話すと何か仕返しされるのが怖いのかもしれません。もしくは、本人がいじめられていることを隠そうというケースもあります」
「わかるなそれ……。自分がいじめられてると人に言うにはとても勇気がいりますよね。プライドが邪魔したり、恥ずかしかったりで」
「意外だわ……。カズくんもそういう経験があるのかしら?」
(カズくん?!)
四人は、その呼び方に驚いていたが、今はスルーした。
「僕もいじめられたことありますよ。でも、そうだな……。僕の場合は、自分に原因があるっていう思いの方が強かったかな。だから人に助けを求められないというか……。自分に責任を感じてたから」
四人はカズアキの告白に驚きながら、同時にカオルの顔が頭に浮かんでいた――。
「カズくんもそうだったの……。あそこの彼ももしかしたらそれに近いのかもしれない」
「それで、先生が僕たちにお願いしたいことっていうのは……」
「みんなで彼の状況を調査してもらえないかしら。そして、友達部で何かできそうなことがないか考えてみて欲しいの。でも、これはとてもデリケートな問題だから、慎重に進めてください。それで、もし何かあれば私にすぐ相談してくれるかしら」
「わかりました。やってみます」
「教師がこんなことお願いして情けない話なんだけど……」
「何言ってるのよ、ミーヤ先生! 友達の頼みなんだから、なんだってやるわ!」
「ユメさん! 私はお友達じゃありません!」
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