第31話

 新入生へのクラブ説明会の日。

 友達部の五人は、体育館裏の集合場所に集まった。

そこに現れたユメは目の下にクマができているようで疲れ果てている。

発表まで日がなかったことから全員で打ち合わせをしたり練習したりする時間も無く、すべてをユメ一人に任せることとなったからだ――。


「お、お前、大丈夫か?」

「大丈夫よ……。なんとか資料できたから。パワポも自分で操作するし」

「本当に全部、任せっきりでごめん」

「いいのよ、カズアキ。日もなかったし仕方ないわ。お礼に今度、何かおごってね」

 話をしているとすぐに友達部の順番が周って来た。

 体育館の中に入ると、一つ前の茶道部が発表をしており、実演を見せているようだ。

新入生たちはとても初々しく輝く目をして、先輩たちの発表に見入っているようだった――。


 舞台脇で出番を待つ五人。

カズアキは心配そうにユメの顔を見た。しかし、ユメの顔からはいつの間にか疲れは消えており、活き活きとうれしそうな表情に変わっていた。それを見たカズアキは、昔よく遊んでいたころの活発な子供時代のユメを思い出していた。

 すると、茶道部の発表が終わり、拍手が聞こえてくる。

「よし! 一緒にがんばろう! ユメ!」

 そう言って、カズアキはユメの背中をバンッと叩いた。

 ユメは一瞬驚いてカズアキを見る。そして全員の顔を見て笑顔に変わった。

「うん! がんばろう、みんな!」

 五人は気合を入れて舞台へと向かった。


『次は友達部の発表です』


 その音声に新入生がざわざわと騒ぎだす。

『友達部?』

『何するクラブ?』

『そんなのあったっけ?』

『学校説明会ではなかったよ』

 

 騒ぎが続く中、五人が舞台に並んだ。

すると、その五人を見た新入生の声は更に大きくなった。


『ちょっと待って、あの先輩達めちゃかっこいいんだけど!』

『すごい綺麗な人ばっかり!』

『何? モデルのクラブ?』

『あんな中に入れないよ』


「静かにしなさい!」

 教師が注意し、新入生は一瞬で静かになる。

 そして、ユメは大きく深呼吸した後、発表を始めた――。


「私たち五名は友達部です!」

 ユメがノートパソコンを操作し、背後にあるプロジェクターの画面に『友達部』の文字が大きく浮かび上がる。

「友達部は今年から設立されました。この部はその名の通り友達をつくる部です」

 新入生のあちこちから、くすくすと笑い声が聞こえる。

「この部は仲良く友達ごっこをするためのお遊び部ではありません!」

 その言葉に、体育館は一瞬で静かになる。

「この部には誰でも入れるわけではありません。友達が欲しいけどうまくつくれないと真剣に悩む人。そんな人が来てください」

 新入生は、その説明を聞き、またざわざわと騒ぎ出す。

「一年生はすぐに入部はできません。少なくとも一学期は友達ができるかどうかやってみてください。できる範囲でいいので、まずは自分の力で頑張ってみてください。そして二学期、三学期となるにつれ、気づく人がいるはずです。自分は友達が一人もつくれない、もしくは自分はいじめられている、と……」

 いじめの話が出たことで、数名の教師は少し嫌な顔をして反応した――。


「実は……。私は少し前までは友達がたくさんいました。でもあることが原因で仲間外れにされてしまい、友達がゼロになりました」

 新入生は、ユメの告白でまた静かになる。

「そして……そこにいるお嬢様――」

 ユメは背後に立つ、サヤカを指さした。

「え? 私?」

「見た目は可愛い彼女ですが、お高くとまったお嬢様キャラが災いしたのか、私と同じで友達ができませんでした。そして、そこの美少女――」

 ユメは次に、ミラのことを指さした。

「わ、私のこと?」

「彼女は天河高校一の美少女ではと噂されていますが、そのロボットのような無の表情、そして常に高圧的に話しするツンキャラが災いして友達ができませんでした」

「まさか、次、俺じゃねえだろうな……」

「そう、次はそこのメガネの彼――」

 ユメはタカノリを指さした。

「彼は学年一の成績をとるほどの優等生ですが、見た目のチャラさで友達ができません」

「あいつ、後で覚えとけよ……!」

 三人は眉間に皺を寄せながら、険しい顔でユメを見ている。


「でも、そんなときでした。彼が提案してくれたんです。『友達部をつくろう』と」

 最後にユメはカズアキを指差し紹介した。

「彼が提案してくれたのは、私たちのような友達ができない人を受け入れる部です。その話を聞いたとき、私はとてもうれしかったんです。普段は恥ずかしくて面と向かっては言えませんが、本当はとてもうれしかった……。仲間外れにされてるのは辛かった……」

 すると、ユメの目から涙がこぼれ落ちた。前に座る新入生がそれに気づきはじめる――。


「私には好きな人がいました……」

 四人は驚きながら、ユメの背中を見る。

「でもその人はいじめられていました。仲間外れにされて、いつも一人でした」

ユメはおそらくカオルの話をしようとしている。四人は泣いているユメを心配しながら見守っていた。

「そんな彼を見て、私も同じように仲間外れにして、イライラしていつもきついことを言っていました。彼に友達ができないのは、彼に問題があると思っていたからです。だから、彼が変われるようにと、駄目なところを指摘し続けました。でも、彼は変われなかった。彼はとても私のことを嫌っていたでしょう。そして、彼と私は仲良くなれないまま……彼は3月に事故で死にました」

 体育館の全員が黙って、ユメの言葉に注目している――。


「その後、私も友達がいなくなり彼と同じような状況となります。そしてそのときになって初めて、彼がどういう気持ちでいたのかがわかったような気がしました。この状況を自分の力で簡単に解決する方法なんてない。この地獄のような日々から簡単に抜け出す方法なんてなかった。でもそんなとき、この友達部ができたことで、私は救われたような気がしました。また私にも昔みたいに友達ができるんだ……と。そして私は気づいたんです。彼が悩んでるときも、私が友達になればよかったんだなぁと。それだけでよかったんだと」

 ユメは流れる涙を拭いて笑顔で話を続けた。


「この先、みなさんの中にも、友達ができない自分に気づく人、孤立した自分に気づく人が出てくるでしょう。そんなときは友達部があることを思い出してください。私たちはいつでも待ってます。暖かく迎えます。そして、私たちと友達になりましょう!」

 ユメは深く頭を下げ、後ろの四人も同じように頭を下げる。

 そして、カズアキ達が頭を上げると、振り向き笑って舌を出しているユメがいた。

 笑うユメの向こう側には、大きな拍手をする新入生達が見える。

五人はもう一度頭を下げて舞台を後にした――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る