第26話

 先生は、ふぅと深呼吸した後、全員の顔を見る。

「わかりました……」

「ミーヤ先生……」

「とりあえず今は水無月さんが心配だし続きは今度としましょう。水無月さんともう一回ちゃんと話しなさい。それで、やっぱり五人で友達部を創りたいというなら、納得できるような活動計画表を持ってきてください。それと顧問の先生も探すように。その結果を見た上で創設を再検討しましょう」

「本当ですか?! ありがとうございます!」

「まだ認めたわけではありません!」

 カズアキ達は先生にお辞儀をした後、急いでサヤカの後を追った――。


 職員室を出ると、ユメが何かの紙切れを手に持って走ってきた。

「みんな! ちょっとこれ見て!」

 カズアキがその紙を受け取り見ると、そこには綺麗な字でこう書いてあった。


『今日は途中でごめんなさい。カオルに会いに行ってきます。水無月』


「これって……」

「教室かもと思って探しにいったら、メモが置いてあって……」

 タカノリもそのメモを取って内容を確認する。

「これは……いろんな意味にとれるけど、最悪の事態を考えて行動した方がいいな」

「私もそう思う」

「最悪な事態って?!」

「それはやっぱり……カオルに会うっていったら……」

「そんなばかな?! 命を……ってこと?!」

 カズアキは焦って気が動転している。

「落ち着けよ! 俺もそう思いたくはないけど、あくまでも最悪の事態だったらことだよ。冷静に考えよう」

「ごめん……」

「誰か携帯の番号知ってる人は……いないか」

「あ、僕は知ってるよ」

 カズアキはそう言ってスマホを取り出し、すぐに電話をかけだす。そのとき他の三人はなぜカズアキがサヤカの電話番号を知っているのか不思議に思ったが、今は聞けなかった。

「駄目だ、出ない」

 こういうときにユメは行動が早い。クラスでも何かあれば仕切るタイプだった。

「思い当たるところ、手分けして探しましょうか。私は学校の周りとか探してみる。陽木もお願い。星川さんと桜空くんは校庭とか学校の中をお願いできるかしら」

「わかったわ」

「僕は屋上見て、上から下に探していくよ」

「じゃあ、俺は先にミーヤに言ってくるよ。その後、学校の周りの南側を探そう。花月は北側お願い」

「わかった。その前に、見つかったときのためにお互いの電話番号、交換しときましょう」

「僕と陽木くんはお互い知ってるから。二人とは赤外線でいいかな」

 全員手慣れた様子ですぐに番号を交換するが、そのときユメはあることに気づく。カズアキから転送された番号はすでに登録されていたからだ。そして画面には『カオル』と表示された。ユメはカオルと不仲だったが、電話番号は母のフレイアに聞いて知っていたのだ。

 ミラは、ユメがスマホを見ながら驚く様子を見て画面をのぞき込む。そして、ユメが驚いている理由をすぐに理解した。

 二人は頭が混乱するが、今はそれどころではない。全員すぐに行動を始めた。



(くそっ……やっぱりサヤカとはもう一度友達になっておくべきだった……!)

自分を責めながら屋上まで一気に駆け上がるカズアキ。

扉をバンッと開け、いつも昼食を食べていたベンチを確認する。しかしそこにサヤカはいなかった。万が一のことが頭をよぎったが、屋上は高いネットがついており、とてもよじ登れる感じではなく、カオルは少し安心する。

屋上全体を探し終わり、次を探そうとしたとき、ふとあることが思い浮かぶ。

(もしかして、母さんなら……)

 すぐに母親に電話すると、電話口で元気なフレイアの声がする。

『あらぁ! 電話くれるなんてめずらしいわねぇ!』

「ごめん、ちょっと急いでるんだ! 母さんって人を探す魔法とか使えないのかな?」

 すると、フレイアは焦った様子で急に小声になる。

『……いきなりどうしたの……ちょっと今、お客様が……』

「あるか、ないかだけ言って!」

『ないと思うわ……。それに私は元だからね、元!』

「あ、そうだった……。それじゃ、あの『アトリア』って人ならどうかな?」

『だから、そういうのはないと思うけどぉ。でもちょっと聞いてみてあげるわ』

「ありがとう。助かるよ」

『それで、そんなに慌てて誰を探してるの?』

「うん、友達なんだけど、水無月さんって人。同じクラスで――」

『それって水無月サヤカさん?』

「え……どうして母さんがサヤカを知ってるの……?」

『だって、今、隣にいらっしゃるわ』

「なんだってぇぇぇぇ?!」


 カズアキは母に絶対に目を離さないようにお願いした後、すぐに他の三人電話をかけた――。

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