第28話

「何かな、聞きたいことって……」

「どうしたの? ユメちゃん。そんな怖い顔して……。おほほほ……」

 フレイアとカズアキがびくびくしながら座る正面に、ユメ達四人が並んで座っている。

「すいません、お母さん。ちょっといくつかわからないことがあって」

「わからないこと?」

「水無月さん。あなた、桜空くんと電話番号の交換した?」

「ええ? そんなことしたことありませんわ」

 すると、タカノリがはっと何かを思い出す。

「あ、そういえば桜空、さっき水無月さんに電話してたよな。水無月さんスマホは?」

「かばんに入れたままで気づきませんでした……。えっとぉ……あれ?」

「着信履歴、誰になってる?」

「カオル……?! どうして?」

「やっぱり! 私もさっき彼と番号交換したんだけど、登録してたカオルのと同じ番号だった……。桜空くん。水無月さんの番号知ってたことと、カオルと同じ番号だったのはなぜかしら」

「えっとぉ……それは……」

 すると、横からフレイアが助け船を出す。

「あらあらあら。そんなの簡単な理由ですよ。カオルちゃんが使ってた携帯をそのままカズちゃんに譲ったんですよ、ユメちゃん。ふふふ」

「え? カオルのスマホを?」

(母さん、ナイスだ!)

 カオルは心の中で、母の機転のきいた言い訳を称賛した。

「そういうことだったんですか。でも、どうしてカオルのを譲ったんですか?」

「ああ、それは僕がスマホを壊して買い替えようとしてたときで、タイミングよく譲ってもらえたんだよ。電話帳そのままだったからね。水無月さんの番号も登録されてたのを思い出したんだ」

「なるほど、なんだぁ。それですっきりしたわ」

 笑顔になるユメであったが、隣のミラはまだ納得いかないことがあった。

「桜空くんは、どうして水無月さんがここにいるとわかったの?」

「えっとぉ……どうだったかな……」

「あらカズちゃん、忘れたの? それは水無月さんがカズちゃんと同じ学校だったから、もしかしてカズちゃんも知ってるかなと思って、私から電話したのよ」

 次から次へと魔法のようにスラスラと嘘が出てくるフレイア。長年、女神であることを隠して生活してきただけのことはあった。

「そうでしたか……。それで……『母さん』というのは……」

(やっぱりきたか! その質問!)

 カズアキはさっき、油断してフレイアのことを『母さん』と呼んでしまった。いくらフレイアの甥だったとしても伯母さんのことを母と読む理由が見つからない。しかしフレイアは簡単には諦めない。

「ああ、それは、私がカズちゃんに『お母さん』と呼んでねってお願いしたのよ」

(母さん、それはちょっと苦しいぞ!)

「だってね。カズちゃんの母親は今、オーストリアに行ってるのよ。だから私が母親代わりで彼をしばらく引き取ることにしてね。だから、私のことはお母さんだと思っていいからねって言ったのよ。ということでどうでしょう……」

(『どうでしょう』は余計だ! でも、無理やりではあるけど筋は通ってるか……)

「ええ? 桜空ってこの家に住んでんの?」

「あれ? 陽木くんには言ってなかったっけ?」

「いや、それは聞いてなかったと思うけどな。まあ、いいんだけど……」

「すいません、お母様。いろいろ聞いてしまって」

「いいのよぉ。何でも聞いてちょうだい。でも……カオルちゃんも、カズちゃんもこんな素晴らしい仲間に出会えたなんて幸せだと思うわ。これからも仲良くよろしくお願いしますね」

 全員頭を下げ、カズアキの家をあとにした。



 帰り道、タカノリが不思議そうに首を傾げている。

「でもさぁ、桜空って満島に似てない?」

「そうね。私もそう思ってた。ちょっと優柔不断っぽいところとかもそっくり」

「私もですわ。話し方もとても似ています」

「私も同じことを感じていたわ。バイト先でも、彼じゃないかと錯覚するときがある」


「まさか、同一人物だったりして?!」


 その言葉に全員一瞬黙ってしまうが、ユメがタカノリの背中をバンッと叩いた。

「そんなわけないでしょ! カオルはどう整形してもあの顔にはならないわ!」

「くっくくく……」

「ちょっと、星川さん、そこは笑ったら失礼でしてよ! ふふふ」

「水無月さんも笑ってるじゃない」

「いやいや、整形とかじゃなくて魔法で転生みたいな?」

「あんたって、ほんとバカ? アニメ見過ぎよ!」

 その後も四人は、昔からの友達のように笑いながら話し続けるのだった。

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