第3章
第25話
「絶対、駄目です!」
ミーヤは顔の前に両手で大きくバツを出している。
それは翌日の放課後だった。
五人は、忙しそうにしている先生を職員室で捕まえた。そして、新しい部を作らせてほしいとタカノリが代表で説得していたのだった――。
「どうしてですか、ミーヤ先生。クラブ規定見ましたけど五人集まれば設立できるんですよね」
「五人いれば何でもよいということではありません」
「それじゃあ、何が問題なんですか?」
「さっき……何部って言いました?」
「それは……」
タカノリは困った顔でカズアキを見た。するとカズアキは自信たっぷりに、大丈夫だと頷いている。
「友達部……です」
「それよ!」
「それ?」
「それそれ! その『友達部』って何なんですか?!」
「みんなでお友達になる部ですよ」
「そんなクラブ活動聞いたことありません!」
タカノリは見た目のわりに、とても打たれ弱い男だった。ミーヤの反論にだんだんと冷汗が出てくる。
確かに、どう考えても友達部を創りたいとはめちゃくちゃな申請だ。しかし事前の話し合いでカズアキは『大丈夫だから絶対それでいこう』と譲らなかった。横でフォローするからと言われ、タカノリも当たって砕けろで挑戦しに来たのだが、木っ端みじんに砕ける寸前であった――。
「友達になる部ということですけど、そもそも陽木くんと桜空くんは、既に親友といえるようなお友達であると先生は認識していますが?」
「いやぁ、そんな風にあらたまって言われるとちょっと恥ずかしい……」
「ぷぷ……」
ユメは、困るタカノリを見て我慢できずに噴き出している。
「花月さん、何がおかしいんですか?」
「はい。すいません!」
「どうせ『友達部』なんて、どこのクラブにも入りたくないから自分達で創ってしまえばいいだろう、って安直な考え方ではないですか?」
「そ、そんなことは……」
「それに、活動目標は何ですか? 各クラブは毎年活動計画表を出す必要があります。文化部は作品をどこかに出展したり、運動部は試合に出たりとそれぞれ目標があって活動します。友達部は何を目標にするんですか? まさか友達百人とか言わないでしょうね?!」
「うっ!」
タカノリはまたもや、ぐうの音も出ない。
ユメはそれを見て、タカノリの脇腹を肘でドンッとついた。
すると、カズアキが我慢できずにフォローを始める。
「先生、友達部を皆に提案したのは僕なんです。僕は真剣です」
「ええ? 桜空くんが?! それは驚きです……」
「友達部っていうのは、友達ができず困っている人に手助けする部なんです」
「まあ、そういうことだろうとは先生も思ってましたけど、具体的に何をするんですか?」
「例えば、友達を作りたくてもどうしてもできない人いますよね。いじめられてる人もいるかもしれません。そういう人に気軽に入部してもらって、僕たちが友達になります」
「友達になるのっていうのは具体的にどういう活動をするの?」
「それは……入部してもらって話ができたらもう友達でしょう」
話ができたら友達……。サヤカは、それ聞いてカオルのことを思い出していた……。
「それじゃあ、友達になったとして何をするの? 普段の活動は何?」
「今は考えてませんが……。特別なことは何もしないと思います。毎日会って話するだけかもしれません……」
「何ですかそれは。もう、話になりませんね……」
「友達がいない人は、それで十分なんですよ! でもこれって、とっても大切なことなんです。毎日バカ話したり、嫌なことを相談したり、何かを教えてあげたくなったり、恋バナしたり……。毎日昼休みとか、放課後の一時間だけでもいいんです。自分にそんな話し相手がいることがうれしいんです。他に何も特別なことはありません。でも、それで救われることがあるんです。僕はそういう人を知ってます……」
冷静に淡々と話すカズアキ。横で聞いていたサヤカは、真剣に話すその横顔がカオルのように錯覚して見えた。そして気がつくと涙が流れていた。
「あれ? ちょ、ちょっと水無月さん、どうしました?!」
サヤカは大丈夫ですと、ハンカチを出して涙を拭いた。
「先生、桜空さんの言う通りですわ。私もその一人でしたもの……」
「水無月さんが……?」
「私は高校に入ってずっと友達がおりませんでした。そんなとき、カオルが手を差し伸べてくれたんです」
「カオルさんっていうのは……先月事故にあった……」
「そうです。満島カオルです。私はずっと……人に見栄を張って友達なんていらないって素振りをしていました。本当は友達がいたらうれしいのに……。そんなときカオルに出会ったんです。日直で一緒になったとき、勇気を出して話かけてみましたわ。そうしたら彼は他の人と違い、私と自然に会話してくれてとてもうれしかった……。それで、もう一度彼と話したくて、毎日しつこく彼に近づくようにしたんです。でも、また見栄を張ってしまい自分から話しかけることができませんでした。そんな日がずっと続いたとき彼は、私と友達になれないのは自分が壁を作っているからだと自分を責めて泣いてくれたんです。それで私も、プライドが高い自分の悪いところを打ち明けました。そういう話をしていたら自然と友達になっていて……それから毎日、昼休みだけでしたけど、彼と話すのが楽しみで私はとても幸せでした」
サヤカはカオルを思い出し涙が止まらない。
「もし友達部ができたなら、カオルのような……そんな暖かい部になると思いますわ」
「水無月さん……」
「でも……私にできるかどうか……」
そう言った後、その場から立ち去るサヤカ。
「水無月さん!」
カズアキが声をかけるが、サヤカは職員室から出て行ってしまう。すぐに後を追おうとするカズアキだったが、ユメが腕をつかんで止めた。
「私が見てくるから、ここはお願い」
そう言って、ユメも職員室を出ていった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます