第29話

 次の日の土曜日。五人は近くのファミレスで待ち合わせしていた。

 友達部の活動計画表を作成するためだ――。


「それで……。まずは『活動内容』からね」

 ユメはドリンクバーのメロンソーダを飲みながら、その場をすぐに仕切りだす。

「こういうのは陽木が得意なんじゃないの?」

「そうだな……ここはシンプルに『生徒間の友好を深めるあらゆる活動』かな」

「うん、いいよ」

 カズアキが賛同し、他の皆も頷いている。

「それじゃ、私書くね」

 ユメがペンケースから鉛筆を出して活動内容欄に書き込んだ。

「それじゃあ、次は……活動方針ね。これって活動内容とどう違うのかな」

「方針だからな。活動の方向だよ。活動することによって、全員でどこに向かうかだ」

 サヤカが首を傾げながら確認する。

「例えば、他の部ならどうなるのかしら?」

「そうだな。例えば野球部だったら『甲子園出場を目標とし、野球を通じて集団で目標に向かって努力し達成する喜びを分かち合う』とかか?」

「よくまあ、そんなに次々と言葉が出てくるわね……陽木ってやっぱり頭いいのね」

「俺の頭脳をなめるなよ」

「でも、やっぱり目標がいるのかしら? 桜空くんはどう思ってるのかしら?」

 サヤカの質問にカズアキは腕を組んで考える。

「そうだね。目標は単純に『友達をつくること』かな。そのための部だから」

「それじゃあ、友達になったら終わりになっちゃいますわね」

「そうか。それじゃあ友達であり続けることを目標にしようか。言葉にすると『一生付き合える友達をつくること』かな」

 その言葉に全員が顔を見合わせる。

「な、なんかちょっと恥ずかしいな……」

「おほほほ。言葉にすると照れますけど、よろしいんじゃないですか?」

「うん、私もいいと思う」

 全員が賛同し、ユメが活動方針を書き込んだ。

「次は……『活動精神』ね。なにこれ?」

「まあ平たく言うと、どういう考えで部活動に取り組むかってことかな? 規定みたいな感じでとらえてもいいんじゃないか?」

「あら、そういえば、私とカオルも友達間のルールを決めてましたわね」

「おお、それいいじゃん。めっちゃ気になる。例えば?」

「そうですね。いくつかありましたけど……一つは『お互いを好きになるの禁止』でしたわ」

 ユメが飲んでいたジュースをぶっと噴き出す。

「な、なによそれ!」

「言葉の通りですわよ。お互い好きになったら友達でなく恋人になってしまうでしょう。だからそう決めたんです」

「あははは。それいいよ! 早速書こうぜ」

 タカノリが提案するが、ユメはなかなか手が進まない。

「どうした? 早く書けよ」

「そ、そうね」

 しかしユメは書こうとしない。

「ちょ、ちょっと確認だけど、本当にこれ書いていいのよね……?」

 ユメはカズアキを見るが、カズアキは黙って目をそらす。次にミラを見たが目を合わそうとしない。タカノリはそれを見て呆れている。

「な、なんだよ。みんなこれ書いたらまずいのか?」

「ちがうわよ! 自分のこととかじゃなくて、今後そうなる人も出てくるかもしれないし」

「そう! 僕もそう思った」

「私もちょっとそう思ったわ」

 カズアキとミラも賛同した。するとサヤカが横から補足する。

「でも、私たち二人にそういうルールはありましたけど、実際、私はカオルが好きでしたわよ。カオルは他の人に気があったようでしたけど?」

さらりと告白するサヤカを見て、言葉が出ない四人。ミラはジュースを飲みながら目を反らし、カズアキは顔が赤くなるのをばれないように、おしぼりで顔を隠した。

「まあそれはいいとして、あくまでも活動『精神』だから、書いてもいいんじゃないかしら? そういう気持ちで活動します、ってことでしょうから」

「そ、そうね……」

 サヤカの突然の告白に驚きながら、ユメは活動精神に書き加えた。

 タカノリはコホンと咳払いをして話を続ける。

「で、他のルールは?」

「そうですね。ニックネームで呼ぶことにしたわね」

「なるほど。友達っぽいじゃん」

「もう、何でもいいわ! 書くわよ!」

 ユメは続けて『ニックネームで呼び合うこと』と書いた。

「それじゃ早速、全員の決めよっか」

 カズアキが笑顔で提案する。

「え? 今なの?」

 少し恥ずかしそうに確認するユメ。

「だってルールなんだから。僕たち部員がやらないと意味ないしね」

「ははは! いいじゃん! それじゃあ、共通ルールで下の名前で呼ぶか?」

 タカノリは、女子三人に変なニックネームにされることを恐れ、早々にルールを提案した。こういう頭の回転は速い――。


「えええ? 下の名前で?!」

「それいいかも。『ユメ』の方が言いやすいね。しっくりくる」

 カズアキは、抵抗なくさらっとユメの名前を呼んだ。

「ちょっと、なに? その慣れた感じ!」

「こ、こういうのは恥ずかしいから、さらっと言った方がいいんだよ。ねえ、サヤカ」

 カズアキはサヤカのことも下の名前で呼んでいたので、全く抵抗がない。

「そ、そうね。それじゃあ、私も『カズアキ』と『タカノリ』って呼びますわ」

「いいね! なんか仲良くなったみたいでいいじゃん! 『ユメ』『サヤカ』『ミラさん』……こっちの方が呼びやすいし」

「僕もそう思うよ~。あっ、ミラさん、ジュース空だね。何か入れてこよっか?」

「ちょっと……。どうして私だけ『さん』が付くのよ」

「あなたの威圧感がそうさせるのね」

 ユメに冷静に突っ込まれ、ミラは少しふてくされた顔で、空のグラスをカズアキに差し出した。

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